4. 初投げ銭
VTuberを支援するものの一つに投げ銭と呼ばれるものがある。
ファンがメッセージを伝える際に幾ばくかの金銭を投げ入れる機能のことだ。
大抵の人は小遣い程度の金額を投げ入れるのだが、全てを投げ出すまでする殊勝な人も存在するらしい。
ある日の配信のこと、エルナ、サーラのコラボで3D配信と呼ばれる配信があった。
通常の配信では上半身のみで、視聴者の方を向いて配信をしている。
一方で3D配信では全身像が見え、動きも鮮明に見える配信となるのだ。
上半身の動きだけ見ていても、ワクタクなのに、全身見えるとなると更なる感動を得られるわけだ。
配信が始まった。
二人はアイドル衣装の短めのスカートを閃かせながら、
アニメの主題歌や、過去のヒット曲を歌い、そして踊っていた。
エルナはいつもの配信以上に活発な動き、声出していた。
サーラは清楚系らしく、ゆったりとした動きと落ち着いた声を出していた。
歌い終わると、サーラはエルナに抱きついた。
エルナはまだ歌い終わってないから待ってよと言いながらも、
満更でもない表情で抱きつかれてた。
俺は見ていて胸の高まりが抑えられなかった。
二人の可憐さだけでも一杯一杯なのに、普段は大人しいサーラの方から、エルナに抱きついているのだ。
こりゃこりゃどうしたものか。
メッセージ欄を見ると、他のファンも大量に投げ銭を入れ続けているのが目に入る。
俺もだ。
"初投げ銭です。いつも応援してます。尊過ぎて泣いた。"
二人の関係性に関して初投げ銭を出したわけである。
ふぅ、と満足した。
何か胸の高まりが、落ち着いていき、不思議と満足感が広がっていった。
何かを放出した感がある。
投げ銭はそれっきりにするつもりだった。
ところが、その日を境に二人のコラボ時に狂ったように出すようになった。
いや、コラボ配信以外にも躊躇なく投げ入れた。
胸の高まりを放出しないと気が済まなくなっていたのだ。
エルナが「ペットに茶トラの猫飼ってくらしたい」と言ったら
"オレも飼って欲しい"
我ながらキモいと思いながらも、気づけば投げ銭付きメッセージを打っていた。
拾われる機会は増えるのだが、多くは流されることは言うまでもない。
ちなみにメッセージの差し出し名は「カフェオレ」に設定している。
初めて投げ銭したときにカフェオレを飲んでいたというのが理由だ。
投げ銭を加速するもののに一つに、名前の読み上げがある。
配信の最後や途中でお礼として、名前を読んでくれたりしているのだ。
好きな人が「カフェオレさん」と俺の存在を認めてくれる。
さらに何かしらのコメントを返してくれたときの喜び。
俺はやめられなくなっていた。