第1巻第2部第1節の続きその12 「手術終り 続きその6 大雀蜂ジーナ その5 門の前・続き シルバ・シルバの下にて」
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「さてと、」
騎士グリモーは立ち上がった。かすかに首を捻っている。
「逆袈裟に切り上げたんだからな、血糊はこう付くはずだが全然付いとらん、俺の腕がまた上がったのかな? ふふん、」
軽く拭った剣を鞘に納めた。腰の水筒から一口飲み、二口目、口をゆすいでペッと吐く。
空を見上げる。シルバ・シルバの天辺、南東の三角かどぎりぎりに、一羽の大鴉が、首をかしげて見下ろしている。〔これはまた実に興味津々の覗き込みなんであるが・・・〕
男は振り返り、剣の鐺を、べったりへたりこんだまま動かない小娘の頭の上にそっと置く。
静かな動きだが優しさはカケラも無い。
アトゥーラは頭頂にかかる剣の重みを感じていたが1セカントも動かない。
「そいつはなんでお前をかばったのかな?」
乱れた赤髪が微かに揺らぐ。
その膝先1000セカントの地面には小さな仔狼の体が横たわっている。
但し、首と胴体はすっぱりと離ればなれになっている。
夥しい血潮が春の野の可憐な草花を染めている。
「なんとか言え、」
鐺はつかず離れずすぅうと項まで下がり盆の窪のすぐ下、やや赤みを帯び薄汚れた肌の一点に止まる。薄ら寒く、ほとんど悲惨なまでに脆そうな頸骨の突起※。
<※頸骨、正確には第七頸椎>
「わかりません」
「こいつの動きに迷いはなかった、一直線に突っ込んできたぞ、」
アトゥーラの目線はさっきからずっと仔狼の体の線に沿い尻尾の先から血の池を経て、まだ今にも憎まれ口を叩きそうな、鼻先と口もとまでを、左右に、ゆっくりと往復している。
鐺がスッと持ち上がり、左肩の上にストンと落ちる。か細い体の全体がビクリと震える。
「まただんまりか? も少し痛い目がみたいのか?」
小娘はハッとしたように顔を上げた。蜂の羽音が聞こえたような気がしたのである。しかし姿は見えない。
「ず、ずっとつけられてました、」
声がかすれていた。
「なに、なんだって?」
「こいつらにつけられてたんです、」
「こいつらだと?」
「もっといたんです、母狼もいました、あたしを食べようと思ってたんだと、」
「そんな気配はないぞ、」
「いたんです、でも、グリモー様をみて逃げました、これが、この子だけが横取りされると思って牙を剥いたんだと思います、」
「一番根性のあるヤツだったのか、」
「それはわかりませんけど、無謀なやつです、バカです、」
「ちげえねえな、」
グリモーは嘲笑したが目は笑っていない。剣を肩に担ぎ直し改めて狼の死骸に目を向ける。
「まあいい、そいつは皮を剥いで持って帰ってこい、道具はもっているな、」
「車に山刀を積んでます、」
「また襲ってきたらどうする?」
「火縄ももってます、」
「フフン、」
男は鐙に足を掛けたがすぐに戻ってきた。そして打刀を持ち直すとアトゥーラの右肩に何の容赦もなく打ち下ろした。白銀の延べ板を巻き締めた高価な鞘だが棍棒の代わりにもなる頑丈な代物である。小娘は強烈な衝撃に堪らず這いつくばったが声もでない。男は乱れたスカートの裾から覗く白い足首に目をやりながら憎々しげに呟く。
「おまえ、ちょっと見ない間に随分生意気になったな、
口の利きようがなっとらん! ま、ウェスタの仕込みだしな、あとで文句を言っとこう、」
そして乾いた笑い声をあげながら、しかし、やや不機嫌そうに走り去った。
*
白花スミレソウが朱に染まり紅花菫となっている。その一本が口の中に飛び込んでいた。
土?が苦い。そして花は血生臭い。
アトゥーラは、おずおずと右手を伸ばしバスポラの尻尾の先に触れる。そこは少しも血に汚れておらずきれいなままだ。肩がズキズキと痛む。大地に耳をつける。蹄の音が遠ざかって行く。力を振り絞り起き直る。
涙がバスポラの胴体、白く柔らかいお腹の上に落ちる。まだ微かに暖かい。小娘はその背中や脇腹、尻尾の先まで、いつまでも撫で続ける。
短く太い右手を握り振ってみる。
さっきあんなに力強くあたしを叩いたり押したりしてたこの手は、
いま、こんなにグニャグニャで頼りない。どしたの、なんとか言いなさいよ、
この嘘つき狼、えらそーに、何が命の危機なんてありえねえよっ!!
こんな簡単に殺されちゃってそれでも万能のラグンの息子なの!!
ねえ、なんとか言いなさいよ!!!
こんのアホ狼! ダメじゃない、立派な髭が折れちゃってる!
なんなの! なんなの! なんなの!
アトゥーラは意を決したように、だが、ほんの少しこわごわとだが、
バスポラの首を抱き上げた。まだ血が滴っている。
胸元が汚れるのもかまわず抱き締める。ずっしりと重い。
微かに口が開き舌がのぞく。
なんてだらしない、だらしないじゃないの、
しっかりなさいよ! なんか、なんかしゃべってよ!
こら! バスポラ!
しかし、返事は無い。
テンニンウグイスが長閑に歌い始めた。はるか上空で鴉のだみ声がする。
アトゥーラは見上げた。シルバ・シルバの角に大鴉が一羽・・・
娘は立ち上がった。首を抱いたままよろよろと大岩に近づく。
再び鴉がガアッと鳴く。
「ダメよ、あんたらのご飯になんかさせない、この子はちゃんと埋める、おまえらなんか掘り返せないほど深く、深く埋めてあげる・・・ 」
そうです、開き直りました。
チョイ、チョイ、チョイ、チョイ~~
と
小出しにでも ウプして行くのです、
それが~~~ お前の~~~ 生きる道~~~
という訳で、実にコマギレで申し訳ないのですが、
ボチボチ訳し続ける今日この頃・・・
さてさて、リアルは、はや年末進行フェーズに突入しつつあり
お休みさえママならぬ超忙しいこのワタクシ、
年内にもう一回ウプできますか、超ビミョー・・・
アンタねえ、読んでくださっている人の身にもなってみな!
と姉の罵声が突き刺さる、超アブナイ日々・・・
すみません、すみません、
このまま・・・
いえいえ、そんなことはありません、
また、読者の皆様の疑問に答える別の企画も進行しております。
どうか、ゆるやかーーに、ナマあたたかーーく
おん見守りいただきますれば幸いです。
あっ、おねぃちゃん、そんなとこめくっちゃだめですぅーーー




