第1巻第2部第2節その18 「ミチユキ2」
【前回末尾より再録】
「えっ!? なにか言った?」
ギドンは微かに笑いながら、しかし何故か長大な溜息をついた。
「夕陽が見たいとか、金の葉っぱがどうとか、ぬかしておったとな、
おまえが言ったんだぞ、」
「あああ、そうね、そうだった、」
ウェスタは首を振り、そうして唾を吐いた。
「とことん馬鹿だわ、」
「どうした、なにを悩んでる、」
「別に、何も、」
「いや、悩んでおるな、父親のエイブはごまかせても
ワシの目は騙されんぞ、」
【続き】
「ねえ、ギドン、」
「なんだ、」
「あの子をここに預けたのはナゼ?」
「どおいう意味だ?」
「そもそもなんであの子を助けたの?」
「それは・・・ 」
男は言いよどんだ。背中の魔剣、ゲイルギッシュが微かに鳴る。
「あのまま、あそこで埋められときゃあよかったんじゃないの、」
男は無言のまま足を運ぶ。簡単に反論できるはずのことが何故かできない。
そして利き手の掌を見つめ、二度三度握り込む動作を何か他人事のように虚しく凝視している。
矛盾を矛盾と気付けない、この男としてはかなり珍しい、否、むしろほとんどあり得ない、こころの状態なのである。
「いやに足に来るな、大した坂道でもないのにな、」
男はまたちらりと振り返る。
アーモアたち、隊士とその従者たち、巡礼の曳く箱車、殿のデ・グリームたち、のろのろと、いかにも大儀そうに足を運ぶその様は、何か巨大なスズメガの終齢幼虫が
蛹化の適地を探し 迷い歩く姿と似ている。尾角を振る姿までそっくりである。(例の銀の杖あたり)
行列はウネウネと進んでいる。しかしもう間もなく終わるのである。この緩やかな坂を過ぎしばらくゆくとディグリンハムの切り通し、その向こうがセガムの鼻である。
「ねえ、教えてよ、ギドン、あたしとエイブは10年もあの子を育てたのよ、」
「わかっておる、」
「ならなぜ、」
「わからん、」
「正気なの?」
応えはない。焦れたウェスタは男の真横に追いつきその顔を見上げる。しかし影になり表情は読めない。
「まあいいわ、いまさら泣き言を言っても始まらない、あたしも、エイブもいい加減頭にきてたんだし、潮時っっちゃあ潮時なんだ、」
男は微かに笑い、見えずとも勘のいい小娘はカチンとくる。
「なによ!」
「いや、なんでもない、」
「なによ、いやらしい!」
「いや、紛れもなく親子だなっと な、」
「フン、クソオヤジどもが、」※1
娘は主君と父親をまとめてクソ呼ばわりしながらそれでも幾分気が晴れたらしい(そおいう性分なのである)、ほんの少し足取りが軽くなる。そして足元の土のまだらに黄色なことに気づく。
顔を上げる。ここからはちょっとした急坂になっており目の前には
開け放たれた門のように切り通しの黄色い土壁が
阿吽の門衛さながらに向かい合いそそり立っている。
辺りに繁るのは同じく金色のハリエニシダである。
黄金のミツバチたちも相変わらず忙しい。
ー そう、ここを・・・ 真夏の昼下がりだった、
あいつの手を引いて登ってたことがある、
あえいでた癖に突然駆け出して坂のてっぺんに立ち
振り返ってあたしをエラソーに見下ろした。
黄土色の壁に挟まれた抜けるよな青空、
アレの背中から入道雲が湧き立っているように見えた。
追いつくとアレは雲の形のことでなんか変なことを口走ったな
さっぱりわからんので蹴飛ばしてやった
あれは転がるように駆け下りて行き
走りながら笑ってやがった
あいつが笑ったのはそれっきりだったよな気がする
いや、ちがうか・・・ ー
*
ー ワシは絶対に承服できんぞ、こんなこと、絶対に認められん! ー
ー だからっ! あんたの出る幕じゃないっつっとるでしょおが! ー
ー お、おまえはそれでいいのか! おまえの主が、
いや、おまえの全てである愛し子が、
一生分の乳をやり育て上げたのは自分だと、あんなにも自慢タラタラであったこの子が、
いま、いまだぞ、こんなにも若い、美しい、ミソラで、
ミソラで、
ミ、ミ、ミソ、ー
ー やかましいぞ、おまえら、静かにしろっ! ー
ー いいや、黙ってはおれん、ワシは征くぞ、いま、いますぐ、
上昇し、雲を超え、
上昇し、
我が主を、
雲の彼方へ、お連れする、
これこそ我が絶対の義務、
そして世界に対する究極の恩恵、
そして我が力能の完全なる展開、
世界を支配する玉座として、ー
ー 言っとくけどね、いまのあんたにそんな御大層な力はないわよ、
やってごらんサイ、1セカントだって浮かないから、ー
ー む、まさか、おお、これは! なぜだ!? ー
ー 運命としか言いようがないかしらん、ー
ー なぜだ? うむ、しかし、これは、いまは、ワレ、ただの、箱車、
うむ、しかし、これはこれでいいのかもしれん、
それよりもだ、
おまえになぜわかる、ひとの潜勢力を判定するなど、デタラメすぎるだろうが、ー
ー いや、べつにわかったわけじゃないわ、そんな予感がしただけ、
でもそうね、強いて言えば、あれね、ドナドナの引っ張ってる綱ね、
あれで繋がってるかぎりって感じかな、ー
ー む、そうか、縛鎖か、
ドナドナ、あれは、
そう、ワシらとは違う存在だ、
まったく違う、そうか、あれが止めているのか、ならば、そう、
おお
このまま柩となることにも異存はあろうはずも、も、も、
もう、もおう、
い、いやだ、やはり、ダメだ、ここに、
切り離された、冷たい体を抱いたとて、
ソレが・・・・
永遠だとてなんになろう、
おおい、おおおーーーーい、アトゥーラ、聞いてるな、
聞いてるだろ、お前が一言、そう、メイレイしてくれさえすれば、
こんな縛鎖一瞬で破ってみせる、
な、なぜ ー
ー ああーーー もう うるさい
いま かんがえてんの だまってて ー
ー 何を考えることがある! こんな理不尽な判決、ひっくり返さんでどうする、
まったく呆れ果てた仕打ちだ、自分の娘も同然な、こんな幼子を、
嘘をついたというだけで処刑するだと!
まともな人間のすることか! しかもだれも!
反対もせん! 異議無し! ってか
こやつら、
ヒトの命をなんだと思っとるのだ、ワシは絶対に認めん、認めんぞ! ー
しかしアトゥーラはそれ以上は反応せず、ヤクザな箱車の至極真っ当な理屈を聞き流し、左手のイヨルカや、相変わらず口をヘの字に曲げたままのバスポラ、なにか微かに鼻歌を歌っているようなドナドナなどが、同じ理屈の線で一向に話に乗ってこないことには、ちょっとした引っ掛かり、
とゆうか、こそばゆいところがどうしても掻けないような、
妙な異和感を感じていたのである。で、自分のこころがほかの三人にはあけっぴろげな絵本のように易々と読まれているかもしれぬことにはまったく頓着せず己が思考の線を追求することにする。※2
しかし箱車の角度が変わり急な登りにかかったことがわかると目を上げた。そして切り通しの黄土色の壁を見た。
尻の下で、箱車がイヤに軋む。
*
黄色い壁の向こうに青空があるのだわ、
このコントラストは眩しいのだわ、
でも残念、真夏だったら入道雲が湧き上がってくるところ、
ははあ、あの上で、あねさまに蹴っ飛ばされたことがある、
雲の変態と悪魔のことを言ったんだっけ、あのときあたしはどうかしてたのかな、
一番大事なことはヒトにしゃべったらダメだって知ってたのに、
そう、雲が大事、青空も・・・
誰もそんなもの気にしないのにね、
あたしは自分のバカさ加減がわかって自然にわらっちゃう、
わらいながら駆け下りた、あねさまは変な顔してたな、
もういい加減、あたしのまわりに寄ってくるお化けや幽霊や
幻獣なんかが、あねさまの鈍い、
いやズブトイ神経にもコタエルようになってたんだ、
だって見えはしなくてもわかるもんね、
あいつらのアリヨオってば独特、ってゆうかデタラメだし、
幽霊のくせに椅子の脚にけっつまずいたり、
スカートの裾で糸車を回したり、
首筋がチリチリする感じ 風もないのに風がある
視界の端で何かが動く でもぜったいにみつからない
ははは そう いい口実なんだ
みんなあたしを殺したがってる
そうなんだ
ヤッカイモノなんだ
カタワだし
ヤクニタタナイ
ハハ
かろうじて
余興にはなるってか
ケッコウ殴っても蹴っても
泣かないし呻かない
じょうぶだしな
うごけなくなったことがない
でもだれもふしぎにおもわないのね
このじょうぶさ
このがんじょうさ
これはアレだ いまからおもうとイヨルカのせいもあるんだわな
わからんけど
ふふ でもあれだな
かんがえてみればあれだな
ヨキョウとしてはものたりないんじゃなかろうか
ないたりわめいたりするほうがたのしいってのがふつうでは?
まるたんぼうをけってるみたいってだれかいってたな
どうしてあきないんだろ
あきるだろ ふつう
むむ
ときどきおもいだしたようになぐりにくるもんな
こっちはなかないから あっちはふまんそうなんだ
でもあたしのかおをみるとなぜかなぐりたくなる?
いっしゅのびょうきかな
いやびょうきなのはこっちか
どっちもどっち?
あらら
はは ちょっと揺れるな ここむかしからデコボコみちなんだ
あっと 舌かむな いや かまんか
声に出てるのか そでないんか じぶんでもわからん
そうそう かろうじて なんていっちゃああかんのだった
たまにあたしがなんかゆうとみなギョッとしたよな顔するんだ
そんなときはとくにはげしくなったな
ヨキョウがな!
おおっと
急坂だな あれだ 美女のそりっ鼻みたく(逆位相だけど)
って だれかいってたな
きゅうにきつくなる
いろいろとな
美女ってのがわからんが ああそう あのこ お墓の間を
うろうろしてた どこかのおひめさん おひめさん?
わからんが まわりに ほぼ六角形に
ずいぶんトオマだけどね
おつきが ろくにん
ろくにんもごえい?してるんだ おひめさんだろう
にしては しゅみがおかしいが かげともろくにん
ろっかくけい うん へんなしゅみだ
あのこのはながそうだった かわゆらしい
でもとってもきつそうな
はは あのこのはなにきすしたらどんなだろ
あのはなのしたのすじが※3
とってもあざやかなほりで※3
ディーアレイのちょうこくみたいだったな※3
そのしたのおくちのちっちゃなこと
くちびるはぽっちゃりと
まるくて かすかにひらいてて
ちいさなすきまが
あれ のぞきたかったな
ちっちゃなしたがあるんだろな
ははは
さて ちょうじょう
あとはくだり
もうはながみえてくる おはかのいしも
あそこでくびをきられるんだ あたし
もういっちょくせん ひといきだ
ひかりのせかいともおさらばだ
ああ あ
あそこのノイバラの株まではまだだいぶある
ゆっくりかんがえよう
みれんたらしく?
イヤイヤ ミレンなんてないな
そおだろか
そおだろう
おお
そおだ
このままいきてても
どおせいつかはころされるんだ
たぶん いや きっと
ひどいころされようになる
なんとなくわかるんだなこれが
さっきもね いきたままきりきざみたい
はらわたをぐちゃぐちゃにひきずりだして
とか もっとひどい いろんなことを
そうぞうしてよだれくってたやつがいたな
わかるんだなこれが
わかるんよ
もうなれっこだが
あんなやつらにさんざおかされてから
(やつら なにするにしても まずはおかすからな)
ころされるのはやだな
やっぱりしょじょのまましにたいな
って あたしってしょじょだったっけ
どなどなはほしょうしてくれたけど
そうだ
かぞえてみようか
まずはじーな
これはおんなのこだし
しゅりあな あのこもおんなのこ
ああ あのこと あそこのほん
ぐるっとおへやをいっしゅうしてた
500さつくらいはあったかな※4
みんなよんでみたかったな
そ それから
どぅーなさま
あのこ じゃねえや あのかたもおんなのこだし
ぐれおさんはしょうたいふめいだし
ばすぽらやぺーむだーや
あれたちはみんなおおかみだし
どなどなさまは まあ
よおわからんけど
おまえはしょじょだっていってくれたんだから
じぶんはかぞえんでもええぞ ってことだろしな
うん しょじょだな
まちがいない
てことは
いまここでしんどけばね
あんの どろにんぎょうども
あやつらの
どぐされ○○◯○なんぞ※5
からだのおくまでつっこまれたりせんでもすむわけだ
あれだけはごめんだ
でもしんでからはどうだろ
あいつらしたいでもおかすからな
つーかしたいのほうがすきってやつもいるからな
でも まっ いいか しんでからなんてどうでもいいか
こんなからだどうなろうとしったこっちゃない
あ いや ほるきすがおこるかな
おおい ほるきす あんたあたしの永遠之寝床(トワノネドコ=ヒツギ)になってくれんでしょ
ちゃんとまもっててよ
んなことおれはしらんね
つれないのね
おれはね いきてるおまえをまもるためならなんでもするがね
くびとどうがちょんぎれたままくさってくからだなんてな
はっきりいってまもるきにならんな
そおいわずにさ ね ちゃんとまもっててくれたら
ひょっとしてまたつながってふっかつするかもしれんじゃない
ほら ばすぽらのれいもあるしね
そうなのか
まあねえ こいつら ちょっと いや だいぶ とくしゅだからねえ
ほしょうはできんけど
そんなことよりもいちどきくぞ
アトゥーラ
おれといっしょににげるきはあるか?
そおねえ にげたってねえ すぐつかまるだろうし
つかまったらもっとひどいことん なりそうだし
いまこのまますんなりきられちゃったほうがねえ
ずっとらくだとおもうのよ
ああっと
もうノイバラさんすぎちゃった
でもまだダイジョウブ
そう こんどはあのエニシダまで
まだひゃっぽいじょうある
ちょっとずついこう
ああ えっと
そう ホルキス
あんたずっとワシっていってたのにいまはオレなのね
わかがえったの?
なんかいやにヒトくさくなってきたけど
どしたの? まさかあんたまで
ヒト化してあたしをだきたいって
おもってるの?
でもイヤよ
アレはイヤ
バスポラなんて小僧っ子のくせに
ひどかったんだから
それはひどかったんだから
にんげんってへんたいよね
あたしもだけど
あら もう すぎちゃった
きんいろのはなよ さようなら
でもだいじょうぶ
あそこにみえてるせのたかいやつ
たけにぐさかな
あそこまで
はっぱがひらひらして
てをふってるみたい
さいごのあいさつ?
みれんかあ
やっぱりもうちょっといきてたかった?
シュリアナともっとあそびたかったな
あのへやでいちにちほんよんだり
あのまどからセカイをみたり
ああーーーあ
もうだめか
ジーナとも ドゥーナさんとも
せっかくなかよくなれたのに
なれたかもしれんのに
ざんねんむねん
むねん?
そなのか
むねんか
もうちょっとれいせいにかんがえてみよう
おお たけにぐさくん
おやもうハナメかい
きがはやいね
そうそう れいせいにね
まずはこれ
くびだけのバスポラだ
こいつがすましかえってる ってこと
ペームダーがヒバリになってること
ドナドナさまがそう
きほんおなじだけど
ぜんぜんすがたをかえて
いまあたしをひっぱってる
でもこれみんなあたしのめでみてるおはなしだってこと
サンガイユイシンってか
つまりはゆめかもしれないってこと
そう まえもゆった
あたしがダヌンをとびおりておちたとき
あたしはもうしんだんだと
あれからはぜんぶあたしのゆめなんだと
じごくにおちたあたしが
じごくでみてるゆめなんだと
なんかなまなましいけど
ゆめなんだと
そうおもうとね
これはなんでもありなんだ
そうおもうとね
くびきられても
なんとかなりそうな
いっかいきられてみるのも
わるくはないってか
バスにじまんできる
てか
ははは
そおいうことか
ゆめならば
ゆめならば
なにがおこってもふしぎじゃあない
でもいたいのはやだな
ゲイルギッシュならイタクない?
イタイ?
ああギドンなんでなの
なんであのこをつかってくれないの
あのこなら
そう
しんわのじだい
ふれただけでマモノのくびがコロリとおちた
いたみをかんじるヒマもない
そう
それがりそう
はは
おちたアタマをけっとばす?
いやちがうな
ギドンがふみつぶしてくれる
あのブーツのそこが
てつのいしがめみたいなかかとが
あたしのアタマをコナゴナに
ああ すっきりだ
あああ
カクネンと
ひらけたな
もうめじるしがなにもない
おおきなそらがひろがった
ひがしのハナだ
はるかとおくに
まるいゲレンギン
あそこでチラチラひかってるのはなんだろう
いってたしかめてみたいな
ああでもそんな時間はないのだった
そうよねギドン
*
西日にはまだ早い、真正面からの日を浴びて
巨大な男が、あたかも全てを遮る壁のように
立ちはだかっていた。
おかげで墓石が見えない。これも日を浴び、暗赤色に輝いているはずなのに。
男の背負う魔剣の柄が、いや正確にはその周りの空間が微かに歪んでいるように見えるのはなぜだろうか。
男はゆっくりとかがみこみ、手を伸ばす。人差し指と中指が片目の小娘の口元を
なぞるように、だがいささか荒々しく拭き取った。
「なんだ、どおした、よだれだらけだぞ、」
男は指先を当然のように口に含み、そのままその手を剣の柄にかける。
無意識に感じ取っていただろう、剣の振動を抑えるためには
片目の小娘とおのれの唾液の混合物が絶対に必要なのだとでも言うように。アトゥーラもまた無意識に、その長い舌先を使い口元をほぼ一周、ゆっくりと舐め、そして唇を噛んだ。
「もう着いたのね、」
「そうだ、降りろ、」
「むりみたい、腰がぬけたかな」
「情けないやつめ」
「おろしてください」
「あまえたことをいうな」
「さっきみたく猫つまみじゃなく、両手で、やさしく、抱き上げてください」
「なんだ、急にどうした」
「ギドン様」
・・・
「あたしやっぱりこわい」
男は取り合わず一瞬のうちに小娘を抱き上げくるりと向き直る。
そして震える赤髪の頂点に自身の顎を乗せつつゆっくりと大地の上にひきすえる。墓石の前にはいつの間にか設えられた粗末なマットがあり、その上にひざまずかせたのである。※6
【原注】
※1 このやり取り、いな、以前よりずっとこの二人の会話はこんな調子である。領主とその臣下、主と下僕、絶対的身分制度の下ではあり得ない会話である。故にこの二人の関係の特殊性を洞察する必要があるわけである。
※2 厳密には識閾上に言語化された思考のみを読む、というよりは感じているというに近い、
当然言語化以前の茫漠としたアイディアーや、未分化の感情因子などは読み取れない、はずである
※3 人中のこと 人面を構成する彫刻的美の文字通り中心点
※3 そして解剖学的、発生学的にも中心点(接合点、終着点、完成点とも)
※3 そしてエフライム・Mによると、ギリシア彫刻の中心点
※4 200冊だったという記録もある
※5 ○○○○ イン○イと書かれていたのを確かに見たという証言があるが疑わしい ○ンボコ とも。 どちらにしても幼い女児の語彙にはふさわしくないが環境が環境なだけに弁護しづらいところがある もちろんイヨルカの影響は大であろう
※6 マット 水辺に生えるイグサ類を干して編んだもの、所謂茣蓙の類に近いが製法はいろいろ、これはウェスタのお手製らしい
【後書き】
「いよいよです、」
「なにが、」
「だからアトゥーラの最期です、」
「まだわからんだろ、」
「そです、わからんのです、どおなるんでしょおか、」
「おまえがきくな、ヤツはどこ?」
「それがまたどっかいっちゃったみたいで、なんか遺跡巡してくるとかなんとか言ってたよな気がする、」
「どおせあたしらの会話に聞き耳立ててんだろ、悪口ゆうたらまたぴょこんと顔出すんじゃないの、」
「それはあんまりしたくないっていうか、いまここでヘソまげられたらえらいことになりそうだし、」
「ヘソって、あいつにヘソなんてあるんか、」
「おねいちゃん、そこはツッコミどころじゃなくてね、」
「ええかげん、アレのオモリするのもしんどなってきたな、」
「こらあ、ダレがしょんべんタレの糞餓鬼だとおおお!」
「デタアァァァ!!」
「あんた、いちいちカクレンボするのんやめれんか、」
「ここな女二人、よるとさわると人の悪口か
そーでのおてはワイ談か、気にせんと素通りできるほどワシは聖人ではないぞ、」
「悪口はともかくワイ談ってなによ、」
「ワイ談ならまだしもよ、それどころかヨルトサワルとイチャイチャしおってからに見苦しいにもほどがあるわい、」
「「あたしらがいつイチャイチャしてるってええええ!!」」
「そこじゃ、そこっ!!! ナメクジみたく ぴっとりはり付きおって、
いちいちくっつかんと話もできんのか!」
「ナメクジはひどいんとちゃう(いやちょっとあの体勢っていうか、体位には興味はあるけど)、っていうか、いえ、ちょっとまって、
ちゃうでしょ、ときどきちょっと手ぇつないだりしてるだけやん、」
「いやいや、手つなぎこそ、性交の第一歩、いや最終形態でさえある、最重要の」
「こらこらこらこら、なんの話になってんの、
セエコオとかゆうな! アホーーー!!!」
「せやせや、あたしとおねいちゃんはそんな爛れた関係やない、
世界一純粋な、じゅんすいいぃーーな 純粋姉妹関係やねんから!
そおやんねえ、おねいちゃん!」
「・・・」
「な、なんで黙るの、」
「い、いや、ちょっと考え事をな、そう、うん、じゅんすい、
しまい、しまい? 最終? 終い=オワットル?」
「ちょ、ちょ、ちょっと、おねいさま、そ、それは
それはなんの考察のナレソメ!? いえ、とっかかり?」
「ま、まあ、ええわ、ちょ、ちょおっとな、来し方行く末をな、」
「おまえたち、」
と、超時空蟋蟀。
「ワシになんぞ聞きたいことがあったんぞや、早く言ってしまえ、ワシは忙しいんじゃ、」
「そ、そ、そ、そ、そうでした、あたしが、いえ、あたしたちが聞きたいのは、アトゥーラの運命が一体どうなるのか、じゃ、じゃなくて、そ、
そうじゃなくて、こ、このお話の、紡がれよう、じゃなくて、生成過程、じゃなくて、ああ、ええと、」
「こらこら、あんたまた朝から飲んでるやろ、ええかげんにしときや、」
「おねえさま、それはちがう、あたしはいってきものんでへん、
ああたこそ、いっしょうざけのよくあさケロッとなにくわぬかおしてんのもうほとんどウワバミのあさざけどうとう、どう、どう、お」
「アホはほっといてぇ、そう、聞きたいのはやな、」
「よいからはよ核心を述べよ、」
「あんたの書きようについて、いささか疑義がある、そのことや、」
「続けよ、」
「そう、ここんところのあんたの書きっぷりを見てるとやな、そうとうフラフラしとる、迷いがある、っちゃああ、聞こえがいいが、かなりデタラメや、で、あの草稿の山をひっくりかえしてみてもやな、大筋はほぼかわっとらんとしても、細部も、表現も、えらい変わっとる、ほとんどベツモンっつってもええ、これはなんでや、」
「その話は前にもしたな、草稿に欠落が多い、記憶も曖昧、よってほぼ書き直し、いな、再創造となる、とな、」
「でも これは変えすぎやろ、」
「それは当然じゃな、再創造つったじゃろ、しかも今のワシはネットに浮かぶ最強状態、いかなる可能性をも許容できる、が、それゆえに迷いが生じることもまた事実ではある、」
「ゲエムのシナリオ分岐とか、そこまでゆかんでも裏版、オモテ版とか、そおいったとこに目移りしてフラフラしてんのやろ、」
「それは無い、そんな安直な世界線分裂、小手先の世界改変などとは全く無縁の事態の中にあるというのが正しい、だが・・・」
「だがなによ、」
「だが、このアトゥーラの運命に関してはまた別次元の問題が生じている、」
「へえ、どおゆうこと?」
「それはここでは話せん、」
「もったいぶりな、話しておしまい、」
「無理だな、汝らには理解できまい、」
「だいたい想像はつくで、」
「ほう、言ってみろ、」
「まあ、あれやな、わかりやすく言えば、あれや、ピラミッドの最頂点と最底辺、そのへんの話やろ、」
「ぜんぜん違うな、おい、根子ドン、そんなとこで居眠りこいてんと、続きの原稿の推敲にかかるぞ、」
「え? なに? クリスマスケーキの話?」
「あほか、今日はまだハロウィンじゃ、」
(こいつ、誤魔化しよったな)
・・・ ・・・ ・・・
一時間後、朝食をすませたアタクシはおもむろに今後の予定を述べることといたします。
まず、前回も申しましたがリアルが年末進行に突入しております。
それから、こんなことシンクロせんでもええのに、終い、じゃなかった、
姉妹そろって体調不良、よって姉妹そろって内視鏡検査等のややこしい予定がつまってしまいました。
で、年内ほぼお休みが、軒並み全滅してしまい時間が足りません。
結論として、月一更新が難しい状況です。
肝心要な場面を前にして誠に心苦しいのですが、どうか
お気を長ーーーくお待ち頂けましたら幸いです。
年越しが無事できることを祈りつつ、
ではでは、おやすみなさいませ。
朝やで。
20251031




