第1巻第1部第16節 「トリスタン 治癒 尋問 のち、楽しい拷問その1」
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「手加減ってものができないの? あんたって人は!」
「あなたがそれを言う? ムキになってたのはそっちじゃない!」
「ほんとにもう、ほんとにもう、なんてことしてくれたの!」
「うっるさいわねぇー、ちょっと黙ってて!」
頭の上で随分騒がしい、けど聞き慣れた懐かしい、麗しい声、そしてもう一つ、よく知ってる、けども、ちょっとコワイ、何もかも見透かされそうな、切れ味の凄いナイフのような声、二つの声が行き交い飛び違い、遂には衝突してパタリと落ちてくる。その衝撃が身体中に響き渡る、突然、物凄く鈍い、大金槌で殴り飛ばされたような痛みが腰の上、背骨と肋骨の裏、右の肩骨に突き刺さる、熱い、熱い、熱いのに冷たい・・・ ・・・ 巨大な、丸い、ボロボロ刃のノコギリが、ゆっくりと身体の真ん中を斜めに、無理無理に、引きちぎってゆく。右手と両足の先が遥か彼方、何千メルデンも向こうに、赤の他人の砂袋のように漂ってゆく・・・遠いようで近い、近いようで届かない・・・ 動かせない・・・
たった1セカントも・・・
眠りが、化鳥のように頭のぐるりを飛び回っている、あたしは鳥だ・・・
ドルー様の物凄くキレイな羽・・・ 天使の夢の翼? ああ、熱湖が見える、懐かしい故郷のうみ・・・
トバル・ズ・レイン山の火も見える・・・ 天に突き刺す炎の柱・・・
ドラコドラコ様の退屈消しの息吹き・・・
いつもあの火の山の中腹から見下ろしてた・・・ 噴火湾の底無しの深緑の水・・・
ドラコドラコ様の平ぺったい頭が湾いっぱいに浮かんで来る、ドラコ様の無限の口が微かに開く・・・ するとザァーっと潮がひく・・・ ああ、思いっきり水浴びしたい、石が水に沈むように、だけど冷たかった身体がどんどん熱く、熱く、熱く・・・
眠りの鳥の叫びが・・・
「よかった!目が覚めた!?」
ダイン様の小さな可愛い顔が覗き込んでいる。ちょっと腫れぼったくなった唇が超可愛い・・・ ああ、キスしてほしい、やさしく撫でてほしい・・・
「まだちょっと寝惚けてるんじゃない?」
「ああ、トリスタン、どっかまだ痛い?」
「いえ、ダイン様、全然です、でもすごくダルイです、」
メイドだった少女はしかし少し不安そうに半身を起こした。
「あ、あの、ダイン様、あたし何で裸なんでしょうか?」
「あなた大怪我したのよ、治療の為なの、仕方なかったのよ、」
テュスラ様の落ち着いた声が反対側から響く。首を回すとちょと痛い。
「なぁーにが仕方なかったのよ!あんたが馬鹿みたいに本気出すからでしょーが、」
「馬鹿はどっちなの、あなたがあーんな中途半端な切断平面を展開するからでしょーが、」
「お、お願いですから喧嘩は止めてください、お二人とも仲良しなのに何でこんなヒドイ喧嘩するんですか、危ないじゃないですか!」
「トリスタンはちょっと黙ってて!仲良しでも喧嘩はするもんなの!ってゆーか仲良しほど喧嘩するもんなの!ただこん人が力加減を知らない戦闘馬鹿なもんだから時々大事になるってゆーか、」
「だぁーれが戦闘馬鹿だって!? ア!タ!シ!のコントロルがなきゃもっともっと大事だったのよ!咄嗟に減速したし力場も変換したの、さもなきゃこの子完全に輪切りになってたんだから、(あ!ん!た! は、なーーんもできなかったのにね!)」
「なぁーーーにを自慢気にばっかじゃないの!」
「やっかましいっつってるの!静かにできないなら叩き出すわよ!」
「上等じゃない、やれるもんならやってみん!!」
猫娘の華奢な身体が飛び掛かり薔薇の姫の口をふさごうとする。が、全然届かず腰の辺りに、へたりこむように抱きつく形になってしまう。
「喧嘩はダメですぅー!!」
「こらっ! じっとしてなさい、まだ治療中なのよ!」
テュスラの骨ばった大きな手が見事に丸い桃のようなお尻をピシャリとやる。尾てい骨が5セカントほども延びたままになっている。ダインバーントは既にトリスタンを抱えあげその小さい頭を抱き締めキスの雨を降らせている。
「ちょ、ちょと、ダイン様! く、苦し、あっ!」
「もう大丈夫そうね、さすがの回復力だわ。ふぅー、無駄にマムナを使っちまったわ。」
黒衣の侍女は呆れた風に腕組みをし、メイドのショートカットの黒髪がワシワシかき混ぜられワラ鳥の巣みたく変貌してゆく様を見つめている。少し痩せ気味で後ろの肋骨が浮いて見える。脊椎と腰骨が薄い皮膚の下でそれぞれ別の生き物のようにくねりあい、さっきの大惨事について予審的な会話を交わしているようだ。テュスラは手を伸ばし瘉合の跡形をさらに完璧に消し去ろうとでもいうのか、そっと押さえるように撫ぜてみている。吸い付くような、ある種の淫らな感覚が指先に磁気のように纏いつき、それがどちらの極から発生したものなのか、にわかには判別し難い様を何気に、ちらりと、楽しんでいる節さえもある。
「あなた、自分がなにをしたのかわかってるの?」
「あ、あの、まだ、頭がぼぅっとしてて、でも、ごめんなさい、ごめんなさい、」
「別にあやまらなくてもいいの、でも、むちゃをしたってことはわかってるんでしょうね、」
「それが、よくわからなくて、お二人がいつもの喧嘩を始めたことは・・・ まあ、なんというか、あららー、とは思ったんですけど、」
「ふんふん、それで?」
「ただ、テュスラ様の闘気の物凄い塊が一点にズゥーンって集まってくのが、ああこれは、ヤバイかもって、」
「なるほど、あたしが負けるって思ったんだ、」
「いえ、そうじゃなくって、」
「負けるって思ったんだ!」
「違うんですぅー、ただあの向きだと、ベッドが真っ二つで、きのう折角新調したのに、調整も完璧だったのに、あーもったいないって、」
「あー、そりゃそうだ、テュスラの手刀の切れ味ってスゴイもんねぇー、ギモレット鋼の真剣を3本束ねても一気にスパッっとだもんねぇー 」
「ダイン様? 拗ねてます?」
エリクレアのむくれた顔を黒衣の侍女が冷ややかに見つめ返している。が、その口元の曲線にはなにやら秘密めいた愉悦の波動が含まれていることは見る目を持つ者にはわかるのである。薔薇園の無限の主、第一の姫は、自分の喉元にせり上がってくる偽りの血潮の熱すぎる感覚を打ち消すために、普段滅多なことでは使わない自己制御能を引っ張り出さねばならず覚えず顔をしかめてしまう。侍女はしかし優越感のカケラも見せずにエリクレアから軽く視線を外し、猫娘の後頭部をほんの少し興味深げに注視している。
「だぁーれが拗ねたりなんぞするもんですか、そんなことより、トリスタン、もう二度とこんな無茶はしないって約束して!」
猫娘は首筋に何かムズムズするものを感じたのか身をよじり振り返ろうとするがエリクレアが許さない。その肩越しに見えるのは暖炉の火明かりとその横のソファばかりだが、
「あーー、ズルイ! ズルイです、お二人共、自分達だけちゃんと服を着て、いつの間に・・・ もうー、あたしだけ裸なんて、ひどいじゃないですか!」
「何言ってんの、自業自得でしょ、」
「第一もう全部なくなっちゃったしね、しばらくそのままでいなさいな、」
「ナンカひどいアツカワレヨウ・・・ 」
「ま、無茶をした罰といえば罰だわね、」
「あたし気絶してたんでしょうか、長いこと眠ってたんでしょうか、なんか夢見てたような・・・」
「長いことじゃないわ、まあ、一瞬だわね、でも、夢見てたなんて不思議ね、どんな夢?」
テュスラ・オッシナが珍しくも乗り気な風に身を乗り出している。何か職業的な関心を装っている気配でもあるが声音は冷静そのものであり、わざとらしい通りいっぺんの疑問を口に出しただけという風情でもある。エリクレアは、全裸の小娘の後ろ頭と背中をゆっくりとなぜくりながら女友達の相変わらずな表情をおもしろそうに眺めている。
「あの、えーと、故郷の夢なんです、熱湖を見てました、」
「海?」
「熱湖です。」
「あなた、ロトスコシア出じゃなかった?」
「はい、」
「大陸のど真ん中じゃない、」
「ええ、はい、あっ!そうじゃなくて、あの、あう、ちょっと、ダイン様、離してください、く、苦しい・・・」
頭の後ろからの声に対してあらぬ方へ答えを返すのが気持ち悪いのか、トリスタンは身をくねらせる。そのシツコイ抱擁からようやっと右腕だけを引き抜きベッドの一点を指差しブンブン振り回す。
「そこの、さっきのおっきな地図帳を、取っていただければ、くぅ、と、届かないっ!」
「ほらほら、ジタバタしないの、ああ、あれね、さっきあたしが踏んづけちゃったやつ、あれのおかげでテュスラにつけこまれちゃったのよねぇ、まぁーーたく、本のくせに、この角、石みたいに硬いんだから、まだ踵痛いんだから、ほーーいなっと!」
エリクレアは素早く転回しまず猫娘を仰向けにベッドに固定、反射的に跳ね起きようとする全裸の少女をクサンドルに引き渡す。無言の連繋、流れるような一挙動で黒衣の侍女が右手を掴みとる。瞬時に青い微光がトリスタンを包み込む。
「あっ! なんで? う、動けない、い、い? 痛くないけど、ないけど、ああ、」
「さっきも言ったけど、じっとしてなさい、お魚みたくピンピン跳ねるんじゃないの、」
黒衣の侍女の、練達の料理人めくやや冷ややかな声。
「それからそこのあなた、国宝の貴重書を踏んだり蹴ったり、とんでもないけど、ほらほら、間違っても破くんじゃないわよ、怒られるのは私なんだからね、そぉーーっと、そぉーーっとね、」
薔薇の姫はしかしおよそ頓着なく地図帳を掴みあげ、いささか八つ当たり気味のわざとらしいぞんざいさで頁を探る振りをする。
「どこだっけ?」
「全大陸図ね、」
「あーー、いっと、どこ、あーもう、生きてるって、もう、めくりにくいわねぇ、」
「たしか、一番後ろの方よ、」
「ほんとだ、ほら、ここね、」
まるで自分の手柄のように自慢気に全大陸図を広げ持つ。黒衣の侍女は小娘の両脇に腕を通し自分の前に幾分行儀よく、抱え込むように座らせるのである。
「ロトスコシアなら、そう、ここ、黒の森の北っ側、で、そのずっと西にある、ああそうね、中の湖、熱湖のことか、」
「そ、そうです、生まれたのはロトスコシアなんですけど、すぐに移住して、ずっとお山の下で暮らしてたんです、中の湖の南半分はお山のお陰でとってもあったかいんです、」
「獲物も多いしねぇ、」
「そうなんです、熱湖のお魚はとっても美味しいんです、でも、これは秘密なんですけど、もっと美味しいのは、沼地の魚なんです、」
「沼地?」
「噴火湾の東に広がってる沼地です、大湿原です、えーと、あ、あのへんでは、ガーレーン・ホーケンって呼んでます、」
「そこもあなたの漁場なの?」
「え、いえ、危ないんで滅多には行かないんですけど、大物がいて、時々死闘になるんです、」
「大物!」
「でも、本当に危ないんで、滅多なことでは・・・ そ、それに、あぅ、あそこには水、水上民もいますし・・・ 別な意味で危険が一杯っていうか、」
「その大物ってのは、どんな?」
「い、いいー、いち番おいしいのはオオナマズですけど、あと、カワメンタイ、イトウ、オオヤツメウナギ、ムラサキチョウザメ、ギンメリョクリンザメ、ハイナメカワイルカ、ぐぅ、ご、そ、それにあと、き、極め付きの大物、ドナーンカワカマスがいます、あれはほんとに恐ろしい、物凄いお魚なんです、う、うぅ、」
「へえ、それは是非会ってみたいわねぇー、」
「ちょっとテュスラ、あなたその手は何、さっきから何気にずるいんですけど、」
後ろから脇下に差し込まれていた両腕だったがいつの間にか持ち上がりトリスタンの薄い両胸を下から、あるかなきかに支えつつ、包み込み、**しているらしい、ゆっくりと、丸く、小さな円を描き、その百戦錬磨の、いささか荒れた手のひらが、まだ微かな隆起しか見せていない幼い**と青臭い**の上を、何か貴重な古陶器を愛玩する老練の好事家の如き手捌きで慎重に、しかも平然たる無意識の冷淡さで値踏みをし、考量し、審定を下すふうにユルユルと動き続け、言われた黒衣の侍女は今さらのように自分の顎の下の猫娘の顔を覗き込む。真っ赤になり、息もつめていささか苦しげに、また悩ましげなのは、しかし全くテュスラの縛呪の結果であるとも取れそうではある。
「でもあんたってば、」
無意識の容赦のない**は続く。
「森林大山猫だったんじゃない、いつから漁猫に鞍替えしたの?」
「そ、それは、あたしにもよくわからないんです、いつのまにかそうなってただけで、ああ、テュスラ様、そこ、ついでにつまむのはヤメテ欲シ、シ、シンデス、あ、あの、ゴッツゥーこそばゆういんですぅーーがぁーー、」
「あ、ごめん、ついね、」
「こら、テュスラ、いいかげん、ヤメロっていうか、あたしと替わりなさい、ほんとにもう、さっきはあんなに無視したくせに、」
「さ、馬鹿はほっといてね、さっきのお魚の話なんだけど、」
「コラー!」
「でね、そのカワカマスなんだけど、どれくらいなの?」
「平均すると大体2、3メルデンなんですけど、あたしが見たヤツは、えっと、5.5か、6メルデンくらいあったかもですね、」
「凄いわねぇー、」
「北部沼沢地方の伝説になってるヤツなんですけど、片目の、コワイ、化け物みたいなのがいて、ガッダ・マーゾーニャって呼ばれてるんですけど、軽く10メルデン以上あって完全武装の騎士様を馬ごと飲み込んじゃったって話があるにゃんなんすけど、ちょっといくらなんでもそんな大口ありえないってか、」
「まあ、丸飲みは無理でしょうけど、噛み砕けばなんとか、でもあいつらの口って、歯並びがねえ、そういうふうにはできてないし、お腹コワスかもしれないし、」
「ちょっと、あたし、これ重たい、いつまで持ってればいいの、あんたらだけ、なによ、ズルイじゃない、あたしだって、」
「ほらほら、ちゃんと持ってて、今大事なとこ、」
「あ、あの、テュスラ様、ほんとに、もう、その手が、ああ、き、き、きも、」
「でね、中の湖は北湖のほうが何倍も大きいわよね、ほんとに海みたい、北の方へは行ったことある?」
「いえ、全然、急に寒くなるし、あと、ドルカニ公の領海がすぐ始まるので・・・」
「ああ、そうかぁ、湖の騎士よねえ、厄介だわ、」
「公の艦隊はホントにコワイです、まあ、噴火湾の海賊船団も相当ひどいんですけど、」
「あのう、もしもし、お二方、何か忘れてや、」
「でね、トリスタン、」
「あい、テュスラ様、」
「今、教えてくれた片目のお魚なんだけど、」
「あ、あい、」
「名前、なんて言ったかしら、」
「あぅ、あ、えと、ガ、ガッダ、ガッダ、マーゾーニャ、ですぅ、う、」
「方言よね、意味わかる?」
「あの、えっと、ああー、(フンスハーー)ご、ごめんなさい、変な気分になっちゃって、て、」
「いいのよ、ゆっくりで、」
「ガ、ガッダは、そのまんま、片目ってことです、邪眼とか、魔眼とかって意味もあったような、でも、くわしくは、」
「うん、なんとなくわかるわ、それでもうひとつは?」
「マーゾーニャは、深い淵の・・・・・・ から?
うんにゃ、
淵の方へ?
どっちだったかな、そんなような、」
「マーゾーニャ・・・ 深い淵・・・ なるほどねぇ、」
トリスタンは大きく苦しげに息を継ぎ、首を回して黒衣の侍女を見上げようとする。テュスラはようやくその・・・満遍なくお利口な片手だけを、なぜか名残惜しそうに長くずらせてはずし、そのままついでのように猫娘の赤い頬をやさしく軽く撫ぜてやる。
「もういいの? 終った? 閉じるわよ、ああ、重たい、」
薔薇の姫は本を脇に避け、顔の赤い全裸の小娘ににじり寄る。
「地政学の講義は終わった?」
「方言学よ、馬鹿ねえ、」
「トリスタン? 真っ赤じゃない、大丈夫?」
「あの、ダイン様、平気です、で、でも、体が動かなくて、熱くって、」
「ねえ、もういいんじゃない? 解いてあげなさいよ、」
「まだよ、油断大敵、よいお魚はすぐ逃げる、」
「魚じゃなくて猫なんだし、」
「猫はもっと大変、」
「あら、ほんと大変だ、シーツボトボトじゃない、」
ダインバーントは猫娘のきつく閉じられたふとももの付け根、お尻の下あたりへ片手を滑り込ませた。
「あらま、ビショビショだわ、」
黒衣の侍女は、微かに溜め息をつき、ほんの少しだけグズグズしながらもキッパリとトリスタンの体を離し、その後ろ首を支えつつそっと横たえてやる。首から下、一筋の随意筋も動かせない全裸の少女は、陸揚げされ次第に虹色の体色を失ってゆくイトウのような凄絶な美しさであり、内に秘めた強靭な筋肉と神経系の匂いたつような潜勢力のオーラはそのほっそりした体躯の全てに、一本の強力な魔法の杖、選ばれた者のみが手に取ることのできる致命の要撃兵器の如き、可憐でもあり、剣呑でもある、矛盾に満ちた美を纏わせている。
女二人は、少女のアラレもない裸体をはさんで軽く睨み合う形。そしてお互いの考えていることのまるで真逆であることが目の色だけでわかってしまうので、次の手を打つにしてもごく慎重にならざるを得ないのであった。
「あの、あたし、要するに、まな板の上の鯉ってわけなんでしょうか、」
「ほんと、かわいいお魚だわ、」
「美味しそう、では、あるわね、」
「あ、あの、この、下の方なんですけど、なんか濡れてて、ちょっと気持ち悪いんですけど、下着が、あれば、あの、その、穿かせて欲し、いえ、えと、その前に、ちゃんと拭かないと、」
「それはダメ、」
「拭くなんてもってのほか!」
「えええー、でも、風邪引いちゃうかも、なんかちょと寒気がするよーな、」
「うそおっしゃい、」
「あんた、自分の体がどんなに燃えているか、わかってるでしょーに、まだ、どんどん熱くなってるのよ、そんなのすぐ乾いちゃうわ、」
小娘はかろうじて動く首だけを左右に振り、女主人二人の、およそ見極め難い意志を推し量ろうとする。女二人は合わせ鏡のスピィーンクスよろしく相対し、真面目くさった、面妖な顔つきで意図せぬ相互金縛り状態からの脱出策を探り合うようだが、下からの不安げな視線がフラフラー、キュロ・ロ・ローとさ迷う様には流石に憐れを催したのだろうか、ほぼ同時に、なぜか不穏に微笑みながら、妙に優しい、文字通り猫なでなでの声をかける。
「「ねえ、トリスタン、何か欲しいぃものない??」」
「だからずっと言ってます、○○○○○○くらい穿かせてください!」
「サァァー、じゃ、ちょっと、改めて尋問させてもらおうかなぁーー!」
エリクレアの幾分うわずった声が、ほとんど隠しきれない愉悦を秘めつつヤケに大きく響き渡る。右手はベッドに突き、薔薇色の光を帯びた左手の人指し指1本だけが、ゆっくりと、何故か震えながら、メイドの猫娘、自身の超代謝過程の高熱にうなされ、幾分朦朧として半ば口を開き可憐極まるピンクの舌先をチラつかせている、その熱にひび割れかけた下脣へと近付いてゆく。
「さぁーてまず第一に、」
薔薇の指先が、カサカサの脣に微かな窪みを作り、そうしてそぉっと離れる。
「なんであたしたちのこと覗き見してたのか答えなさい、」
「え、えええー、」
「えええー、じゃないわよ、正直に答えないとオシオキよ!」
「そんなゴムタイナ!」
「あなた、そもそも、一体どこから来たの? そもそもそれ、コバリス方言よね、アルボナ方言? あたしたちを煙に巻くつもり、それとも?」
「待って、待って、そんな短兵急はダメよ、どうしたのテュスラ、何か焦ってる?」
「どうもしやしないわ、ただ、」
「ただ?」
「いえ、もういいわ、続けて、」
左手をつき、優雅に腰をひねって小娘を見下ろしていたテュスラだったが、やおら起き直って部屋の正面奥を見つめた。眉根を寄せ、いささか不快げに銀のドアノブを睨み付けている。幽かに、虫の声が響いている。
「まあいいわ、でね、トリスタン、ちゃんと答えなさい!」
「あ、あの、の、覗き見なんて、あたし、」
「ほほう、しらを切るんだ、この子!」
ダインバーントの満面の笑みが無邪気に輝く。テュスラはといえば、これはこれ、拝み虫様の御待ち伏せ並みの不動を保ちしずもってはいるが、よく見ると上半身はごく幽かに左右に揺れている。両足は元の優雅なスパレンシアサンダルだがしっかりと床を踏み、こちらも左右に僅かずつ重心の移動を行っているらしいのが何を期待しているのだろうか、不穏かつ剣呑ではあるのである。
御無沙汰しております。花粉症が終ったと思う間も無く風邪を引き、今はやりのP○R検査なるものまでぶちこまれてしまいました。幸い無事通過はいたしましたが冷や汗ものでございました。しかし、また医者通いが増えてしまい、絶賛薬浸け中の毎日が続いております。情けない限りでございます。
さて、お話の方は、順調?に停滞しております。我がヒロインは、今、何処? 実はまだ、荒れ地の中をロバの背に揺られております。一方、このナガナガシイ回想的章段後半の中(イヤ、コレガ、まだまだずっと続くのでございます)でではありますが、今や出てくるのはほとんど裸の女の子?ばかりというテイタラク。
どうかナマ・アタタカーク見守っていただければ幸いです。
【御注意】運営様より指摘があり語句の一部を省略いたしました。
【御注意】運営様より指摘があり語句の一部を追加省略いたしました。第2回目。




