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第1話第1部第19節 「薔薇園のカイアス その2 続き その1 オルホノウ尋問」

第17節の続きの一部もさきほど公開いたしましたので目次からお選びいただき、お目通しいただけましたら幸いです。この節もちょん切れておりますが、追々追加してゆくつもりでございます。

どうか気長にお付き合いくださいませ。

石板を守る3本の木立がささやかな天蓋のようにひっそりと立ち風もないのにうっとりとその梢を揺らす。その影が何かを保証するように優しく頷くのは・・・ しかし、磔にされ窒息寸前まで締め上げられて涎を垂らしている若い侍女にとって全く何の慰めにもならない。

日が翳る? いな、網膜そのものが薄い暗闇に浸されつつあるような、何か場違いにほの甘い感覚・・・

「ほーらほら、続けなさい、寝てるんじゃないわよ、」

「け、けほっ!」

「まだちょっと甘かったかな、」

オルホノウの、今はひどく曲がりくねった奇怪な親指が、カイアスの左耳の下、顎関節の僅かな隙間に音もなく沈みこんでゆく。

「ウ、ギ、ギュ、ギュ、」

侍女の左腕が糸切れ自由状態のマリオネットのようにぎこちなく持ち上がる。

「そんなに秘密なことなの?」

「カッ、ケホッ、」

「もう・・・少しかな?」

不思議にも親指の一部は節操の無い螺旋回転体となり、若い侍女の脳幹深部へ楽々と侵入してゆくようだ。

「痛くはないでしょ、でもあんまり抵抗すると廃人になっちゃうよ、」

「あ、ひ、」

「なに?」

「あいの、し、ししゅ、し、し、し、しょうさまは、」

「ふんふん、」

「と、とおっても、つおくて、び、びゅ、や、びじん、」

「あったりまえでしょ、それから?」

「しゅ、しゅっしんちふめい、えと、それから? それから? 体重不明?」

「死にたいの?」

「そ、そでから、ま、ま、あ、あったく、まあぁーーたく、

ち、ちゃらーーん、ぽらん、な、女だって、」

「ほほう、それ誰が言ったの?」

「へ、ウェ、ウ、へ、ヘンデル様・・・」

「文庫長ね、それで?」

「う、え?」

「誰か賛成した?」

「え、えと、タマーラ様が、」

「ほう、団長様おんみずからねえ、ちょっとやっかいだわ、」

「お、お、」

「なに?」

「おろし、て、」

「ん?」

「こ、こたえました、から、おろ、おろし、」

「まだ、駄目、」

「く、ぐ、ぐるじ、」

「間脳、小脳、松果腺、いまややこしいとこ、いっぱい入っちゃってるから、こいつら、好きなのよねぇ、ま、いいんだけど、」

空いた右手を腰に当て、可愛らしく首を傾げていたがその間にも侍女の両の手足はバラバラに、痙攣するように跳ね踊り、舞い狂っている。しかしそれもすぐに止んだ。今や力無く垂れ下がり塩垂れ気味に鎮まるようだ。普通なら命の別状を心配するところであるが白面の全裸美少女は一向に平気だった。ほとんど失神しかけている若い侍女の肩越しに碑陰の文字列に見入っている。古代の象形文字なのか、奇怪に複雑な線形文字を苦もなく読み下しているようだ。そしてクサメをした。

「あらっ! やだっ! こらっ! うん! けしからん!」

しかし、怒気を孕んだ言葉とは裏腹に頬の筋が緩んでいるのは・・・

内緒(或は、見間違い)である、とするべきか?





承前 「オルホノオ、カイアス、仲良く水浴する」


「ほらほら、そこ、階段付きのテラスになってるでしょ、そ、ゆっくり降りて浸かんなさい、ちゃんと洗うのよ、」

二人は泉の縁に降り立っていた。丁度龍首の反対側、鏡の水面を挟んだ向こうには例の石板とその後ろの疎らな木立どもが、偽物めく黄金わうごんの光を浴び耀きながらひっそりと佇んでいる。

「ほんとにもう、あたしにもかけてくれるなんてたいしたものよ、あなた、」

「ひ、ひどいのはオルホノウ様です、」

「ん、ドォーいうことかしら?」

「あ、あの体勢であの仕打ち、あんなひどいこと、テュスラ様にだってやられたことないです、ひどすぎます!」

「ちょっと待って! テュスラって誰よ、」

「え、ちょ、テュ、テュスラ様はテュスラ様ですよ、なんで、」

「まあ、いいわ、それよりさき、きれいになさい、あたしも洗っとこ、ちょっと惜しいけど、」

オルホノウはまだ膝下までしか浸かっていなかったが、なぜか名残惜しそうに自分の身体を撫で回している。で、時々、匂いを嗅ぎながら己が指先や手のひらを嘗めたりしゃぶったりするのだが、これがまた、なぜかカイアスには心底恥ずかしい、ありえない仕草と受け取れるらしかった。しかし、さきほど味わった恐怖が先行するのか、顔色はアルビレオの如く一定しない。そうして終いには病的なサファイア色を通り越し文字通り壊滅のエメラルドグリーンへと崩壊してゆく、老いた二重星の逆行パターンがあらわになる矛盾と順逆の頃合い、ほんとに気分が悪そうな仕草で身体を二つに折りやおら嘔吐えずくのだったが、いかんせん、僅かに一滴、また一滴、なぜか薄黄色い病気のトマトのようなか細い涎が糸のように垂れ落ちるのみ。どうやら胃の中もスッカラカンではあるらしい。

「あーあ、それはだめよ、あなた、まき餌にはちょっと変態マニアック過ぎ?!」

もう、首まで浸かってしまったオルホノウはコロコロと笑うが、心配する風では少しも無い。真白の腕を水草のようにゆらめかし、優雅に水を掻いている。

「オ、オルホノウ様、」

「なあーに?」

やはり腰を落とし、縁石にしなだれかかっていたカイアスは、己が乳房の辺りをたゆたう快い水の動きと心なしかさきほどよりよほど暖かい感触に陶然と身を任せているようだ。

「これ、飲んでもいいですか?」


全体に色調がピンクなので難儀しております。17節の続きともども、完全版(もちろん、健全版?!としてですが・・・)の暫定的な補完完了まで、ぱらぱらと継ぎ足し継ぎ足ししてゆこうと思っておりますが、カタツブリの全力疾走よりもノロイのではなかろかと、危惧しております。

この続きである第20節「愛の師匠の特訓」なる章も、もう少し時間を頂ければと思っております。次々節第21節からようやく、お話が主筋の方へ(ほんの一時的のことですが・・・)戻りますので、まずそちらの方を順次公開し、お話がなんとか続いていることを遅ればせながらアッピールしたいなあ、などと都合のよいことを考えております。

どうかどうかお見捨てなきようお願い申し上げます。

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