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第1巻第2部第1節の続きその6 「手術終り ラグン訝る」

「あー、疲れた、こんなお手伝い二度と御免だわ、」

ラグンは同意を求めるかのように子供達を顧みた。三頭の仔狼はそれぞれ全身の毛を逆立てながら低くドスのきいた唸り声をあげる。

「ねえ、ドナドナ、この子ほんとうにただの人間なの?」

「もちろん、掛け値なしにそうだ、」

母狼は総身を震わせ何か憑き物を祓う仕草も兼ねるかのように三度大地を蹴って跳ぶ。

〔このかろやかな跳躍には、ある不可思議なリズムがある、今はまだ解読できないが・・・〕

仔狼どもは鞠のように転げ回り、また互いに、荒く、噛み合ってもいる。まだまだ、異様な興奮がこの四頭を支配しているようなのだ。

四度目、強力な四つ足を、四つを一点に揃えて、大地に、軽々と突き立った灰青色の巨大狼は、

ほとんど地を噛まんばかりに項垂れ、次の瞬間、全身の毛を逆立てた。

青い、異様な青さの炎がその全身を包む。仔狼どもは目にも止まらぬ早さで逃げて行く。

ラグンは頭を振り回し、牙を鳴らし、虚空を噛み鳴らす。

風がおこる。

大気が悲鳴を上げ、原子崩壊に由来する光の波を漏れ散らすようだ、

ラグンの大顎は大地にせり出した黒暗暗たる大隕石の塊、六方晶金剛石をも含む貴重な岩塊を難なく引っこ抜き軽々とくわえあげる。次の瞬間、星と大地の合作たる最高硬度の物質は完膚なきまでに粉砕され微塵となって森の彼方へと拡散し溶け流れ散って行く。

「特に調子が悪いわけじゃない・・・」

ラグンは不服げに唸る。

「あんたがあたしを頼ってくれたのなんて何年振り?」

「さあてな、」

青い帽子の男は、眼下の小娘をやや気遣わしげに見下ろしている。

気絶したまま、苦しげに身を捩り、まだ微かに全身を痙攣させているが呼吸は穏やかだ。

新しい左手には荒皮(一体、何の毛皮だろう、色は緑・・・)の包帯がまかれている。

一切の予備調整をすっとばし、いきなりぶちこまれた石の眼球は新しい保護膜を自力で形成しながらゆっくりと見知らぬ未知の組織の奥へと沈み込みつつあるようだ。

「まあしかし、足癖の悪い子だったわねえ、」

「お前とタビリス、ポアンらが全部押さえてくれなんだら、接合に失敗したろうな、」

「それよ、それ!」

母狼は不満げにガチリと牙を鳴らす。

「タビリスは歯が欠けたってこぼしてるのよ、あたしだって顔を何度も蹴られたし、

クッソ腹が立ったから一回噛み砕いてやろうって膝の下辺に思いっきり噛みついてやったんだけど1セカントも通らなかったのよね、掠り傷もよ、有り得る?」

「それはこの子の責任ではないのでな、」

「一体誰?」

「イヨルカってやつさ」

「守護霊体ってやつ?」

「ム、ちょっと違うが、ま、似たようなもんだ、」

「あ、そうか、始める前に、なんか念押しして頼み込んでたもんね、」

「ややこしい話さ、」

「あ、それともう一つ、あの時、ちょおっと時間巻き戻してたでしょ※、あれは?」


<※時間巻き戻し・・・ これは、当然、その時空内では認識し得ない事態である、これを認識しうる存在者は・・・、 ムムム、 ということになる、後出、変次元加速度などという似非で、擬似な、術語に惑わされる必要はない>


「気付いてたのか、さすがだな、」

「あんな気持ち悪い変次元加速度感じない方がおかしいわよ、」

「手術の時間帯としてはだな、南中前、真昼の手前が一番よかったんじゃ、」

「今さっきかな、南中しちゃったわよ、」

「それでいいんじゃ、我ながら、完璧じゃな、」

「でも、なんでそう真昼って時間にこだわるの?」

「こういった極端な施術とだな、子午線通過の正確なタイミングは同期※させるのが一番よい、」


<※正確には、同期ではなく、ある時間帯の選択とでも言うべきもの

しかし、このコダワリは奇妙である・・・ >


「えらく宇宙的なお話なのね、」

「宇宙的? そんなお手軽なことではないぞ、」

「そなの?」

男は空を見上げた。若いブナの淡々しい樹冠どもが、ほぼ真円を描き青空を区切る。

天空の瞳がこちらを覗き込んでいるという風情である。

「全宇宙、いな、全時空をも、揺らがせ、どよもす波動が・・・

この仮想の正四面体から発出してゆく、

そういうヴィジョンがある・・・ 」

「また、変な話になってきた・・・ 」

「最後の、いな、それが最後か、誰にもわからんが、究極の、と言ってもいい、ある特異点が、」

「あっ、もういいわ、聞いてもわかんないし、それよりこれ、」

ラグンは、さっき自分の舞踏が巻き起こした旋風がアトゥーラのスカートを乱しているのを気遣った。

二本の華奢な足が剥き出しになっている。いつの間にか仔狼たちが集まっていた。しきりに小娘の膝や内腿の辺りを嗅いでいる。一頭が、一番小柄で臆病そうな奴が、〔これは、バスポラだったが〕いかにもおっかなびっくりという風に鼻を使い、小娘の左膝を嗅いでいたが遂に意を決したように、やおら大口を開けて噛みついた。そのまま離さず、喉の奥で、妙な、ほぼ猫のような、ゴロゴロ音をあげている。

ー お母さん、これヤッパ硬い、ー

ー やめときな、歯が痛むよ、ー

ー でも、なんか、スゴク気持ちいいんだけど、どうしよう、どうしよう、全部食べたい! ー

もう一匹はさらにスカートの奥に潜り込み、なにか必死になって舐めているらしい。

ー かあちゃん、これここ変な匂いだけど。すごくおいしいんだけど、あれ、変なの、ドナドナじいさんの匂いもする、ー

「こらこら、」

男はすこし慌てた風に仔狼どもを追い払った。そして隠しから例の青手巾をひっぱり出すと小娘の足をきれいに拭いてやり、次に懐からはアトゥーラの哀れな下穿き?を取り出しややそそくさと穿かせてやる。ラグンが鼻先をすり寄せ検分する。

「もう処女じゃなくなっちゃったのね、」

「いやいや・・・  いやいやいや、

そうじゃない、ある意味、この子は永遠に処女のままなのだ、」

「でもあんた、この子に目を入れる時も、物凄く変な格好だったじゃない、

それにあん時これ脱がす必要なんて全然なかったと思うわ、」

「ま、まぁー、微妙極まる作業だったからの、あの姿勢が最善だったんじゃ、」

「なんか怪しいのよねぇー 」

「ま、ま、なんにせよ成功してよかった、実に久々のアレじゃったからの、よき合作じゃったと言うべきかな。」

「なんだかなぁー」

母狼は人形師の口調にナニホドカノ後ろ暗さを感じ取りはしたもののそれ以上の追及はできなかった。小娘が突然右足を蹴り上げ暴れ始めたからである。


追記

ちょっとだけ追加と語句修正いたしました。

それとすっかりうっかり忘れてたんですが、四月の始めに

「超時空蟋蟀シャリー・ビョルバムさんの仮人名録」なるものを公開させていただきました。

すぐに告知をしておくべきでしたのにリアルにとり紛れ完っっ璧に失念しておりました。

こないだ、姉に怒られて気がつきました。どうかお許しください。

相変わらず、シャリーさん節全開の、堅苦しく、読みづらい、変な人名早見表でホントに申し訳ないです。しかも、実現可能かどうかもわからない何万ページ先かのシチュのネタバレも含んでおるようです。頭痛いです。でもとりあえず目を通していただくと、なにほどかご参考にはなるかと、敢えておすすめしてみようかなぁー、と思いました。

さて、肝心の続きは、あともう少しでアプ予定でございます(あくまで予定でございます)。

また、尻切れトンボになっている途中何ヵ所かの追加訳も、鋭意(青息吐息の間違いでは?)

進行中でございます。

どうかどうか気長にお付き合い頂ければ幸いです。

20220518

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