第1巻第1部第33節の続きその6 「馬部屋にて その1」
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老僧カーノイ=ヨナルク・バスマリオンは視覚のみを頼りにしているのではなかったからドアの向こうに伸びる異様に長い廊下に驚きはしなかったけれども少しばかり意地の悪い皮肉な表情を貼り付けたままほんの一瞬だけ立ち止まって辺りの臭いを嗅ぐ仕草をした。左手にズラリと並んでいるのはよく整理された商品戸棚(主たるは毛皮、そして獣骨、干し肉、燻製肉、
薬石薬草、純粋鉱石および準宝石の類いその他もろもろ、を詰め込むのである)でありその一部は鍵付にもなっているが見たところほとんど空っぽである。とっつきの右手側は調理室の後ろ半分らしく広々としており精肉や革なめしその他の作業場兼資材置き場(バター攪拌機、チーズ搾り器なども見える)であるらしい。比較的心地よい獣皮の匂いと作り置きのごった煮スープの香りがごちゃまぜになり結果的に悪臭に近いものとなっているのはご愛嬌である。ほんの微かだが屎尿(主に馬どもの)の気配がずっと奥から一本の棒のように鼻を刺しに来るのは予告通りなのだった。カーノイは、己が仮の肉体の強度に対して聊かの疑念を抱いていたから足取りは慎重であり左手は半ば探るように毛皮棚を撫でながらゆるゆると進む。古ぼけたホウロ・ランプが申し訳のように吊り連なっているがほとんど薄闇といってもいい明るさなのである。そして馬部屋のドアは珍しい型の観音開きだったが蜻蛉の羽のように軽く音もなく開き丁度ブラシをかけ終わったヴェスタが妙な顔付きで振り返るのと目が合ってしまうのだった。
「なに?」
「厠はどこじゃろな、こっちじゃと聞いてきたんじゃが、」
「あっちの奥よ、そこらへんのものを蹴とばさないでよね、」
ここは廊下と違いかなり明るく、おまけに異様な暖かさだった。というよりも、ほとんど暑苦しいほどの温気がこもっていた。もちろん、馬3頭とロバ1頭の体温と呼気が入り混じり床中央の排水兼清掃溝の臭気が加わってもいたがそれだけではなかった。右手の壁際の床近く大人の腰掛の高さで大ストーブからの排熱管(二ヶ所の反転式閉鎖弁付き)が走っているのである。客用の馬房は左手、反対側の壁沿いに八つ並んでいたがその一番手前がイヨルカの割当らしかった。
「ヒンハン! ヒィィーンフォイフォイ!」
「フォロヴォイ! ヴォン、ヒスヒィス!」
耳障りな喉奥の声で鳴き交わしつつ男はそそくさと進む。セッパつまっていたのである。ロバは、自分の房に戻るとさっそく隣のグエンドーの馬房を覗きこむように首を伸ばし大袈裟な歯軋りをしてみせたりしている。やがて両手をハタハタと振りつつ、ゆったりとした足取りで戻ってきた男は、ロバの鼻息のかかる位置にぴたりと立ち止まった。
ー よう、カワイイ女の子のブラシがけはどうだったい!? ー
ー かわいい? か、どうかは置いといて、オフォン、腕の方はイッパシね、ー
ー オイオイ、ー
ー でも、この子が女の子でよかったわ、ー
ウェスタは道具を片付ける振りをしながらこの不細工な驢馬と老いた修道僧の無言の見詰め合いになぜか引っ掛かりを感じるらしくちょいちょい盗み見をしていたが、ついに腰を伸ばしこの珍妙な主従をじっとねめつけた。
小娘の意図に関わりなくその凄まじい藪睨みが威嚇に満ちた不審の表情を顔面に貼り付ける。
ー なにか熱い視線を感じるな、こめかみがチリチリするようだ、ドーモ癖になっているのかな? 似たようなことが起こるとは、これいかに、ー
ー 御主人様、御主人様、ー
ー なんだ? ー
ー 女の子に睨まれるのが快感であるとおっしゃる、ー
ー そんな趣味はないな、ー
ー でも、まんざらでもなさそう、ー
ー いやいやいやいや、そんなことより、これが女の子というのなら、ー
「おい、坊さん、」
ー おまえの予言を果たさねばならん! ー
「何かな? 」
ー もちろん! ー
「こいつの名はなんて言うんだ? 」
「名前なんぞ無いがの、」
「そうなのか、坊さんはたいてい自分のロバに名前を付けてるぞ、」
ー では、ゆくぞ、イヨルカ、ー
ー ええ、ヨナルク! ー
「そういう風習もあることはあるがの、」
ー かわいそうな子、でも、うらやましい、うらやましいわ!ー
ー おまえの根本付託なのだ、しかし、なにが起こるのか、わしにもわからんぞ!ー
ー ふふ、あなたがそんなこと言うなんて、ふふふ・・・ー
「こいつには名はつけとらんのじゃ、」
「それにしては凄くなついてるな、」
「そうじゃろか、こいつは凄く扱いにくい、強情もんなんじゃが、」
ー ああ、ヨナルク! この子は! ほんとにメッケモンだわ!ー
ー ふん、まさにな!ー
「長い付き合いなのか?」
「そう、まさに、長い、長い付き合いじゃ、」
「じゃあ、売っぱらう、なんて気は、もちろんないな!」
「そりゃ、無理じゃ、こいつとわしはもう一心同体に等しいからの、」
「っていうことは、あんたがおっ死んじまえば、こいつも死んじまうってほどか、」
「一心同体ってことは、そういうことじゃな、」
「そいつぁぁ、あまりうまくないな、」
「そう、まさに、必然的に、神慮によって、引き結ばれたもの、引かれ合うものを引き裂くということは、もっとも残酷なことじゃ、」
「俺はむずかしいことはようわからんが、悲しいことは、そうだな、この世では、ありがちなことだってことは、よっくわかってるつもりだ、」
「なあ、嬢ちゃん、」
「なに?」
「おまえさん、足を痛めとるじゃろ、」
「べつに、」
小娘は右足を突きだし、すこし広がったステキなスカートの裾をバサリと払って見せた。
「なんでそんなことを聞く?」
「その鈴の音が、」
老僧が左手をゆっくりと伸ばし、その白い魚の腹のような掌を翻す。
それは、ドロノキの銀の葉裏のように、夢の中に呼ばわる風の招ぎ手のように、
なにごとか、呪言を囁くが如く、閃き、さやぐ。
さらに低く、世界樹の幹の虚ろ(うつほ)が呟くが如く、暗い言葉が、大地を揺るがす、くぐもる響きとともに続いてゆく。
「おまえの足首の嘆きを教えてくれる、その音が、さきほどの活劇の意味をも教えてくれる、」
「べつにどこも痛くなんてねえよ、」
「いーんや、ほんのすこしだが、足を引き摺っておる、ほれ、隠しとらんでそっちの足を見せてみな、」
男はさらに手招いた。娘は後ろに引いていた左足を隠すようにさらに身構える。
「ほおう、ほぅーら、ウェスタ・サラザン、ヴェランの白き狼の娘よ、」
男は唱うように続ける。
「おまえの肉体のすべては、この手の内にある、こっちへ来い、さっきの続きじゃ、そのアンクレットを見せてくれ、」
ウェスタの浅黒い頬は一瞬上気し赤く染まったが、すぐに蒼白となった。
目に見えぬ魔神の手が、か細い腰の中央をひっつかみ手荒く引き寄せたか、娘の身体は一本の柳の枝のように僅かに撓められたまま男の前へと、かろがると、滑らかにすべり寄る。
「足を見せろ、」
微かに震える両手がゆっくりとスカートをまくりあげる。驚くほど白い、しかしすんなりと形のよい両足がほとんど太ももの半分近くまで露わとなる。老いた修道僧はその右手でロバの鼻面を軽くなぜてからゆっくりと片膝をつき、長細い両手の、裏表全てを使って小娘の動けぬ両足のあちこちをまさぐり、撫でさすった。
ウェスタの薮睨みの瞳の奥に微かな苦痛と嫌悪の色が浮かぶ。
「なるほど、フフォイ!」
男は満足げにロバのイヨルカを振り返った。そして素早くアンクレットを外し、目の高さでためつすがめつする。
「ほうむ、ようできとる、見事な細工じゃ、散機の神具じゃが、ほん、残念、ワシにはきかん、」
中心点たる純銀の鈴を指先につまみ、転がしながら独りごちる。そして空いた方の左手で娘の踝に触れる。アンクレットの内側あたりに内出血の痕、微かな腫れもあるようだ。
「おまえさんがご亭主の蹴りを合図に跳んだ時じゃ、ほぅーーむ、箱を抱きかかえての、守ってくれとったことはわかっとったんじゃ、まあぁ 一見荒っぽいがの、手っ取り早い値踏みじゃわな、」
娘はしかし、全く抵抗不能な力に対してさえ全力で抗うつもりらしい〔恐ろしく利かん気なのである〕、その細い尖った顎先は微かに、ほとんど絶望的な悔しさを滲ませながらも細かく震えている。
「しかし、見事な体術の冴えじゃった、かなり鍛えられとるにはちがいない、」
男は娘の内踝の骨を押す。娘の顔が苦痛に歪む。
「折れてはおらん、しかしほうっておけば二三日腫れ上がって歩けんようになる、」
ー わしが軌道をちょいと逸らしてやったことには気付いとらんな、ー
ー 正確にはテュスラの仕業ですけどね、ー
男の長い掌が小娘の足首を包み込むように掴む。
「まあええわ、おまえさん、後の仕事もあるからの、治しといてやろう、」
鈴の神器もつけ直してやり、そして手を離し立ち上がった。
「もうええよ、そのきれいなアンヨもしまっときな・・・
ホウオレ、にしても見事なスカートじゃな、お手製じゃろ、」
「俺のスカートに何か文句あるのか?」
ウェスタは目をちょっと瞬きながら淀みなく応えるが、何故か瞼をこすっている。
「どうした、何故泣く?」
「別に泣いてなんぞおらん、なんか目に滲みただけじゃ!」
「それはそうとの、ちょっと聞きたいんじゃが、」
「なんだ、坊さん、」
「おまえさんは一体いくつなんじゃ?」
「なんでそんなことを聞く?」
「いや、なに、そのスカートはいやに大人っぽいがよく似合っとるしの、なんか不思議な感じがするんじゃ、」
「ははーん、」
小娘は悪戯っぽく北楚笑んだ。
「こいつはとんだ生臭坊主だな、」
「長く生きとるとの、できることとできんことの境界がだんだん見えてくるもんなんじゃ、」
「男ってやつはみんな同じだな、屁理屈ばかり捏ねたがるが、目指すところはただ一点か!」
「そんなことをいえば女だって似たようなもんじゃろーが、」
「まあいいや、」
ウェスタは軽く鼻をすすり上げた。
「このスカートは母様のお下がりだってぇのは見ての通り、」
「ふむふむ、」
「で、ヴェランの白き狼って言えば、この高原一番のいい女、ってのが通り相場ってことにはなってるのさ、」
「前途有望ってことだな、」
「そんなことは知ったこっちゃねーけどな、」
「で、わしの質問に答えてくれる気はあるのかな?」
「ねぇーよ、」
老修道僧はロバを振り返り情けなさそうに肩を竦めた。
「なかなか手強いな、」
「ヒンハン!」
「では、こうしよう、嬢ちゃん、」
ウェスタは軽く足踏みをし、首を傾げている。幽かに、単調な鈴の音。
「そのスカート、手を触れてみてもいいなら、まず1枚、」
「なめてもらっちゃ困るな、」
首を振る小娘に向かってゆるい放物線を描く白い物体が一つ。娘は掌に収まった銅貨、ではなかった、銀貨1枚を見て微かに息を飲む。が、
「母様の形見なんだぞ、なめてんじゃないぜ、」
男は構わず続ける。
「アンクレットをちゃんと見せてくれるなら、もう1枚、」
しかし次に飛んだ銀貨は、さらに大型のドルカニ公コインである。
「話にならんな、」
娘は意固地に首を振る。
「で、もうすこし、上の方まで見せてくれるんなら、」
薮睨みの小娘の顔色が何か険悪な感じに青白くなる。極度の緊張の証しではあろうが口元には微笑のカケラも無い。
「さらにグンナル銀貨をホイホイっとな、もう3枚じゃ、」
三つの放物線を難なく受け止めたウェスタはようやく唇の端を僅かに持ち上げる。
「坊さんよ、」
娘は心底呆れた風に口を切る。
「おまえ、本当に托鉢修道団なのか?」
「なぁーに、この本能がなければ人の世は滅びるしかないんじゃ、まぁーず多少は大目に見てやらんとな、」
「そこらの酔っ払いの戯言そのまんまだな、」
「で、おまえさん、いくつなんじゃ、」
「ふん、しつこいな、歳なんて意味ないぞ、聞いてどうする、」
「いや、どーもせんがの、ただ、知りたいだけなんじゃ、」
ウェスタはようやく諦めたらしかった。軽く息を継ぎ、肩をそびやかした。
「来年の母様の命日がくれば、12歳だ、」
「ほう、12歳! にしては色っぽいな、」
ー この子、嘘つきね、あたしの見立てではどう見ても8つくらいかな、いえ、ひょっとしたら、実際7歳くらいかも、ー
ー ふむ、月のもんもまだだしな、しかし、成長速度の過変動(異常な加速と減速)にハグレ魔神やらヤクザな土地神やらがかかわっとるのはよくある話し、ー
ー どっちにしろ、やっぱりメッケモンだわ!ー
ー その通り ー
「ふん、おだてても何もでんぞ、」
「お世辞おべっかの類いではないぞ、正直な気持ちじゃ、おまえは美しい、」
「おまけに完全な嘘つきだな、俺を女扱いした男なんていたためしがないぞ、」
「それは・・・ ここが寂しすぎるからじゃ、見る目のある男なんぞ通りゃせんじゃろが、おまえのオヤジさん、エイブと言ったかな、あれは別にしてじゃ、ほれ、さっきの三人組、あやつらなんぞ完全にヤクザモンじゃろが、」
「フン!」
ウェスタはクルリと回転し唾を吐いた。重いキルトのスカートがふわりと浮き上がるほどのスピードである。一瞬二本の白い脛はぎが輝くように目を射る。
「ケダモノ以下よ、あんなやつら!」
そして急に起き上がり元気になった重病人のような陽気さで背筋を伸ばし腰に手を当てた。ちょっぴり背伸びもしてみようかしらん、などという気分であるらしい。ついさっき見た、ブラシをかけていた時の、どことなく暗い陰鬱な影はカケラもない。
「さて、そろそろ仕事にもどるかな、」
「おーいおい、そこの別嬪さん! 大事なことを忘れとるぞ!」
「やかましいな、ここには別嬪なんておらんし、美人だってカケラも落ちちゃいないぜ、他をあたりな!」
「殺生じゃな、年寄りを虐めるもんじゃない、一目、いや、一瞬でいいんじゃ、おまいさんの○○○○を拝ましておくれ、」
馬部屋の扉に手をかけていた小娘は、さっと振り返った。腰の後ろに手挟んでいた小刀が目にも止まらぬ早業で抜かれている。神速の逆手居合いであるが、間合いのみを切り放ちそのまま引き止めているのはほとんど憐れみに近い示威行為〔のつもり〕なのである。一呼吸遅れ老修道僧はよろめきながら二三歩後ずさった。完全に息が詰まったらしい。そして哀れっぽい半泣きに近い声で呻いた。
「う、あ、ち、ちょっと危なすぎるな、」
「わかったんなら早く行きな、オヤジの料理もそろそろできてる頃合いだぜ、」
「じゃが、じゃが、今夜の宿賃のなん十倍もくれてやったのはどこへ消え」
小娘は刀身を引きつけ己が頬にヒタリと当てる。
「こいつは大殿様にもらった逸品、オリファンド鋼の業物なんだ、も一度投げてみな、空中で真っ二つにしてやるぜ、二倍になるわけだぜ、」
「そ、それは凄いが、じょ、嬢ちゃん、わしは、実は刃物にも詳しいんじゃ、オリファンドの短刀なんぞ滅多にめつかるもんじゃないんじゃ、じ、じかに拝ませてはくれんかの?」
「いいぜ、」
娘はあっさりと小刀を手渡す。男はまじまじと刀身に見入ってみる。その白銀の輝きは魂を奪う美しさだが、どこか不吉な色合い(クモリ)を帯びているようだ。
「言っとくが、そいつは双剣の片割れなんだ、俺はもう一本持ってるからな、」
「そうけん?」
「双子の剣だ、」
「母親の技を継いだのか?」
「そういうことになるな、でも、実際に習ったのはオヤジからだ、」
へっぴり腰だった老僧は既に立ち直っていた。刀身を丁寧に拭い小娘に返すと、大きく一つため息をついた。
ー 恐ろしい娘だな、こいつはもう何人か人を切っとるぞ、ー
ー あたしとしては、ー
イヨルカは続ける。
ー この子が今まで何人殺してようと、なんの問題もないですわ、というか、むしろ好都合、それよりも処女かどうかの方か気になるわ、っていうか、なんでさっき呪言で縛ってた時にすましておかなかったんです?ー
ー いや、あれはだな、要するにだな、ちゃんと正気の女の子がだな、恥ずかしがりながら、恥じらいながら、おずおずと見せてくれる方が、わしとしては、嬉しいような・・・ ー
ー 最低ですね、御主人様 ー
「嬢ちゃんのおっ母さん、パリスタ殿だったかな、いつ亡くなったんじゃ? 」
「もう3年前、いや、4年だったかな、ん、だがこの話しはしたくねえ、」
「うむ、まあ、それはそうと、今の、その業前、ちょいと見覚えがあるんじゃが・・・」
「坊さん、デタラメぬかすんじゃねぇぞ、」
「嬢ちゃん、こう見えて、わしは実は武術にも詳しいんじゃ、」
男は若干反り身になり、高い吹き抜けの天井を見上げる。もう一度溜め息をつき、目の前の、文字通り剣呑な小娘を見下ろしたが、すぐに己が修道衣の異変に気付いた。前見頃、衿との境目にZの切れ目が入っている。指を差し入れ切り口をなぜる。そして唸った。
「ひゅーむ、4回も切っとんたんか、鼻先をなぜられただけじゃと思っとったんじゃが!」
「ふん、それでよく武術に詳しいなんて抜かせるな!」
娘の短刀は既に腰の後ろに水平に収まっている。柄頭をややわざとらしく右に覗かせているのは何やら含むところがあるらしい。二本目がどこに隠されているのかは全くわからない。
「その太刀筋には身に覚えがあるんじゃ、ひとつ質問してもよいかな、」
「なによ、」
「あんたのおっ母さん、ひょっとせんでもグネトニアの出じゃろ、」
「ふん、そうかもしれん、」
「あそこは山国じゃが、武術のさかんなところじゃ、」
「聞いたことはあるな、」
「その剣技、名はついとらんじゃろ、名無しのはずじゃ、」
「オヤジも知らんとは言っとったな、」
「ま、そうじゃろな、本来は一子相伝の秘剣、女剣じゃ、世に出るはずもないのじゃ、」
ー ヨナルク、さっきのってあれ? マイラ・スヌーンのあれのこと? ー
ー そうじゃな、まず間違いないな、去年レクトン山で大王熊が出たとき、王妃の輿を守っとったマイラ・スヌーンが使ったやつだ、神聖舞踊と区別がつかんくらい優雅じゃったが、凶悪なくらい容赦もなかったの、あの血飛沫の舞いは凄かった。ー
ー じゃ、どうせセリナにも伝わってるわね、ー
ー おもしろいな、この二人、歳も背格好もよく似ている、かたや、王妃付きの女官、かたや、山賊まがいの宿屋の娘、そうして相繋がるのは秘剣スバル・ランか、ほぼほぼ、運命じゃな、ー
「母様はなんも話してくれなんだぞ、」
「そりゃそうじゃろな、ほれ、グネトニアからこっちへ輿入れがあったのは覚えてるじゃろ、」
「よくは知らん、俺が生まれる前か、後か、そのころの話だろが、」
「そうじゃな、もう10年以上前の話じゃ、グネトニア公国の要、
ラシュダ湖の神殿騎士団ムエン・ラシュダイのことは知ってるな、」
「まあな、」
「その三美神と謳われた剣闘姫の一角がこの輿入れのラゼナ・グネトニアス、公家の正統、
処女姫として永遠に神に仕えるはずじゃったのを見初めてしもうたのがバルダモ・ワルトランディス、我らが王なわけじゃ、ま、ほぼ略奪じゃがな、」
「それはおかしいな、」
「なぜじゃ?」
小娘は腕組みをしたが、頬がほんのりと紅い。
「神殿の処女結界は絶対のはず、男は絶対入り込めないし、見初めるなんてことはもっとありえない、」
ー ヨナルク、気付いてる? 今ちょっと嵐が止んでる、それに三騎ほど近付いてきてる、ー
ー わかっとる ー
「ところがそのありえんことがおこったんじゃ」
年が明けてしまいました。何はともあれ、
アケオメ! っでございます。
本年も、気長に、宜しく、お付き合いくださいませ。
さて、この節も長いので分割いたします。
我らがお姫さまの目覚めは近い!?
いえいえ、そーは問屋でございます。
と、こほろぎどんは、嘯いておるような、おらんような・・・
姉いわく、このままでは、ほんとに見捨てられること必定!
とにもかくにもせめて第1巻の第2部の冒頭部だけでも
ちょい出し!?して我らがヒロインのカワユイお姿を・・・
垣間見すれば心たのしも、とかなんとか・・・
ヒトの苦労も知らんで、勝手なことをほざいておりますようです・・・




