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第1巻第2部第2節その01   「森の中」


ツト  ツト    ツト


・・・ ・・・ ・・ ・・ ・  ・


アタシはこのオデコがキライだ


ツト     ツト


・・・・・  ・・  ・


そうやってテッペンを突っつくのだ


ツト



・・ ・・・


一度鉄の手で鋏まれたことだってある

出っぱりすぎとかなんとか

(あの鉄腕の二つ名、なんてったっけ)


ツトン


・  ・


もーーうるさい

ほっといて!

いい夢を見てたのに、

見てたのに!

邪魔するのは誰?


ああ、そうか、アタシには

そんなエラソーなこと言う権利なんかないんだった

もう死んだんだった、

死んだはず、

死人には何の権利もない、

ただ腐って行けばよい、


そう言った


誰だっけ?


ああ、やっぱしうるさいな

なんの雫だろ、

カエルかな

あれのヨダレはけっこう強力だからな


あれ、


キツツキかな


あたまにひびくぞ


くほおーーん  おおーーーん


まっくらだ


目があかないな


鉛の蓋という奴か


銅貨が一枚、二枚、というやつか



灼いた銅貨で目を潰す

そんな拷問があったな

おまえはもうにどとみてはならぬ

ってか

でも芸がないな

あとあじもわるい

それよりあれだ

まぶたを魔針で縫いつけるほうがいいな

やりっぱなしじゃない

かっこたるいしをかんじるし

みためもかっこいい

って なにいってるの


蓋だよ 蓋

鉄の蓋

重い


重くて死にそうだ

って

なに言ってるの

死んでるのに

こっけいね


ああでも ゆめをみるのはかってよね

そう また あの庭へ行こうかしら

とっても変なリンゴの木が一本

なんかヘンなアダ名がついてるの

かわうそ ねえぇ

おったーーー ねえぇ

花盛りのリンゴの木

そして ちっちゃなバラが一株

一重の、ちょっとちぢれた はなびらが

白い花・・・

風に震えてる


[これは、完全な、透視なのだが、いまここでは全くの意味不明なのである]


ここに やっぱり 三人の乙女ってわけ

あれ? もうひとり?

あと やっぱりロバが一頭しょぼくれて立ってる

ふふ、

定番(キマリ)ね(・・・歩く薔薇の木・・・)

くふふ

またまた三人の乙女?

乙女っつってもねえ

ひとりがねぇ

ありえるかな

ありえるかも・・・


ヘスペリデェーース?

寝てるの?

それじゃあ番人は無理ね


チッタン!


あ ちめたい

りせっと?



目が開くと

そこは森の中だった

なんてのは

ゴメンだわ


ははは


でもでも


そんな予感はしてるんだ

アタシの勘はあたるんだ

しょーむないけど

あたるんだな これが


「おーーーい アトゥーラ

いつまで寝惚けてる?

昼飯前だぞああ腹へったぁーーー」


誰か呼んでるな、

不粋だな


突然

森の天蓋が

緑と金の

囁く丸天井が

落ちかかってくるように

目の前が

開けるのは

かんにんよ



「ここはどこ?」




かんにんよっていってるでしょ!!!

あああ、なにかオデコの上に止まってたのにフイッと消えた!

重さがねぇ

かけことばよ

(なんかなつかしい痺れるよおな翅音(ぶぅーーーんっておと))

そして目の前に

毛むくじゃらのちっちゃな顎先が

やっぱり?

そして

ヨダレ!

が一滴

鼻の頭に!

ポッツリと!


バスポラ!?!?


ルルゥウウッ!!


「グゥガウッ!!!」

小娘が飛び起きるのと狼子供のじゃれかかるのはほぼ同時。

そして二人? は約5.5秒ほども堅く抱き合っていたのだが直ぐに離れた。

いやむしろ小娘の方が腕を突っ張り毛玉のような相手を無理無理遠ざける。

その左手は、手首の上6セカントにくっきりと分離線を描き青白い肉身と輝く銀の義手に分かたれている。しかしその手はもはやなんの遠慮もなくぬるぬるとなめらかに動き相手の右耳の後ろ、鬣に似た、逞しい毛のひと房を鷲掴みにする。右手は顎下の短く柔らかな毛を愛しげにまさぐっている。いつまでも、いつまでも、撫でまくろうとしているが・・・

「こらこら、いい加減にしろ、」

狼子供が低く唸る。小娘は頓着せず口の(ハタ)(めく)りあげ輝く牙の列を剥き出しにしてみる。

「これこれ、このかたち、で、どおだった? おいしかった?」

「なにを言っとんだ、てめえ、寝惚けてるのか?」

「ひとのからだを散々食い散らかしといてナニその言い草!」

「なんのことかわからんな、」

「あっそう、そんなこと言うんだ、」

小娘はバスポラの鼻先にキスしながら目を伏せた。地面の小石一つ一つが異様にくっきりと目に映る。回りに散開する苔や粘菌の群体、地の尖兵としてそよぐ下草の様子にため息をつきつつゆっくりと立ち上がった。

ちょっとだけ腰を捻り服装その他を確かめる。すべてウェスタのお下がりの、ボロめく胴衣(ボディス のようなものだが、六分のお袖付き)と名状しがたい複合素材の、重たげなスカート(しかし実際は風のように軽いのだ・・・つまり擦り切れ尽くしているのだ)、崩壊間近のサンダル、なにもかもさっき裏の納屋から出発した時と同じ、

(しかし、全体に、どこか微妙に湿っぽいのは何故だろうか)

どお見ても、モノ乞いか、浮浪者に近い、これ見よがしに哀れっぽい姿である。

「なんだこれ、スカート、こんな短かかったかしらん、」

チョイと裾をつまみあげ、ストンと落とす。踝にかかるほどのはずがふくらはぎの半分にも届かない。

「ま、いいか、三つくらいのとき急に大きくなって気味悪かったって、ウェスタ姉さんいっつも怒ってたし、三年間、毎年3セカントずつ縮んでった、てなこともってぇぇ・・・

いやいやいやいや、」

アトゥーラは胴衣の胸元が少しキツイのと、うっすらと怪しいシミ跡の残っているのにも気付いたがあえて無視するようにあたりを見回した。

どおみても森の中である。首吊りの木とも呼ばれるアラガシワの大木が鬱蒼と繁り薄闇と言うには濃ゆ過ぎるやや怪しげな木下闇(ミドリノヤミ)を醸している。はるか後方、100メルデン以上も彼方にかなり大きな光の点が見えるがチラチラと変動し一定しない。あれがシルバ・シルバの門のようだ。ここまで一直線に、あたかもゴシック大聖堂の身廊の如き大空間が貫通しているが天井の交差穹窿(リブ・ヴォールト)を形作るのは奇怪にねじくれたアラガシワの大枝であり無限の側廊を支える列柱の数々は瘤だらけの、これまた悪魔的に変形を続ける大樽のような無数の幹が一瞬の号令でやむ無く静止中という見てくれである。ほとんど光は射さず時折金の鱗粉が舞うように目に見えぬ魔神の手がちっちゃな柔らかな影を踊らせるという風情。ところが木々の葉はその一枚一枚が完全な、確固たる意志を持っているかのようにほとんど、いや完全に動かない。広大な天蓋空間は急激にすぼまって落ちかかり木下道は人ひとりがやっと通れる幅しかない。だがここ、アトゥーラが身を起こした微かな窪地だけはなぜか適度に乾いた快適な小円形広場となって開けていた。

(これもまたナニモノかの造作というワケか)


小娘は傍らに寄り添うように鎮座するヤクザな木の箱車に手を置いた。かすかに、カタリと鳴る。

「で、あたしこんなとこで呑気にお昼寝してたってことなのね、」

「まあ、当たらずといえども遠からずってとこじゃな、」

ラグンの肩を撫でながらドナドナが頷いた。

「入ってすぐ、あんた気絶しちゃったのよ、」

ラグンが引き取った。

「まあ、アレだもんね、」

アトゥーラは今まで敢えて見て見ぬ振りをしていた周囲の状況を再確認する。

背ぇ高ぁーの人形師、当の小娘(ジブン)、ラグンとその息子たち、ヤクザな木の箱車、規格の大きさと姿に戻っているオオスズメバチ、この珍妙な一団の周りでは、隙間もなく、びっしりと、森の妖怪どもが嵐の如き旋回を続けている。それはほとんど純粋な物質の密度に等しく、あらゆる魔法、妖術、霊的浮遊物の限界を軽々と乗り越えて、ほとんど咽せ返るような実在性をも明滅させつつ、変幻自在に回転速度を変え、躍り、翻り、渦巻いているのである。

その中心帯域、もっとも奇っ怪な一団は、さっきアトゥーラがあんなにも恐れていた、あの長々しい白い帯、ただの何の変哲もない白の木綿の布のように見せかけながら、実は悪性の怨霊、邪悪の魂の成れの果てが際限なく連結し、連結しつつ熔融し、溶かし合いながら無限に反発し、あらゆる心的過程に致命的な崩壊因子を流し込みつつ真性の狂気へと導く災厄の帯としてはためき、ゆらめき、禍々しく、挑発するように棚引き棚引き流れて行く。

「あんなに怖かったのに何故だろう、今は全然怖くない、一本の白い布切れにしか見えなかった時はあんなに薄気味悪かったのに、今は、なんだ、

ただの憐れな、狂い立った、魂たちの数珠繋ぎ、みんなそれぞれにギョロ目を剥いて、あることないこと喚いてるだけ、なんかこっけいね、

ほらほら、布のお化けさん、アタシと遊びたいの?」


引き裂くような悲鳴とともに

狂乱の白布が二筋に分かれ、極端に狭い方の一筋が突如翻転する。

そして複雑な軌道を描きつつ鞭のように撓りアトゥーラの首筋めがけ殺到するのだが不思議なことに殺気がない(イナ、ムシロ、愛スラモ)。そして小娘の素肌に一瞬触れたか触れぬかと思わせざま物凄い勢いで反転し、急な角度で螺旋を描き、遂には一本の捩じくれた、鈍く輝く針※となってあらぬ(かた)へ、森の樹冠の薄明かりの(ほう)へ、ややヘロヘロになりつつ(いやむしろ歓喜に満ちて)離脱して行く。


<※針・・・ この針?は、再登場するらしい・・・ SB談>


残された幅広の方はそのままに、二周、三周、そして遂には七周目、これまた速度を上げつつなぜか思案げにその乱れた縁をヒラヒラさせていたが、あっけにとられたアトゥーラが曲がりくねった針の行方を追って手を翳すその真後ろへと巧妙かつ狡猾な角度から忍び寄るつもりらしい、

波打つような、怪しく淫らな、不規則極まる急速旋回を続けている。が、突然その全幅を拡げ小娘の体を丸ごと巻き取らんばかりに

(そう、なにか、ムシロ、いやに嬉しげにそそくさと)

大きく翻る(即ち、文字通りの強奪をはかる)のだが、いかんせん、

突然視界を塞がれたアトゥーラがそっくりかえって大袈裟な、壮大なクシャミを一つやらかした、その瞬間(セツナ)、それは淡く果敢無いシャボン玉のように呆気なく、完璧に破裂し雲散霧消(ショウメツ)してしまう。

その奇妙奇天烈な大破裂を合図に残りの妖魔妖怪ども、幽霊と幻獣どもは大混乱に陥るのだったが、むしろアトゥーラの方が訳がわからずキョトンとしているのだった。


ちょっとよろけたアトゥーラは傍のヤクザな木の箱車の上、少し赤黒く変色した蓋の上に両手をついた。

すると頭の中で声が聞こえた。

ー よお、アトゥーラ ー

ー な、なに? だれ? ー

ー 俺だよ、俺、ー

ー 俺? 俺じゃわかんないわ、ー

ー ま、無理ないか、直接話すのは初めてだしな、

俺はお前がちっちゃいころ、よく隠れてた、

隠れてほれ、泣いたり、いじけたりしてたあの木の箱だ、

まあ、かんたんに、ホルキスとでも呼んでもらおうかな、ー

ー そのまんまじゃん、ー

ー おっと、まだそこに手ぇついててくれ、もうちょっとで非接触でもイケルようになるはずっと、いや、そうか、おーーい、そこ、そこをちょいと強めに叩いてみてくれ、うん、ゲンコでな、そう、ガツンとな、ー

ー なんかわけわかんないけど、まあいいわ、なんとなく、わかるもん、あんたのこと、なんかしらんけどなんとなくわかるもん、これでいい!? ー

ー ほおーーお、もいっ回、ー

ー どお? ー

ー よくなった、も、もう、いいぞ、おい、そんな太鼓じゃねぇんだから、

おいおいおいおい! ー

調子にのったアトゥーラがドンドンガンガンやっていると、ヤクザな木の箱車は、いや、もう、ホルキスと呼ぼう、目に見えてブルブル震え出した。

ー もおいい、もおいい、こらっ! やめろっ! 壊れたらどうする! ー

ー そんなチャチな造りじゃないでしょ、イイ音じゃん、んん? 

こっち(銀のお手手)でやればどおかしらん? もっとイイ音鳴るかしらん? ー

ー コ、コラー(コ、コラー) ー

突然二重唱になる。小娘は首を傾げながらやっと()めた。そして喜んだ。

ー イヨルカ! 生きてたのねっ! どこ行ってたのよっ! 心配したんだからっ! ー

ー 生死なんぞ、アタシには関係ねぇ!ってか! それより、アトゥーラ、これどうすんの? なんか滅茶苦茶なことになってるわよ! ー

儚い幽霊ども、怨霊や悪霊たち、もう少し堅固な実体をもつ幻獣たち、もっと得体の知れぬ霊的浮遊物体ども、それら全てが統一的な回転旋風の枠を失いもはやテンデンバラバラ、ブラウン運動ばりの自由奔放さで辺りを飛び交っている。その全ては、むろん、小娘に近付こうとするのだが以前の厚かましさ、淫らで執拗な摩り寄りようが少しも見えず、おぞましいながらもイヤに遠慮深い、ほとんど腫れ物に触るような慎重さでフラフラ、ヒラヒラ、とはいえかなり露骨な感じで飛び回っているだけなのである。

円盾に等しい大きさの巨大なひらぺったい顔が、法外に見開いた目玉をクルクル逆回転させながらヒラリとかすめて行く。虎と大蜥蜴の合の子めく幻獣(キマイラ)が空中を駆けアトゥーラの肩先を跳び越して行く。しかしその爪先が直接触れることはない。長さは1メルデ(むろん、あの長大な触角や曳航肢を除いてだ)を優に越える極彩色の(サイケな)ゲジゲジが背中両側面につけた16個の長柄の目玉をクルクルさせながら、足元を駆け抜けて行く。どいつもこいつもアトゥーラに触りたそうにしているが、どうしてもその勇気が引き出せないという風情(テイタラク)である・・・


一向に埒があかないのと、特に邪魔にもならない風でもあり、

一行は、そろりそろりと歩き始めた。先頭はラグンと息子たち、アトゥーラとドナドナ、そしてヤクザな木の箱車ホルキスである。ジーナは空中を旋回しながら、時々幻獣や幽霊のド真ん中を突き破ってはご満悦のようだ。道は緩やかな下りで少し泥濘(ぬかる)んでおり歩きにくさは相当である。露出癖のついた木の根や大雨あとの倒木やなんやかやもあり、アトゥーラは何度も躓いては人形師に抱き止められている。

「あっ、また、ごめんなさい、」

「よいよい、それよりどうじゃ、手はまだ痛むか、目の方はどうじゃ?」

「それがねえ、不思議なの、この手、目もだけど、あんなに痛かったのに、今は全然、それどころか生まれたときからちゃんとついてたみたいな感じ、銀なのに、それに感覚もあるのよ!」

「ほっほう、」

「それよか、これ!」

アトゥーラは輝く左手を振り上げた。

「イヨルカ! あんた大丈夫なの? あんときバスポラに食べられちゃったじゃない、アタシ、感じでわかってたのよ、あいつしらばっくれてるけど、」

「さあ、あたしにもよくわからんのよねえ、べつに痛くも痒くもなかったし、でもあれの歯形っていうか、噛んで行く感じ、銀の手にグニュって食い込んでくる感じはよっく覚えてるわ、とおぉーーても気色悪い感じなのよねえ、」

「そおそお、」

「で、あれからどおなったのか、それはほれ、そこのヤクザモンがよく知ってるはずよ、」

「そなの?」

振り返るアトゥーラに対しヤクザな木の箱車ホルキスは今度は念話ではなく音声で答えることができる。

(前後の車軸のあたりからガラガラ音に混じって聞こえてくるので恐ろしく聞き取りにくいのだが)

「もちろんだ、俺は、

俺だけは、完全に全周警戒してたからな、ジーナも、ほれ、あのオオガラスも、夢中になってお前が食われてく様を見てたからな、」

道は、擂り鉢状に落ち込んで行く壮大な谷底を迂回しつつ緩やかな左カーヴをえがいている。深い森が雪崩落ちるように傾斜しているが底の方は全然見えない。はるかな上空にあのオオガラスらしいのが1羽、ゆったりと舞っている。その悠然たる羽ばたきには王者の風格すら窺えるのだがやや小憎たらしい微妙な気配もある。

「そうだった、おまえはもう首だけになってた、あの青いデカ帽の陰になって表情まではわからなかったな、あのチビ狼どもが金色の焔になって燃え上がってた、デカ帽の足元でな、俺はその時もう気付いてたんだ、ダヌンの断崖を踏み越えるようにしてな、ラグンがやって来たんだ、でかかったな、雲をも掻き分け、コドマンの山塊すらひと跨ぎってやつさ、しかも、足音すらない(雲をも踏んで・・・ というやつだ)、

で、青のデカ帽がビックリしたように振り向くのと(ちょっとコッケイだったゾ)

あの暗黒の巨狼(デカブツ)が大口あけてバックンやるのが同時だった、あれこそ・・・ ・・・ 」

ホルキスは体?をゆすり、先頭を行く青白い狼の王を、文字通り指差(ユビサシ)に等しい際どい動きで見切って見せた。


(この表現の意味はよくわからない、実際どんな動作なのかもわからない、見きる、見限る、という訳語はおかしいかもしれない、あるいは後ろ指を指すというに近いか)


「見事に一口だった、ほんのすこし左に頭を傾けて、あの石塔の頂きごと、丸ごと飲み込んじまった、アトゥーラ、帰りによっく見たらいい、シルバ・シルバのテッペンが斜めに削がれて鎗みたくなってるからな、」

舞い降りてきたジーナが寄り添うように飛ぶ。

「でね、あたしたちは森の門の前まで降りてきたんだけど、もう何の気配もないの、

テンニンウグイスがのどかに鳴いてたわ、するとね、あたし、気付いたのよ、」

「俺もだ!」

「そ、まあ、二人同時に気付いたのね、森ン中で突然あんたの気配がしたの、」

「で、二人同時に駆け出したわけだ、」


左手側に一時開けていた明るい空はすぐに閉ざされ再び緑の闇となった。道は緩やかに登り下りを繰り返し徐々に高度を上げて行く。

「もうすぐボオルカの尾根だな、で、次の次がメノンの谷筋だ、」

ドナドナが天を指すように右手の人差し指をかかげ、その先を誘うようにクルクルと回す。

ジーナはしかし止まろうとはせず、いかにも胡散臭さそうに青いデカ帽子のフチを一周する。

「そんなことより、あれはどういうカラクリだったのか説明してよ、」

不機嫌そうにオオスズメバチの顎がキチキチと、やや乾いた音で鳴るのが剣呑である。

すこうし明るかった大擂り鉢(悪魔の臍=トルオンヘイム)の縁ではほとんど姿を見せなかった幻獣どもがまた増え始めた。しかし幽霊は減り地の下草の影を伴走する妖怪めく地虫どももチラホラとなった。

ヤクザな木の箱車が後ろからダミ声で吠える。

「俺の突進とジーナの走りがほぼ同着だったのはまあいい、だがそれでも遅すぎたのだ、あの山なみの大きさだったラグンからすればまあオモチャのようだったがそれでも重量級の輓馬より一回り以上大きかったな、派手に青い炎を撒き散らしながらなにか踊るように跳ねるように地を蹴っていた、その足元、ちょうど腹の下におまえが丸くなって蹲ってたんだ、」

「そうね、そして見る見るうちにラグンは今のあの大きさに戻って、それから一心不乱にあんたを舐め回しはじめたの、」

「ま、そこが問題なわけだ、位置的にもどっちのようにも取れるからな、おまえはちょうど卵みたく丸まってたし、なんかビショビショだったからな、これは悩むところだ、」

「ど、どゆこと?」

「そおね、あのラグンの大口なら楽々だったでしょーし、後ろからでも楽勝よね、」

「ど、ど、ど、どゆこと? う、うし?」

「アレが」

ジーナは相変わらず暢気そうに先頭を行く母狼のお尻を、ふさふさの尻尾を睨み付けた。

「アレがあんたらを、(このさい、ドナドナとかは無視でいいけどね)ひと呑みに呑みこんじゃった以上、どっちかから出さないといけないわけよ、」

「ええーーーーー」

「おいおいおいおい、おれたちを忘れてもらっちゃ困るな、ガフン!」

いつの間にかバスポラたちが伴走している。大口を開けていたバスポラは不意と飛び込んできた足が8本以上もあるヤモリみたいなのをツルリと呑み下してしまう。

「俺達にだって仕事の完遂を邪魔されたっつーイキドオリはあるわけよ、」

「ま、アホはほっといて、ね、ここはちゃんと確かめておきたいところでしょ、」

「なんだとおぉーーー!!!」

「俺達にだって聞く権利はあっる!!!」

「で、どおなのよ、ドナドナ、あなたならわかってるわよね、」

「そおじゃのぉーーー、ほれはだなぁ、」

「ま、まって、待って、もお、そんなことどおでもいいから、アタシ、聞きたくないから、」

「そおはいかんぞ、俺達も知っておきたいぞ、」

「ああーーー、ウルサイウルサイ! アタシがいいって言ってんだからいいの! そんなことよりドナドナ! あたしがちゃんと知りたいのは」

「ああ、あれな、ちゃんと歴然たる証拠があるぞ、処女のアカシ、男どものヨダ・・・ なんなら今ここでおまえのアソ」

「バカーーー、そんなもん全然どおでもいいわーーー、あ、あたしが言ってんのは、あた、あた、あたしの、あ」

息がつまったのか、真っ赤になったアトゥーラは身をよじって咳き込んだ。

ドナドナの左手がアトゥーラの背中を優しくさする。

バスポラたち四頭は大口を開けたまま小娘を見上げるようについてくるのだがなにか法外な、ナニカシラのオコボレが落ちてくるのを期待しているようなのがいささか台無し(シタゴコロありあり)である。

「おいおい、アトゥーラ、仮にもドナドナ様に向かって『バカーーー』はないだろ、『バカーーー』はな、」

突然真面目くさった顔付きでバスポラが混ぜ返す。

「全能のラグンでさえ、一目置くお方なんだぞ!」

ペームダーが続く。

むせかえり涙目になった小娘は立ち止まった。

「ごめんなさい、ドナドナ、アタシは、アタシの言いたいのは、」

「よいよい、気にすることはない、それよりなんだ、なんでも言ってみろ、」

「ああ、あ、アタシ、勝手に考えたんだけど、これは、つまり、要するに、やり直し(リセット)、出直し、ってことでいいのよね、」

「エライぞ、その通りだ、」

小娘は微かに顔をしかめた。

「で、でね、あの、ふ、不死身とか言ってたのはナシになったってことでいいわよね、」

「アトゥーラ、おまえ、自分の体じゃからな、わかるな、いま、この森の中で気付いたことがあるじゃろ、」

「うん、」

「そおいうことじゃ、」

長身のドナドナがゆっくりとかがみこんだ。青よりも青い、底無しの淵のような目が、暗い碧緑の右目を覗き込む。長大な両手が真にやさしくアトゥーラの顔を包み込み、そして右手がゆっくりと左目にかかる赤髪をかきあげる。左目は閉じていた。渦巻き状の醜い瘡蓋がその正体を隠すように覆っている。細く長い、人差し指が触れると瘡蓋は潮が退くように回転しながら消えた。そして深紅の、暗く輝く左目が異様に遅い、重たげな瞬きと共に、何か空間そのものを押し退けるように現れた。

「こっちの目は、」

人形師は満足げに頷いた。

「普段、使うことはない、必要な時には、必ず現れる、」

「うん」

「まあ、普通に、人間界の(コトワリ)の中に有る限り、ほとんど出番はないじゃろて、」

「へんなの、でも、まあ、もらっとく、」

「それでいい、」

「この左手は?」

「そいつはまあ、共有物件ってやつだな、イヨルカと相談して好きに使うがいい、」

「わかった、」

「不死身に関しては、そうだな、不死身といっても色々あるからの、

ま、とりあえずはチャラになっとるってことでいいじゃろ、」

「なんだかアイマイなのね、」

「イヨルカの力能やバスポラたちの契約に関してはワシにも口出ししにくい面があるんじゃ、

が、まあ、呪いに近いような不老不死や、完全な不死身体質なんてものは一応ナシになっとる・・・ ハズじゃ、」

「じゃ、じゃあ、死にたくなったら死んでもいい?」

「それは完全に自由じゃ、」

「よかった」


後書き

何がよかったのか、よくわかりませんがちょっと休止いたします。

リアルがドツボに嵌まりほとんど死にかけております。

すこうし、イエ、ほんのチョッピリ、話しが進みかけておりますのに残念です。

なんとかグレちゃんとこまでは辿り着きたかったんですが・・・

姉も超体調不良で過労死寸前?とゆーーーアリサマ、

どうか更新の遅れ勝ちになりますことお許しください。

はぁーー、なんとか10月手前だぞっと、悲しい虚勢を張りつつ・・・

お、お休みなさいませ・・・

ガクッ!

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