第1巻第2部第1節の続きその19 「手術終り 続きその13 大雀蜂ジーナ その12 門の前 続き シルバ・シルバの上にて・続き~~~~の終り・・・ の終り」
*
オオガラスが一羽舞っている・・・
時おり急降下し銀の露台への接近を試みるが何か障害があるようだ。
跳ねるように、いな、弾かれるように舞い上がりしばらく旋回する。
が、やはりどうにも我慢できないのかその恐ろしげな漆黒の翼を広げ、辛抱強く、何か隙を窺うように空中で、ただいささか頼りなくフラフラと静止飛行を続けている・・・
あやつがなにを見ているのか、なにを狙っているのか、ここからは全く見えないのだ。
我が主の声が、一瞬、聞こえたような気がするのだが、それが何か、鋭い、悲痛な叫び声であったような、そんな気がするのだが、ワシには確かめようがないのだ。
せめてワシの足にあのクソガラスほどの、いや、あんなのではダメだな、せめてあのワシミミズクなみの鈎爪がついとりゃなぁ、ここからあの壁をよじのぼってやる、あの上で、我が主に何かが、
おや、なんか奇態なもんが降ってくるな、ギラギラしとる、なんだありゃあ???
*
ジーナ・フォゾミナの変容体? 光輝く白銀の少女※が(但し全裸)、
同じく透き通る白銀の翅を広げ一直線に舞い降りてくる。翅は風圧で折れ曲がり背中側に捻れ撓んでいる。あの原始的な人間の投下兵器、飛箭※のように、文字通り落ちてくるのだ。
だが地上3メルデン、ツルノブドウの振り上げた巻きヒゲの高さでふわりと静止する。そうして、ゆっくりと大風に羽搏きながら例のヤクザな箱車、
花盛りの春の野面に鎮座する、
場違いも甚だしい木の棺桶(但し、車輪付き)、
長々しい黒木の柩の上に止まろうとする。(あたかも、その体重に比して圧倒的に翅の大きい揚羽蝶の如き、優美な軽やかさを模してだろう)
だが、当人の思惑とは裏腹に古びた木製の蓋はギチギチと悲鳴をあげるのだった。
つまり、(想像以上に)重かったのである。
<※少女・・・ つ、つまり・・・ そ、そお見える・・・ というワケである、実年齢不詳、と言うか、確定不能、と言うか詮索無用の謂・・・>
<※飛箭・・・ 文字通りの、飛んでいる矢、のことではない、 ・・・ かの国民軍中尉※を震撼させた例のアレと同じもの
(正確には1915年9月22日テンナ(南チロル)付近でのこと、
とある、かの「日記」※及び「伝記」参照)。
飛んでいる飛行機から手動で投下される、ある意味牧歌的?な兵器。要するに、巨大な鉛筆様の尖った物体であり、当たると、頭のてっぺんから足裏まで文字通りに貫通するという、剣呑な代物、ただし、当たれば、の話である>
<※中尉・・・ このもったいぶった曖昧を装った書きようはシャリーさんの悪い癖ですが、姉上様によりますと、R.Musil というかなり有名な作家のことらしいです>
<※日記・・・ Musilの 日記(圓子修平全訳)、そして 伝記(コリーノ著、全3巻)は共に法政大学出版局刊。以上全て姉上の蔵書より引用/確認済デス。;以上2点は訳者注>
*
「ゴォルラァーーー!!! 断りもなしに勝手にヒトの腹ん上に乗るなぁーー!!」
「ここってお腹なの? 背中の間違いじゃない?」
「んなこたぁぁどーでも! って、だれだぁーーてめぇーー!」
「アタシはアタシよ!」
「だれだぁーーてめぇーー!」
「失礼ね、もう忘れたの? アタシよ、ア!タ!シ!」
「残念だがな、露出狂の女なんぞに知り合いはおらん、」
「ほんと失礼ね、ジーナよ、ジィィーーナ、ジーナヴァルケンホーク、
ジーナ少佐でいいわよ、」
「ムッ! なんとっ! あの変態雀蜂か! さっきワシの上でチマチマチマチマねちっこくカミカミ酒を嘗めとった、アレか?!」
「(傍白:くそっ、こいつ、一回原子分解したろうかしら、ああ、でもダメね、復元する自信がないわ、勝手に壊しちゃアトゥーラが怒るだろうし)
なんか腹立つけどまあいいわ、
そんなことよりアンタ! こんなところでぼおっとしてていいの、あんたの主がたいへんなことになってるのよ、」
「(傍白:こいつ、一体どんな魔法なんだ、エ○すぎるにもほどがある、しかしなんで銀、一色なんだ、クソッ! 眩し過ぎて肝心なとこがよく見えん、)
だいたい大変もクソもあるか! おまえらが急に消えちまった時、どっか上の方、
多分あの石柱の上へ転位しただろうってことは見当がついてたんだ、確かな気配でな!
ワシと我が主とは一心同体、長年連れ添った間だからな、ポッと出のお前なんぞにゃわからん消息だろうがな、だが解せんのはあの時なんでこのワシだけがおいてけぼりをくったのかってことだな、
ワシこそあの娘の本当の玉座、安らぎの寝台、
そして最期の憩いの「場」となるべき定め・・・ ワシのついている限り、あの子にゃあ、誰一人、指一本触れさせんのだからな、」
「ふん、あんたの言いたいことはわかるけどね(でもまあ、ご大層な御託だこと!)、」
ジーナの体の輝きは徐々に薄れ同時にほぼ人間的な肌の色が浮き上がるように再構成されつつあった。そして四つの乳房が二つになり、余分の腕は背中側にゆっくりと回りながら吸収されるように消失して行く。
「でも、肝心なことがわかっちゃいないわね、」
「む、なんだ、言ってみろ、」
「簡単なことよ、あんたが乗っかっただけであの上は一杯になっちゃうもの、ちっちゃなアトゥーラ一人だって立ってられないわ、」
「なんの、なんの問題もないな、ワシの上にドンと座っておればいいだけの話、」
「そういう問題じゃないんだけどね、でも、いいの? 行かないの? 」
「ワシはおまえたちとは違う、翼もなければ、鈎爪だってもっとらん、」
木の箱車は、微かな振動と横揺れだけで己が悔しさを完璧に表現するのだった。
古ぼけた木の蓋の上に仁王立ちになっていたジーナだったがやおら踞り
自身の左の足首をツルリとなぞる。そこには、あの瞬間、無惨に飛び散った血飛沫の痕(その最先端)が何か不吉な刻印のように、
異様極まる稲妻型の図形(帰還雷撃の逆行樹形にやや近似)を描き、鮮やかに残っている。
[おまえはそれを避けることができなかった、
おまえの神速の飛行術、百戦錬磨の機動戦法をもってしても
その足先にだけは間に合わなかった、
おまえの反応速度は充分に鋭利な合口と等しく、全てを凌駕するはずだったのだ、
だが、あの惨劇の最後の一幕、あの瞬間こそ、神の手の一撫で、偶然を必然とする、
あの深謀遠慮であったのかもしれぬ・・・ ]
全裸の少女はやや長すぎる舌を伸ばし優雅に揃えた二つの指先をデロリと嘗める。そしてあとの薬指の先に危うげに残る薄い血の塊をゆっくりと、木の蓋の上に、摩り込むように擦り付ける。(だがごく無造作な動きであり、何か神秘な記号を書き込んだ風ではないのだが・・・)
「どお、わかった? 」
「むむむむむ!!」
「さっきドナドナと約定を交わしたんでしょ、それに、あんた、あのトネリコを取り込んでるんだしね、(フフフ、あれ、今、あそこで変形し続けてるわ、内的に、燃えながらね、ごくごくゆっくりとだけど、第二世界樹の潜勢力を構築中ね、悠長な話だけどね、フフ、アトゥーラったら、あの燃える木のこと妙に気にしてたわね、らしいっちゃあ、らしいんだけどね、)
さ、試運転ってわけよ、まさかアタシを乗っけるのがイヤってわけないわよね、
ほらほら、いまはほら、アタシの体ってあの子(大きさも体重も)のとそっくりのはずよ、予行演習ってわけよ!」
「むむむむむ、」
「なんでためらうのよ、」
「た、たしかに似ている、だが、」
「なによ、」
「な、なんで素っ裸なんだ、エ○過ぎるだろ、なんか着ろよ、」
「なぁーーに興奮してるのよ、木の箱のくせに、バッカみたい、」
「ま、まさか、我が主もそんな、すっ、すっ、すぅっ、」
「もうっ! いいから、はやく開けなさいよっ!」
木の箱車は変形を始めた。とはいっても蓋の一部を巻き取るように縮め、内側に段差を設けて人一人が座りやすくしただけのことである。
「言っとくが、これは仮構成だからな、ホンマモンはこんな粗末じゃあないからな、」
「失礼ね、等しく豪華版でやんなさいよ、」
しかしヤクザな木の箱車は本式の変形は飽くまでもアトゥーラの為に取っておくつもりらしい、中途半端な二段階の再構築だけに留め、ほとんど座り心地など期待できそうにない、えらく狭苦しい座席を設えるのだった。ジーナは大いに不服げだったが黙って腰を下ろした。と同時に木の箱車=自称未来のアトゥーラの玉座は上昇を開始する。それは飛行などとは到底言えず、不滅の血流の相互牽引力、単純極まる重力の遮断、果ては月の蝦蟇公の涎の強制的相互引力等々古来種々様々な原理的考察が為されてきた、なんとも不可解な未知の動力?による、珍妙極まる上昇力の発動なのであった。
シルバシルバの垂直の壁に沿い、嘗めるように、いやまさに慎重かつ大胆な蜂の飛行のように滑らかに、だが要所要所で相手を優しくノックするような、むしろ躊躇い勝ちに(いやほとんど慇懃無礼と言ってもいい慎ましさでもって)探るような、また軽く打ち叩くような、
極上の挨拶のキッスにもまがう胡散臭い動きでツイツイと、いかにも怪しく胡乱な軌跡を描きつつ徐々に高度を上げて行く。だが本来ならば約30メルデンの高さ、ものの数秒で到達できる高度のはずが、ただただ無限の垂直上昇、果てしのない石の壁との睨みあいと化しているのは、この珍妙な二人組だけに突きつけられた悪夢の如き現実であるようだ。
「どうしたの、着かないじゃないの、いつまで飛んでる気?」
「どーーも解せんな、しかし愛想も糞もない壁だな、ところどころ奇妙な記号が刻んであるのは何の印かな? 古代巨人族の戦斧の柄? 捧げ物の調理台? 宇宙計算尺の部品? やっと生まれたお姫様のお守り用の石の枕? いろんなことを言う奴がおるが、や、ここのへっこみは、やはりジェレイガスの握りの跡かな、」
「こらこら、なんの詮索に耽ってんのよ、一刻を争うのよ、」
「わかっとる、わかっとるが、み、みょうなブレーキがかかるんじゃ、おお、もう、森の樹冠を飛び越した、おお、そして嫋やかな女神の帯のような白い雲の海を突き抜ける・・・ おう、まだ続く・・・ 」
「あたし、自分で飛んだほうがよかったかしら、」
「まあ、そう言うな、これは、どうやら、ほれ、あれだ、固有の、魔法圏域、時空の連続変換というやつだ、あんたの自慢の翅だろうと同じことだったろうよ、」
「かなり空気が薄いわ、」
「翅にはキツイだろ、」
「ほほ、そうね、ああ、やっとだわ、あらら、翅は翅でも、黒い羽根、おんなじね、やっぱり難儀してるのね、さっきは処女の道の講釈をありがとね、」
「まぁーーた、奇態なもんに乗っとるな、」
旋回中のオオガラスとぶつかりそうになり木箱は今度は完全にブレーキをかけた。到着したようである。
*
「ふううーーーい、やっと一休みじゃ、ちょうどぴったりのタイミングじゃったな、ウム、」
オオガラス、いや、オオワタリガラスが、さも当然という風情で、肩を怒らせ、いかにも尊大な調子で挨拶をする。木箱の縁に遠慮なく止まり強大な嘴の左右を二度三度交互に擦り付ける。
「こらこら、断りもなしに勝手に止まるんじゃねえ、そんでもってその汚ねえ嘴でコスコスするんじゃねえ、」
「心外だな、これは最高に美しい我が自慢の業物、唯一無比の秘剣に等しいものだ、」
さらにコスコス、おまけにコスコスコス、やや恍惚気味にワザトラシク擦り付けて見せる。
「貴様、こ、この至高の玉座に対して無礼だぞ、だがまずは名乗ってみせろ、」
「俺か、俺の名は名無し(ニャーマントゥ)だ、」
「巫山戯やがって!」
「または、そうだな、名無し(ニャーメンローゼル)とも言うな、」
「叩き落として欲しいのか?」
「ま、別にかまわんが、ふむ、あんたに物騒な手がないのはまあ安心だが、そこの姉さんはちょいと剣呑じゃからな、クワバラクワバラだな、」
しかし烏は軽く羽ばたきし1セカントほど浮上してみせる。
「だが、あんたがたの要事は俺と遊ぶことではあるまい、」
オオガラスはゆっくりと首を捻り宙に浮かんだ奇態な木箱の下方約8メルデン(ちょいと上がりすぎたようである)、
シルバシルバの天頂部に繰り広げられている惨酷酸鼻の現場へと凹凸コンビの視線を誘導する。
*
もちろん、ラグンの急襲は完璧だったのでアトゥーラの体の中央部はごっそりと消滅している。しかし胸郭の上半分、稚い乳首は辛うじて残りその下からは肺の一部が胸骨の残骸と共に崩れ出ている。下半身は臍の少し下からが残っている。腸の大部分が何故か青い光りを放ってちっちゃな淫らの丘のように蟠り、やがてだらしもなくグズグズに広がって行く時を待っているのだ。ただし子宮とその周辺の器官らしきは見当たらない。
四頭の仔狼が、それぞれの担当?のまま忠実に、四肢をその先端から行儀よくそして容赦なく、順番に食い尽くして行く。血の一滴も見逃さない。だがなかなか歯応えがあるようでようやく肘と膝の辺りにかかろうかという塩梅。
四頭ともあれほど切望していたアトゥーラの肉をようやく口にできたことが嬉しいのか、常の饒舌を忘れ去りひたすら咀嚼し続けている。か細い筋を噛み切り、腱と骨を噛み砕き、間断無く飲み込む音が異様に高く、この高さにまで響いてくる。
アトゥーラの首は、真っ直ぐに空を見上げている。ナイイの碧緑を写す右目、移植されたばかりの太陽の深紅の左目は、大きく見開かれたまま雲の影を、そしてすぐの上からここを覗き込んでいる三組の視線(正確には二組とひとつの気配)を、恐らく水鏡※の無心のように受け止めているようだ。
だが、そもそも意識があるのだろうか、両目の縁には涙が溜まっているが、瞬きの気配は少しもない。しかし、光は失われていない。(これをしも、また、光の井戸というべきか)
<※水鏡・・・ 水月の呼吸、間合い、或いは理法とも呼ばれる気配を指すか>
*
あはは、とうとうアタシ、生け贄にされちゃったのね
いったいなにに?
でも、お供えにしたって、こんなのアリ?
でもいいわ、さっきラグンに言ったとおりになったんだもん、よしとしよう、
ちょっと、いや、だいぶエゲツナイけど、まあ、よしとしよう、
でも、なんだ、もっと太ってからとかなんとか言ってたくせにセッカチね、
なんか事情があるのかしらん、どおだろ、ひょっとして証拠隠滅?
ドナドナとラグンはやっぱグルってこと? けどまあ仕方ないか、食べてもらえるだけありがたいってか? そりゃそうだ、こんな体、
一文の値打ちもないって、さんざ言われてたんだもん、
こりゃ大出世っつってもいいんじゃない?
だってドナドナもラグンもどうかんがえたって神様じゃん、魔神かもしれんけど、
まあ、いちおうは神様じゃん、神様の一種じゃん、その神様が食べてくれたんだから、
いやいや、食べてくださったんだから感謝しなくっちゃ、あはは、
ドナドナ様、あの人、神様なんだ、ええい、神様のくせに人間の女の子なんか抱くんだ、
でも恥ずかしくなっちゃったんだな、あたしの体になんか仕込んだくせに惜しくなったんかな、で、仲間の眷族? に始末させたってか? でも、ラグンは眷族らしくないな、眷族にしては格好よすぎるもん、どおみても対等以上にしゃべってたもんね、
ああ、あの黒い瞳、底無しに狂暴そうで、果てしなく優しげで、凄いキレイだった、あの長い牙も、長い長いだだっ広い舌も、ああん、ああん、ぞぞうっとぉ、
あのひとがあたしの母さんだったらってちょっと思っちゃった、これは内緒、でもそう、
お母さんってあんなのがいいと思うな、もふもふだし、あったかい、すごいいい匂い、
でもって、バスポラーーー、あいつ、いや、あいつらか、あいつら、なにやってんの、
ひとのオ○ッコ散々飲んどいて、ふう、せっかくお待ちかねのお肉だってのに、ちょっと要領悪すぎない? なにやってんの、あたしの骨こんな細いのにイヤに苦労して噛んでるわね、ふつうより硬いのかしらん、でもヘンな感じ、すこしも痛くないのに、痛いって感覚ないのに、噛み砕かれてるって感じはすごくよくわかるのよね、食い込んで来るバスポラの歯の形までくっきりわかるくらい、あの可愛い歯があたしの腱や筋をサクッサクッと噛み裂いて行くこの感じ、なんか好き、覚えておこうかなっておもうくらい、
(でも骨の割れて砕ける音はちょっとカンにさわるな)
それはそうとイヨルカはどしたの? どこいっちゃったんだろ、あ、そうか、バスポラが食べちゃったんだ、まえみたくあたしの全体で憑いてくれてたらよかったのに、あの銀の手に移っちゃったからねえ、でもあんなのよく食べれたな、バスポラ、ちょっと感心、あ、もう腋の下まできた、あらら、鎖骨が硬そう、え、やめるの?
ほえ、すごいおと、自分の骨の砕ける音って、まあ、ふつう聞けないわよね、
え、そこで休むの? 疲れた?
あ、そか、肩の骨んとこはナンブツよねえ、あとはこの首だけよ、
もすこしなのよ、頑張りなさいよ、ちょっと突然なに、あんたら、なに、すごい、金色に光ってるのね、燃え燃えね、四つの金色の炎ね、四つの焔、そう、送り火ってわけ? もったいないわ、
でもなんかへんねえ、空が見えてる・・・ あたしはひとり、空の雲をみてる、
雲が流れて行く、これが見納めってこと、誰もあたしを見送らない、
あたしは独りだ、ひとつの焔、もう消える、だれもしらない、だれにもしられずしぬ・・・
・・・ ・・ ・
ああ、いいことね、あとくされなし、こうこのうれいなし、ははは、なんだろ、
ぜんぜんさびしくないな、まあしかたないな、ひとりでしぬ、ははは、いいことじゃん、
こうしてくもをみながらしぬ、いいことじゃん、りそうてきじゃん、
くもはながれる・・・ あたしはしぬ・・・ てっきり・・・
ふーーーん ふーーーーん
あれ? なに? あれ、なんか浮かんでる、なんかみたことあるよおな、なんだろ、おりてきた、
なんだ、あたしの箱車じゃん、なになになになに、あれれ、あれ、もしかして、
もしかして、なんか乗ってる、烏? 黒鳥? じゃなくて、そのうしろ、あれれ、
あれ、ジーナじゃん、ジーナ? ジーナよね、ジーナさん、ジーナ!!
あああ、なんだろ、あれは、きっとジーナだ、あの、銀色じゃないけど、
ふつうのおんなのこみたいだけど、このほうがずっとかわいい、すごくきれい、
ああ、あんなにちんまりすわっちゃって、あらら、おちちがふたつになってる、かわいい、
てもにほんだ、かわいいんだ、あたしとおなじすっぱだかじゃん、でもすごくきれいだ、
りょうわきに、ひじついて、てがしろくなるくらいきわくをにぎりしめてる、なにかいってる、
さっきさんざんきすしたあのおっきなおくちがぱくぱくしてる、でもきこえない、ああ、
ちっちゃなしたがひらひらしてる、あののびるとながい、グルグルまきのすごいした、あああ、まただきしめたい、
だいてほしいのに、ああ、ざんねん、あたしくびだけになっちゃったの、
どおしたらいい? くびだけのおんなのこなんて、ははは、けとばされて、ふるいどのなかへ、
ひあがったくさったおちばだらけのいずみのなかえ、けりこまれるのがオチなんだ、
首だけの女の子なんてねえ、存在価値ゼロじゃん、イヤ、もう、とっくにマイナスじゃん、
不細工だし、へんな臭いもするし、
あ、でも、お○っこもう○ちももうエン無しね、それだけが取り柄じゃん、
で、愛されるはずも無し、ふ、ふーん、ふうぅぅーーーん、
ジーナはちゃんと他に愛人がいるんだもん、ドゥーナさん、超美人の蜜蜂さん、会いたかったなあ、きっとすごい美人だ、お似合いだろうなあ、見てみたかった、
あたしはこれで終り、オシマイだ、さよなら、ジーナ、さよおなら、くふふ、
なんか見えない壁があるのね、ここまで降りてこれないのね、最後にキスしたかったわ、
なんか眠たくなってきちゃったな、
おーい、バスポラ、さぼってんじゃねーや、仕事は最後まで完璧に、ねっ!
やらなくっちゃあダメなんよ、そいでね、
おまえらと遊んだんもちょっと楽しかったぞ、
そおいうこと、ヌヒテルの森、通らなくて済んだな、よかったよかった、
あれ、なんか頭がクラクラしてきた、ここはどこかしらん?
ああ あの森を抜けると そう 小さな寂しい庭が見えてくる むかしから知ってる?
この庭で遊んだことある そういうこと ちっちゃな鳥が 空をよぎる
テンニンウグイスかな あらら あの
干上がりかけた池がある
ほら あのいじけた木立の角を曲がると
ほおおぅれ 狼どもの足音が・・・ バラバラと・・・
星ぼしのどよめきが木の枝に・・・・・・・・・
森のなかの森・・・ ハチどものあそびの 果樹園が・・・
たたなわる・・・ アレ
たたなずく・・・ アレ
ほほほほほ
なんかイヤラシイ感じ・・・
うねり寄せてくる感じ・・・
夏の終り?
*
「なにか、見えない障壁があるわ、」
ジーナはもう、この箱車の操縦法らしきを体得しているらしかった。座ったまま、
軽く体の重心を移動させると箱の中心線の向きを変えることができるらしい。上下左右の重心移動も同じく有効だったからほぼ自由自在に転進することができるのである。だが、銀の露台の上に着陸することはどうしてもできない。
「せめて、あの首だけでも! 目をみればわかる、まだ! まだよ、生きてるわ、
必ず、必ず取り戻す!
ああああ、食い尽くされてしまう、ああ や! でも止まった!!
なに!? あのクソ狼ども! 燃え出した! 食べながら燃えてる!
四つの金の焔! アトゥーラの首を囲んで燃えてる
何かのまじない? ぐわんぉん! 眩しい!」
「こ、これは一体どういうことだ! なぜだ! ドナドナはいったいどこだ? なにをしてる!
あああ、アトゥーラ、なんてことだ! 首だけになってる!」
「しかし、まだ一口もありつけんとは、なさけない! あの狼ども、さぞ満腹だろうな、で、なんであそこで止まってる? あの首は、あれは・・・
すばらしい・・・ ウム、
骨と血が、ひどく、ひどく散らばっているな、な、なんという据え膳か! 否否!
おお、なな、なんというオアズケ三昧!!
ひとつき、ただ一突きで、全身が、おおおぉーーーっとぅーー!!」
怒りに燃えたヤクザな木の箱車が激しく胴震いし、オオガラスを振り落としにかかる、
烏は、そのまま滞空しておればよいものを、ことさらに、わざとらしく、何度も止まり直そうとするのがいかにも底意地悪く、相手を小馬鹿にした陰険なヤリクチなのである。
「だいたい貴様はなんでここにいる! いったい何を狙っている? いったい誰のさしが!」
「あっ!! 見てっ! ドナドナよ! 」
ジーナが叫んだ。三つの視線は一斉にその注意を集中した。
(とはいえ、ヤクザな木の箱車のそれは、誰にもそれとわかる反射可能認識可能な光の道ではなく、何か曰く言い難い、あらゆる感覚の融合したある種不定形な感応触手、不可触不可視の投網とでもいうべきものだった)
血みどろの露台上は、四つの舌が嘗め進んで行く幅の狭い銀の帯の道以外足の踏み場もなかったが長身の人形師はほぼ頓着無く歩みを進めて行く。薄い修道衣、いな粗末な巡礼服の裾が忽ち赤く染まり重くなるようだ。男のサンダルも等しく血に染まって行く。バスポラたちの強大な咀嚼力の所為だけではない、アトゥーラの血潮の、いまだ聖水の如き清冽極まりなき水水しさが保たれていることの不可解は、しかしドナドナにとっては全くなんの問題にもならぬ瑣末事であるらしい。男は四頭の仔狼の真ん中(消滅の中心点)に立ち、憐れなアトゥーラの首を見下ろした。
*
「気分はどうかな、アトゥーラ、」
「まあまあね、あ、でも今ちょっと悪くなった、」
「ほう、なんでじゃ、」
「あなたのでっかい帽子が陰を作るの、雲が見えなくなっちゃったじゃない」
「まま、そう言うな、ほれ、これならどうじゃ、青空と区別つくまい?」
「まえといっしょよ、空は空、帽子は帽子じゃない、邪魔なんだけど、」
「ふふ、両目ならそうなるか、剣呑な力じゃのう、まあよいわ、そんなことより
も一度聞くぞ、気分はどうじゃ?」
「うぅーーーん、悪くはないかな、」
「ほう、この状況でか?」
「そう、この状況でよ、」
「希望通りってわけかな、」
「そーね、その通り、でもちょっと聞きたいことがあるの、」
「言ってみろ、」
「うーーーん、でもまあいいわ、やめとく、」
「なんだなんだ、もったいぶらんでもいいじゃろ、おいこら、いまはちょっと静かにな、」
青く光る小娘の腸をうまそうにピチャピチャ食っていたペームダーを黙らせる。
四頭とも揃って咀嚼を中止する。特に不満はないようである。
「でも、ちょっと恥ずかしいし、それに、ド、ドナドナ様にだって都合があるだろうし、」
「なんだなんだ、よけい気になるぞ、はっきり言え、」
「そ、そお、じゃ、聞くけど、」
「うむ、」
「うーーーーん、でも、なんか、そう、肝心の体がもうないんだし、もういいや、」
「いいから言ってみろ、」
「じゃ言うけど、」
アトゥーラの碧緑の右目のみが動き長身の人形師の、髭に覆われた口許を注視する。やや疑い深い、微かな嫌悪を含んだような見上げる視線である。
「ちょっとだけ、たしかめときたかったの、」
「ほうむ、」
「あなたが、ド、ド、ドナドナ、うん、そお、ドナドナ様が、あたしの処女をもらってくれたってことになるのよね、」
「ほお、」
「あたしの処女を奪ったってことになるのよね、」
「ほお、」
「あたしを女にしてくれたってことよね、」
「ほほお、」
「神様のくせに人間の女の子を犯したのよねっ!」
「ほおーーん、」
「もおいい、もおいいわ、はやく済ませてっ! さっさと食い尽くしちゃってよ!」
「相も変わらず短気じゃの、言っとくが、お前はまだ処女のままじゃぞ、」
「もう証拠がないんだからなんとでも言えるわ、」
「証拠か、証拠ならたんとあるが、ま、これは心の問題でもあるからの、
どう言えばいいかのう、」
「男はみんなそう、言い訳ばっかし、」
「言い訳ではないぞ、それに、そう、ちゃんと思い出してみな、記憶はあるはずじゃ、
あれは男女の交合、交接とは似て非なるものじゃ、」
「似てるだけで十分だわ、」
「いやいや、物事は全て厳密に考えねばならん、」
「そんなこと知ったこっちゃないわ!」
「いーーーや、アトゥーラ、それでは世界の様相が根本から変わってしまう、
ここはひたすら厳密一徹でいかねばならん、」
「あなたが、あたしのおなかのなかへ、なんかおいてった、
その事実だけで十分だわ、」
「それは事実じゃ、」
「それでいいわ、」
「いいや、よくはないな、第一処女非処女の区別はごく人間的に、人間の所謂医学的な判定のもとに行わねばならん、」
「あたしは、あたしの感覚、体感だけを信じる」
「それはもっともな話しじゃ、」
「じゃあそういうことよ、」
「じゃが、処女の判定はそうではない、第一、おまえにはまだ処女膜がちゃんとある、」
「だからっ! もうそんなことどおでもいいの、だいいち、ないものをあるっていってもなんの説得力もないわ!」
「うーーむ、平行線じゃな、ま、じきにわかることなんじゃがな、まっ、いいか、
なあ、アトゥーラ、おまえの不満はわかるがの、これだけははっきり言っとくが
おまえは永遠の処女姫なんじゃ、誰がなんと言おうとな、」
「あっ! そうそう、あともうひとつ聞きたいことあるんだった、」
首だけの小娘は何か吹っ切れたように微かに頷くと、思い出したように目をパチパチさせ人形師の髭面とその後ろの状況を見定めようとする。上空ではキテレツ極まる凸凹トリオがなにやら騒がしそうに右往左往しているようだが全ては妖怪じみた無言劇にしか見えないのである。
*
そう、骨を砕き、肉を啜る音だけはよく聞こえるというのに、なにやら真剣に話し合っているらしい二人の会話は一向に聞こえてこない。ジーナ・ヴァルケンホークの焦燥は募るばかりだった。名無しのオオガラスも相変わらずバタバタしながら狼どもの食欲の満たされ行くを羨むばかり、ただ例のヤクザな木の箱車だけがひどく冷静に四辺の状況に広範囲の綿密な観察力を投射しているのだった。
「ねえ、もうすこし降下できないの? もうちょっとだけ、なにか聞こえるような気がする、あの二人、なにか言い合ってる、アトゥーラの目が怒ってる、ああ、なんか諦めたような、呆れたような、変な目付きだ、あ、ちょとこっち見た、あたしを見て、ほら、笑ってる、そんな、ダメ、あきらめないでっ! 今、今行くから、これ、この障壁、なに?
なんで進めないの?! あたしの新しい剣も通らない!!」
ジーナの右腕は肘の先からが細身の剣に変化していたが、その切れ味を発揮することは全然できていない。
「そんなはずないだろっ! 超次元ナンタラとやらはどうした? あれなら空間そのものでも切断できるとかなんとか!イヨルカの奴言ってたぞっ!!」
「そんなこと! あたしに言ったって、ああーーもう、そんな斬新な使い方、今すぐわかるわけないわっ!」
「おいおい、そんな無茶苦茶振り回すんじゃねえ、おっとおぉーー、危ねえぇーー!」
しかしオオガラスの回避能は余裕なはずだった。巨大な黒い翼を縦横に展開し捻り返し、曲芸的な飛行術を見せているが、さすがにかわしたつもりの剣先の、はるか先にまで斬撃の衝撃波が届いているのを感じると臆病自慢のコガラスどもをも飛び越えて三倍以上の安全距離を取らざるを得ない。
「しかし、奇っ怪だな、あの二人、今さら何を話してるのか、そもそも話すことなんぞあるのかどうかも、ウム、キッカイシゴクだな、」
烏は目を白黒させている。
「どーせ、ろくでもないことには違いないな、」
ヤクザな木の箱車はゆっくりと加速し始めた。そしてこれで何度目なのか、もう数え直すのも面倒なくらいの気分で露台の上端への衝突コースを取る。ジーナはその尖端で三倍の大きさになった剣を構えている。空中での衝角攻撃を試すつもりらしい。
*
また、ムシャムシャやり出した狼どもを横目に見ながらアトゥーラは続ける。
「ねえ、ドナドナ、教えてよ、」
「なんじゃ、」
「あなた、初めて会ったあたしの名前を知ってた、」
「そうじゃな、」
「あんときで気付くべきだったのね、あなたがフツウじゃないって、」
「そうとも言うな」
「でね、あたしのこと何度かお姫様って言ったけど、あれはなに?」
「べつにどうと言うことはない、かわいい女の子のことはそう呼ぶのがフツウじゃ、」
「そんなフツウ、聞いたことないわ、」
「まあ、こんな辺境で山賊どもの間で暮らしておればなあ、」
「それにあたしのこと可愛いなんて言うのは、もうそれだけで大嘘つきの証拠だわ、」
「それは・・・ まあ、人それぞれ、」
「あなた、神様じゃん、神様が嘘ついていいの?」
「神様は・・・ ウソつかない、」
「べつに、いいのよ、バカにされてる、ムシケラ以下の扱いには慣れてるし、」
「アトゥーラ、イジケテルお前もカワイイのだ、」
「も、もういいわ、話しは終り、さあさあ、ほら、
バスポラたち、どしたの、もう満腹なの? まだ金色に燃えてるのね、
それ、なんかの合図? それとも目印?」
足元を四つの焔に囲まれた人形師は
その時 振り返った
その青い、底無しの淵に似た二つの眼が驚愕に見開かれる
巨大な、無限にも等しい、暗黒のアギトがすぐそこに迫っていたからである。
後書き
ご無沙汰しております。あのとんでもない引きからはや一月半近く、
私の願いも空しく我がヒロインは死んだまま、というか、半死半生? の不思議状態で経過観察中でございます。
まあ、相変わらず口の減らない女の子の面目躍如ではありますが、この先どうなるのか
サッパリです。
ついでに、出張からお帰りの姉上様、そうそうに引用本の捜索にコキ使ってしまい御免なさい。
でもこれはシャリーどんが悪いのです、なんか聞いたこともないような変な作家を引用するのでアタクシ面食らっております。でも、そんな変な本を全部持ってる姉上も姉上です。
ごっついし、重たいし、バカ高い本ばっかしです。姉上がいつも一張羅でしかも化粧品買わない理由がわかったような、あ、すみません、余計なことでした、こんど何か美味しいモン食べに行きましょーね(もちろん、オゴリマス、ハイ)。
さてさて、お話は一向に進みませんが、どうかお許しください。
「森の門の前」は、ようやく終り、やっと「森の中」へ突入・・・ ? できたらいいなぁ、
と、思っております。どうかお見捨てなきよう伏してお願い申し上げます。
・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・
「飛箭」に関連してシャリーさん、突然ウンチク語り出した際にいったん付けた欄外注ですがあんまり煩いのでボツにしようと思ってたんですが、ちょっと考え直し以下に再録しておきます。
実は姉上もこのMusilさんの隠れファンだったらしく(どおりで関連本が山ほどありました)、
このシャリーさんの入れ込みようがちょっぴり嬉しかったそうな、
で、以下の形で本編中に挿入されてたんですが、あんまり読みづらく、邪魔っけなので削除は当然なんですけども・・・
【訳者補記】以下は登録不要、と思いましたが、姉様が残せと言うので置いときます。
趣味悪過ぎと思うのですが、つまり、話の腰を折ること甚だしい・・・ほか、いろいろ。
<SB氏曰く、同じく、Musil全集第2巻「黒つぐみ(アムゼル)」「ポルトガルから来た花嫁」「ある兵士が語る」そして「日記」を参照とのこと>
<※中尉・・・ (訳者注)所謂この「火の洗礼」当時、この作家さんの軍隊での階級がなんだったのか確かめる必要があったのです。シャリーどんは無造作に記憶のままに中尉としてますが、ここは3巻本の例のクソ重たい伝記で確かめておきたかったのですが、姉様に聞かないと場所がわかりません(出張中)、以前姉様曰く、コリーノさん、重箱の隅つつきすぎ、だそうですが、アタシはチラっと見た限りでは、そこがおもしろかったような気もしておりました(蛇足ですが、ここに出てくるマルタ夫人は本当にスゴイ(エゲツナイ)人デス、正直な感想・・・ この伝記の影の主人公、まさに女神様(ただし、エロイ)です)。結局当該箇所は第2巻の667~669ページでした。
☆ここでいう全集は、ローヴォルト刊の二巻本(フリーゼ編 薄葉紙刷 2000年増補版)、
また、
日記(圓子修平全訳)、伝記(コリーノ著、全3巻)は共に法政大学出版局刊
以上全て姉上の蔵書デス。
(訳者注追記)あとで姉に聞いてわかったので追記完了、よってこの補足注は全部省略してよい>
ということだったのです。
で、なんでこんな長々と再録しまくるのかというと、
シャリー・ビョルバム曰く、理由は二つあるそうな、
まず
一つ目、Musilは、我が原棲息するドイツ語圏では最重要の作家であるにもかかわらず最も読まれていない、それがいかにも残念、ということ。
二つ目、Musilこそ、我が再執筆に際して目標・手本となるべき最も好ましい作家であり、
就中、
Die Portugiesin、そして Die Amsel、の2編が最終的な目的地とも見なしうる高峰だということ(あくまでも我が主観での見立てであり、一般的にはこれらを傍系とみなし、あくまでも主著を持ち上げ続ける習慣!の根強いことは承知の上、
にもかかわらず=トロッツデェーム、
我が愛は、ケッテン殿とポルトガルの女との奇妙な関係性、その幼馴染みをも巻き込んで展開する微妙極まる三角関係を描写するMusilの腕の冴えに、いまだ釘付けとなっておるし、
[その両親、そして作家自身が演じ、或いは巻き込まれた、まぎれもない現実の、奇妙な三角関係がモデルになっておるのだが・・・ ]
その物語の圏域が、ほとんど最高級の童話に等しい達成となっておることも疑いえない)。
〔もちろん、ノヴァーリスという先蹤があるにもかかわらず、こういった展開(評価)には異論や疑惑もあることは確かであるが〕
この二つである。
Der Mann ohne Eigenschaften、彼が文字通り命を削って書き、そして斃れた、痛ましい主著だが、これが本質的には失敗作である、壮大極まるが本質的には廃墟に等しい・・・ だが、栄光に満ちた無限の廃墟である・・・
(無論ここで、運よく亡命でき怪作「ウェルギリウスの死」を完成させえたブロッホを対比したところで、その卓越性は明らかだが)
ということ、
「ある夏の日の息吹」がその頂点であるにしてもそうなのである、云々、云々、とまあ、
これらによって、我が親愛なる読者の方々は、甚だ怪しげなる本作の目指すべき方向、さらにはその決着点をも推測可能、で、あるやもしれぬ、と期待できるからである、
などと、熱く?語るシャリー氏を無下にもできず、馬鹿丸出しの付け足しではありますが、
やってしまいました・・・ どうかお笑いくださいませ。
【訳者追記】
な、なんと、今気付きましたが、ブックマーク様が2つに増えております。
一つ目を頂きました時、たしか姉は卒倒しておりました。
二つ目を頂きました、これ、まさに驚天動地・・・ な、ことでございます。
大変嬉しゅうございます。有難うございます。
一が二になる・・・ ・・・ なんというオソロ、いえ、素晴らしいことでしょうか!!!
身の引き締まる思いです。
20230824追記




