第1巻第1部第17節「楽しい拷問その2 (続き・その1)」
嗚咽に似た悲鳴は完璧に封じられ、やや涙目の小娘は懸命に首を振る。顔色はさらに異様な赤さとなる。
「こんなに! シーツまでボトボトにして! イヤラシイったら!」
「ぞ、ぞおぅればぁ!」
首振りはさらに激しく、口許を必死にうごめかすのは訴えることがあるらしい。テュスラは手を緩めた。
「ぶばぁっ! かはっ!」
薔薇の姫は手を引っ込めない。それどころか何かをまさぐるようにさらに腕に力を込めている。
「それは! テュスラ様のせいですっ! ずっとあたしの胸をつねったりはさんだり、おもちゃになさってたから! ああ、そんなっ!」
「この子、ほんっとに嘘つきなのね、」
「まったく!」
ダインバーントが澄まして相づちを打つ。
「嘘じゃありません!ああ、信じてくだ、あっ!ダイン様!なぜ!?」
下乳を支えるように軽く腕組みをしたまま、心持ち肩を怒らせたような尊大な構えをとるテュスラとは対照的に薔薇の姫の華奢な腕は忙しく、しかし、優雅にたち働いていた。動けぬ猫娘の両膝を立たせ、そしてゆっくりと身体を開いてゆく。たちまち、若い肉体の深奥部が花のようにほころびる。まだごく若い獣に特有の、甘い、信じられぬほど濃厚な、一種名状しがたい野生そのもの、その真髄である匂いがほとんど固体のような強度で立ちのぼる。恐ろしく透明な、純粋極まりない愉悦の液体が、ゆっくりと、押し出されるように滴り落ち、すでに飽和状態のシーツの上に小さな湖を作ろうとしている。
「ほぅーらね、立派な証拠がここに!」
「全く、歴然たるものね!」
「ワケわかりません! ワケわかりません! なぜ!?」
「それはまあ、ねっ!」
猫娘の、恨みがましい、必死の涙目をものともせず、薔薇の長姉は愛しげにその左の膝に頬ずりし接吻しやがて必当然!という顔付きで舌を這わせ始める。但し、その左手は、例の薔薇の力能を帯びた強力可憐な指先達は、お預けを食らった水場手前の漁猫よろしく、だがすこしもイジケタ風でなく、お行儀よく、湖の水際で伏せ身となり、待ちの体勢をとる形ではある。
しかし、肉体最奥の神秘を明かさんと(いな、むしろ守らんと)する
この深紅の門扉と、
(その目も眩むほど可憐な繊細極まる形姿の深奥には、かえって、そう、最も高貴な薔薇の若い花びらたちが、いつも、その無限の螺旋=重なりによって厳重に
隠蔽し、かつ、暗示(或いは、誇示)せんとするような、隠微極まる密やかな、
なまめく真宝玉の存在が見え隠れすることは、今ここで、相対峙する妖しの力能の先端部、その本質・正体との逆接風相関・或はむしろ矛盾に満ちた対照において甚だ突飛な皮肉めき、なにか深淵を装う三題噺風の連想をも誘うのではあるが・・・)
[この()内、まったくの贅言なので飛ばし読み推奨、というか、ほとんど意味不明・・・]
鍵の形に窄まり絶対的に待機する四本の、淫靡苛烈な指先との、
間の距離はわずか四分の一セカント、お互いの波動が絡み合い、浸透し合うを妨げるものは何もない。
「ああ、だめ、だめです、ダイン様、その指先は!
なぜ、なぜ、そこに、そこまで来ているのに、
なぜ、ああ、ひどい、ひどい、ひどい、
ああ、早く、早く、そこ! そこに! ああ!」
「どうしたの、トリスタン、支離滅裂よ、何が言いたいの? なに?」
「は、早く、そこ、そこに、さ、さわっ、さわっ、」
「なんですってぇー!?」
「あああ、出!出ちゃ・・・
」
・・・ ・・・ ・・・
以下数節、大変「不適切」な描写が続きますので割愛いたします。
相変わらず、この年齢不詳の二人の女の趣味には、ほとんどまったく付き合いかねるのではございますが、致し方なく訳出しております。
この「放尿・飲尿」連合・・・彼女たちは、似非神学用語風に、流出・吸収反復過程などとオタメゴカシをホザイテおりますが、訳者の趣味と混同なされぬように、
くれぐれもお願い申し上げます。
さて、どうやら満腹?したらしい二人の女たちの、晦暗な会話から再開いたします。
・・・ ・・・ ・・・
「で、どうなの? ほんとのところ、」
「まあ、巧妙といえば巧妙、曖昧模糊といえば曖昧、そんな感じかも・・・」
「え、そうじゃなくて、お味の方、」
「美味だわ、」
「端的ね、」
「他に答えようがあって?」
「ま、そうなんだけど、でも、やっぱり、無茶苦茶よね、」
「それは・・・、あなた、天に唾するも同じ、」
「相身互いってこと?」
「さあぁてねぇ、」
薔薇の姫と黒衣の侍女は、間に横たわるメイドの少女を、愛おしむように、また、訝るように見下ろしている。小娘は、とっくの昔に失神していたが、そのまま催眠状態に移され、また、起こされ、また沈められ、その繰り返しが果てしなく続き、無慈悲に玩ばれ、なぶり尽くされたあげく、しかし結局は、几帳面に制服(平時の戦闘服たるゴチックメイド衣装・・・ しかしワンピースタイプである)を
着装され完璧に整えられ安置されているのが憐れに可笑しいのである。素直に伸ばされたか細い両足の間では、遷移しきれず取り残された形の猫の尻尾が、今は月ノ輪の模様も可憐なまま、少し毛を逆立て荒立てたまま、しんなりと伸びきった形で横たわっているのが一層哀れでもある。
テュスラは立ち上がろうとしたが、ずらせた踵の感触にベッドの下方を覗き見た。そしてメイドの第二正装たるリコルスン・ブーツを見つけると躊躇なく早速に履かせてやる。金のバックルをパチリパチリと止めてやったあと自分も立ち上がり、おもむろに隠しから取り出した己が徽章、黒のチョーカーを首に巻き付けた。
「仕事に戻るわ、」
「こんな時間に?!」
「ま、宮仕えの悲しさね、」
しかし、言葉の皮肉っぽさとは裏腹に、正規章の効果は絶大で、その長身はさらに威厳を増し、昂然ともたげた顎先には無限の優越感が漲っているようだ。
「あなた、それを着けちゃったら人が変わっちゃうもんね、つまんないわ、」
「何事もメリハリは大事ってことよ、」
「ああ、つまんない、つまんない、」
テュスラは取り合わず今履かせてやった猫娘の靴先をじっと見つめている。爪先が微かに揺れているようだ。
「あら、何見てるの、ふふ、そうよねえ、靴履いてるほうがカワユイわよねえ、」
「この子の正体については、いわゆる、」
わざとらしい小役人風の言い回しを見事に裏切るように、黒衣の侍女は膝丈ギリギリのスカートの裾をそっと持ち上げ、そして静々とおもむろに捲り上げてゆく。やがて剥き出しになった、さっきあんなに欲しがっていたメイド専用の物凄く色っぽいレース飾り付下穿きー俗に言う、勝負パンティをじっと眺めた。
「この子が、」
「なになに、また、脱がしてみる?」
「馬鹿言ってんじゃないわよ、」
しかし、さらに面妖な言行不一致を徹底し、スカートを胸元の飾りベルトまでたくしあげてしまう。滑らかな野生の腹部には無数の傷跡が残っているが既に消失しかけているものもあるようだ。呼吸は穏やかで少しも苦しげではない。まだ頬に残る薄紅い染みが憐れを誘う。侍女はほんの少し苛立たしげに続ける。
「この子が、既に誰かのものであっても、」
〔ある刻印を打たれた、と言う意味で云々、との不明な注釈があるが・・・〕
ダインバーントはこの時、ごくかすかにその美しい眉根を寄せ、唇を噛む仕草を見せる。
「誰かって?」
「この子の出身地、さっきの身の上話なんかから言えば、そうね、トゥリアンカルなんか怪しいところよね、」
「でも、記憶の上では、なんの痕跡もなかったわ、」
「ま、あちらからすれば、そんなヘマはしないわね、」
「ふーーん、とっても、イヤラシイわね、」
「やらしい? そう、やらしいといえば、やらしい、ま、厄介ではある、」
「例の、草って奴?」
「そ、暗示を打ち込むまでは実際に存在しない、も同じってこと、」
「気の長い話だわ、」
「でも、効果は抜群、気付いた時にはもう手遅れって訳、」
「人間って狡猾よねえ、」
「まあね、」
「で、どうするの、」
「どうするもこうするも、まだなんの確証も、証拠もない話よ、」
テュスラは肩を聳やかした。
「おもしろくないわ、」
「打つ手は、なくはないわよ、」
「へえ、聞かせてよ、」
「駄目よ、壁に耳あり、それにちょおっと補足的な情報も必要だしね、ほら、あんたの粗暴な妹さんあたりにね、」
侍女の言葉の終わるか終わらぬその瞬間、正面扉を蹴破るように飛び込んできた影がある。傭兵姿の女剣士、カランソットである。
*
「まぁーた、埃っぽい格好でご登場ね、っっとに、あらくったいわねぇ、」
黒衣の侍女は、優雅な、そこはかとない色気の漂う腰の捻りと共に僅かにその長身をずらし、
何気なく、しかし確実に、カランソットの視線を遮る風である。
「そこをどけっ!」
薔薇の三女は完全武装であったし、さきほどの薄汚れたダスターコートを着崩したままであったけれども
後書き
この節は、あともう少し続きます。
意味不明の訳語が若干ございますが、
例:勝負・・・・とか、どれも原語よりの直訳でしかありませんので、
とくに奇をてらった意図的な時代錯誤とか、変な趣味とかではございません、
どうか、ユルユル流し読んでいただければ幸いです。
また、尻切れトンボになってしまいましたが、お許しください。