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第1巻第2部第2節その08   「炉部屋の風景 続き 嫉妬と欲望の綯い交ぜが・・・ 涙[涎]を流す その2 」

こちらはこちらでデザートスプーンの銀の曲面に見惚れているフリだったが、

ほぼ純銀に近いクロド鋼混じりの逸品であり、実に不可思議な意匠、細工ものなのである。

で、そいつを裏に表にヒラヒラさせ、矯めつ眇めつ、時々舐め直したりしながら(誰かに、行儀悪い!とタシナメられるのをほとんど期待しているかのような? いな、それはそれでなんとはなし都合がいいと?)、

だが実際的にはかなり抜け目なく、この突発的な妙な茶会の面々を密やかに観察し続けてもいたらしい。

なかでも興味の中心は向かいのジーナの隣に座り、なにかとつっかかる素振りを見せている金色の少女、ドゥーナ・カンシスタと呼ばれた、よく日に焼け、しかし妖精めく美貌の持ち主であり、ジーナの半分くらいの背丈が災いし最初に供された椅子が低すぎるので仕方なくドナドナの椅子と交換せざるをえなかったという、いささか屈辱的な経緯があったにもかかわらず、明らかに一座を支配する威厳に満ちた雰囲気を身にまとっている、いまやほとんど毒舌の化身と化したような少女なのであった。

「まあしかし、完全に見違えたのは、そう、無理もないわね、で、」

小娘はやや顔をしかめながら茶を一口すすり、だが恐ろしく優雅な手付きで茶碗を戻すと添えられた濃緑色の、方形の茶菓子、所謂「羊羮」と言うヤツにナイフ※1を入れる。そして自身のごく小さなおちょぼ口に丁度よい大きさに切り分けるとそのひとつをナイフの先端にのせておもむろに口に運ぶ。

「とても美味しいわ、シュリアナ、」

ほとんど全裸に近い侍女は黙礼するのみ。

「で、いつもの、あの無粋な鎧一式はどこ? 

あたくしにはアレが見えないと一体どこのどなたが、

何を押し売りに来たのかさっぱりわからない、

というか、」

と、金色の花の精にも見紛う小娘は畳んだナプキンを優雅に使いながらたいして汚れてもいない口許を隠す。

「で、そもそも、あなたに指図などされる謂れはないのだけれど、ここまであたくしを追ってきたということは何か特別な事情があるのでしょうね、」

アトゥーラは賛嘆の表情を浮かべながら、食べ方がわからずまごまごしていた茶菓子の処理方法(アツカイカタ)をようやく納得できたので集中していた注意を横のジーナに戻した。そしてその左腕の次元妖斬刀が既に尋常の人間的な腕に戻っていることをもう一度確認して少し安堵する。それから見よう見まねで羊羮を切り刻み口に運んでみた。で、これまた異次元の味覚が口中に拡がることに真底感動してしまう。そんなこんなで主人(ホスト)の問いかけに反応することが約5秒ほども遅れてしまうのだった。

「あた、あ、あたすぃは、」

そして噛んでしまう。

「おいおい、落ち着け、それからちゃんと食ってからしゃべれ、」

テーブルの端、グレオファーンの真向かいに陣取ったバスポラが混ぜ返す。

「う、うるさい、え、あ、ごめんなさい、あたしは、あたしの名は、

アトゥーラです、」

「アトゥーラ殿 ・・・ してみると、ほほう、いや、ああそうか、

銀猫亭のサラザン殿のムスメゴかな、」

「違います、あたしはムスメじゃありません、ただの下女なんです、」

「では、ウェスタ・サラザン、あのじゃじゃ馬はあんたの姉上ではないのかな、」

「姉様は姉様なんです、姉様って呼ばせてもらってますけど、ほんとの姉様ではないんです、ほんとの姉様だったらどんなに・・・」

「ほう、どんなに?」

「ほんとなら、どんなにか よ、でもそれはダメなんです、」

「なぜかな?」

「拾い子だから、

全然役立たずの、カタワだから、」

「役立たずとカタワは、等価ではない、それに見たところあなたの体に欠損はないようだが、」

「左目と左手は借物(カリモノ)なんです、さっきまではなかったの、」

「そうは見えませんぞ、」

「そ、それはこの人が、その、なんでも作れる人だから、え、え~と、

ド、ドブ、ああゴメンなさい、ドオゥ、ド、ドナドナ様」

隣の人形師は軽く右手を振り反射的に怯えた風のアトゥーラを制した。

「よいよい、気にするでない、それは単なる酔狂なんじゃ、なにも負担に感じることはないぞ、」

「あ、あの そうじゃなくて」

「おお、思い出しましたぞ、どこかで聞いた名前だと思っていたのです、そうか、そうでした、

ドナドナ・・・ ドナドナ殿、

萬物の傀儡師、

神をも凌駕する遍歴の魔導人形師、

人界に出現すること稀にして」

「いやいや、それは人違い、なにかの勘違いでござろうの、

ワシはそんな大仰、御大層なモンではない、

ただの遊び人(五座の巡礼者)じゃ、」

「ま、それはそれとして、」

黒衣の主人はあっさりと話題を変える。

「そこのお二人はずっと喧嘩をなさっているように見えるが、なにかお力になれますかな、」

「大いに有りだ、そのために談判に来たわけだが、

こいつが話にも何も」

「あたくしが申し上げたいのは、ただひとつ、実りある話がご所望なら、まずご自身の潔白を証明なさらないことには始まらないということですわ、」

「潔白? どういうこと?」

金色の少女は両手を組み合わせてテーブルの上に置き至極優雅に、しかしピシリと背筋を伸ばしている。そしてチラリとアトゥーラを見た。

「まずはそこの女とはどういうご関係なのか、正確に、順を追って、説明願いたいものですわ、」

「そんなこと、今の話には全然関係ないわ、」

「そうはまいりません、」

ドゥーナは今度はほんの瞬間的にだがグレオファーンとドナドナを等分に見比べた。

「あなたは一度あたくしに騎士の誓いを立てた。唯一の騎士であると、

まさかお忘れではありますまい、」

「む、むろん、」

「では、その誓いの第一条(ゼッタイコウ)を言ってごらんなさい」

「二君に使えず、ってアレよね、」

「違うでしょ、神聖な誓いを反古(アイマイ)にする気?」

「あ、ああ、貞節の誓いね、そう、そうだった、」

「それでなにか言い訳することは?」

「特にないわね、」

「では、さっきその女があなたにナメクジみたいにベタベタへばりついてたことはどう説明なさる気?」

「単なる、親愛の情の表明かな、」

「言ったはずよ、順を追って、最初から説明して!

その女とはどこで知り合ったの?」

「まったくの偶然ね、行きずり、じゃなく、たまたまこの子が手術の痛みに堪えかねているところにアタシが通りかかった、で、アタシの針が丁度麻酔の役に立ったってこと、それだけよ、そういえばアンタも同じよね、

って言うか、アタシより先にアンタの針が使われてたって話よね、」

「順番で言えば確かにそうでしょうね(あなたが執念(しゅうね)く追って来てたのはわかってた)、でも、それでこの状態の説明にはならないでしょ、」

「いいえ、十分でしょ、なにか問題でも?」

「大有りね、アタシも確かにこの子に針を使った、じゃなくて、強制徴用されたって方が正しいかな、でも特にこの子にベタベタしたいとは感じてない、今はね、この子がどう思ってるのかは知らないけど」

「あ、あたしは、ドゥーナさん、あなたと友達になりたいって思ってるわ、身分違いなのはわかってるんですけど、」

アトゥーラがおずおずと口を挟む。

「そう、そうね、もう縁があることは確かなんですから、

もちろん、考慮の余地はあるわよ、でもジーナとの話はまた別問題、」

「ジーナさんはアタシのはじめてのおともだちなんです、それでとても嬉しくてついつい抱きついちゃって、迷惑だって怒られるのはわかってるんですけど、」

ジーナは真向いの少女の、ややおぼつかなの援護射撃(イイワケ)に感謝の念をこめた目配せを送る。

しかし金色の小娘はその素早い視線のやり取りを不快そうに一瞥し

「それでも、あなたの触り方はちょっと度が過ぎてるわ、

この人間の体では特にね、

あたくしが言っているのは人間の恋人同士の体の使い方のことよ、

あたくしはとても若いとき、そうまだ幼かったけど、あれを見てとてもショックだった、」

「ほらみて、言わんこっちゃない、結局あんたの誇大妄想なのよ、いい迷惑だわ、」

「黙んなさい、ええ、いいわ、もう一度聞く、

あんた、この子と寝たんでしょ?」

「あり得ない」

「嘘ね、あんたのその言葉遣い、聞き飽きてるのよ、ふん、

じゃあ、こっちにも聞こう、あなた、アトゥーラさん、」

「は、はい、」

「あなた、ジーナと寝たの?」

「ええ? え、いえ、寝たっていうのは違うんです、そんなんじゃない、」

「アトゥーラ! あれは!」

「そう、そうです、あたし、手術台の上でガッチリ固められてて、

全然動けなかった、ねえ、バスポラ、あんたも噛んでたわよねえ、

そんときジーナさんが上に乗ってきて、えと、それから、

えと えと それから

手術の仕上げをするっていうのか

ジーナさんのアレが体の奥に入ってきて、すごく痺れちゃって

気が遠くなって、あれを「寝た」って言うのかわからないけど、

でも、あたしを抱いてるのって聞いたら違うって言ってたし、

浮気じゃないのって聞いたら全然違うって言ってたし、」

「そう、よおーーくわかったわ、」

ドゥーナは平然として頷いた。ジーナは絶句している。

「それで、なにか言うことはある?」

勝ち誇った顔付きで金色の小娘は二人の罪人?を凝視していたが

すぐ真顔に戻り異常に深い溜め息を一つついた。

そしてまるで邪気のないアトゥーラの広い額、ついさっき自分の針が貫通した※2左のこめかみのあたりを(輝く赤髪でほとんど隠されてはいるが)何故か不思議に、愛おしげに見た。

その両手はいつの間にかテーブルの下に潜り、ほとんど無意識の裡に己が

懐剣(マモリガタナ)、凄絶優美の曲線を描く小偃月刀の鞘を握り締めている。金色の薄い上衣が汗で貼り付き下腹が微かに波打っているのがわかる。

「何も言えないのね、ま、そりゃあそうか、いろいろ聞きたいことはあるけど(それとか、あれとか、そういった、あと、そう、

体の構造とか特にね)

でもいいわ、

アトゥーラ、あなたに免じて赦してあげる、」

いやにアッサリと、金色の少女は矛を納めた。

「ち、ちょっと待て、あたしは浮気なんてしてないぞ、なに勝手に納得してくれてるの!」

「あなた馬鹿なの?」

ドゥーナ・カンシスタが露骨に見下す視線を振る。

そして今にも自分に飛び掛からんばかりの体勢で中腰になり、微かに震えている左手を無理矢理テーブルに押し付けているジーナに対しきっかり90度の回頭で向き直った。相手の半分にも満たない小さな体にはしかし異様な活力が漲り1セカントといえども引く気配はない。

「それとも、いまここで、あなたの浮気ではないっていう体位を再現してもいいって言うの?」

「なん、なにを言ってる?」

「あなた、さっきのグレオの話を聞いてなかったの?」

「グ、グレオ、」

「ここでは全てが、文字通り全てが再現可能、実験可能ってことよ、」

「な、なにが」

「それとも、このあたくしが、

今、

ここで、

アナタノアトゥーラさんに

おんなじことをしてみてあげましょうか? 

浮気かそうでないか、明晰判明に、

そう、ここにはその判定にもっとも熟達してる、達人とも言える方がいらっしゃるんですから、」


「まあまあまあまあ、お二方とも、なにもそう極端に走ることはなかろうとは思いますぞ、」

グレオファーンは残ったゴブレットの中身を一気に流し込んだのだがすぐにむせたようだ。喉をごぼごぼ鳴らし始めた。シュリアナがあきれたように、しかし素早く慣れた手付きで横合いから、背中というか腰のあたりをさすっている。そうしてすぐ前に回り膝の上に跳び乗った。椅子が大きく揺れる。

膝立ちのまま精一杯背伸びして主の口のハタを拭こうとするのだが先程と違い足場の不安定すぎることとなぜか非協力的な主人の動き

[手で支えてやることもせず、加えて相変わらずひじょうに細かく左右にぶれる体幹がロッキングチェアの振動とは別方向の運動次元(ベクトル)を加えるので]

も相俟ってなかなか上手く行かないのである。

しかしそんなシュリアナのどことなくアワアワした、それでも全く冷静な手捌きと巧みな重心の取り方は大変微笑ましく可愛いのであった。

ただし、問題なのはその後ろ姿、身に付けた○プロンの特性(デザイン)上、小さな丸いお尻も、その中心の一点も完全に丸見えになっているわけである。

ドゥーナはすぐ目の前に展開されているあられもない光景から目を逸らすことができない。

「まあ、なんてハシタナイ! ヒドすぎるわ! エロすぎるわ!」

今度はいささか要慎しながら誰にも聞こえないように口中で呟いた。

しかし言葉とは裏腹に目線は釘付けなのはどういうことだろうか?





※1ナイフ ナイフと訳されてますが実際は黒文字楊枝に近いもの。但し純銀製。もちろん使い捨てではないのです


※2貫通した むろん貫通(・・)したわけではないのでちょっとおかしいのですが原文通りなのです、けれど訳してて思うのですがシャリーさんの言葉使いには時々裏や裏の裏、その他ひねくれ気味のネジレなんかがありだいぶんあとになってアレそういえば、なんてこともありますので油断できません


後書き

また、変なところでチョンギレです。

内容もアヤシイ? この先どうなるのかかなり心配です。

このあいだ、シャリーどんと姉上がなんか真剣に話し合ってましたが

双方、相づちの撃ち方がなんか変、というかヤバイ感じで私といたしましては

ナゼかとってもイヤな予感がするのです。

閑話休題、

このヘンテコなお茶会まだ始まったばかりで、すこしも本題に入っておりません。もう少し、いえ、かなり長くなりそうなのですが、

こちらのリアルもかなりヤバイのでまたコマギレの更新になってしまいそうです。申し訳ないです。

・・・

シュリアナさん、ひどいことにならないといいのですが・・・

日本語との語呂合わせは偶然と思いたい今日このごろ・・・

(もちろん、文殊様からの私の勝手な連想なんですが・・・)

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