表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/79

第1巻第1部第15節 「寝物語3」

・・・ ・・・ ・・・

・・・ ・・・

・・・

「起きた?」

「ふふ、限りなく澄明な状態ね、」

「要するに、限りなく、賢者風に、醒めてるのね、」

「ほんとにね、アナタの悪辣無比残酷上等の業前のお陰でね、」

「悪辣とか、残酷とか、ヒドイ言われようね、ぎゅうぎゅう締め上げられて! 窒息寸前まで追い詰められた私の身にもなってほしいわ、」

「全部あなたの誘導のまま、思うがままじゃない、ひとの身体を道具扱いして! 自分の身体を苛めぬいて喜ぶなんて悪い趣味だわ、」

「まあ、人間的にはさほど珍しくもない、ありがちの変態趣味ではあるわね、」

「なによ、他人事みたいに・・・  でも大丈夫なの? 私、多分、全力で締め上げちゃってたわよ、痣になってない?」

「さあ、自分ではわからないわ、多分大丈夫でしょ、骨は折れなかったみたいだし、」

二人は全裸のままお互いの身体を隅々まで点検しあった。そして傷ひとつ無いことを確認すると、さきほどまでの極限的な激闘が嘘のように穏やかに抱擁し合い軽いキスを交わした。薔薇の姉娘は呼び鈴を引いた。トリスタンがさきほどとは違い簡素な職人風の制服姿〔但し、スカートはより短くなっていて、ほっそりと華奢な両足がほとんど膝上まで丸見えである〕で現れた。蒼白の頬に上気した紅い斑点が浮いている。

「寒くないんですか、そんな格好で、」

と、当然の疑問を口にするのがもはや無遠慮である。

「暑いくらいよね、」

長身の女二人は顔を見合わせて微笑んだ。

「のどがカラカラなの、何か冷たいものが欲しいんだけど、」

「グレンソード水ならありますよ、よく冷えてます、」

「じゃ、それ、それとあっちのテーブルに物凄くおっきな本が1冊のってるからそれも持ってきて、」

猫足のついた優雅なサイドテーブルの上に水と本が現れ、すっかり侍女メイドが板についたトリスタンは軽くため息をつきながら音もなく退出する。二人は乾杯し同時に声を上げた。

「ああ、爽やか!!」

そして無意識のシンクロが可笑しかったのかころころと笑い合った。

「何か着る? 冷えてくるわよ、」

クサンドルは暖炉横〔火は入っている〕のソファを指差した。二人の制服と部屋着、下着類、心尽し(オマケ)のドレッシングローブがきちんと整頓され行儀よく並べられている。

「まだ暑いもの、それより本とってくれる、まだちょっと力入らないし、誰かさんのお陰だけど、」

クサンドルは黙って地図帳を広いベッドの上に移した。

「どこを開くの、」

「マーレバステルからお願い、」

二人は額を突き合わせ帝都ルシャルクの全域を鳥のように見下ろした。ボレナとエルブの二つの流れが赤の城の真下で合流し海のような大河となって南下してゆく。が、すぐに広大な中洲ーエラン島によって分断されその南端ではかたつぶり(レヂオドゥーラ)(・バッカイ)が大きな翼を拡げるように鎮座し、その両腕、要塞水門橋を左右に伸ばしてあらゆる可能な水域=水路を扼しているのである。

「こうして見ると、」

エリクレアは腕組みをし、偉そうに身体を揺すりながら首を傾げる。

「ルシャルクの形ってそのまんま女体よね、」

「そうかしら、」

「ちょっと寝転んでみて、」

「面倒くさいわねぇ、」

「はい、足伸ばして、」

「こう?」

むつかしい顔をしながら、なぜかひどく素直に薔薇の姫の言うとおりに身体を開いてゆくクサンドルがおかしいのである。

「で、照合してみるとー、」

姉娘は人差し指で相手の臍をそっと押さえる。

「ここが赤の城、」

「な、なに、」

「そしてね、こう、つ、つぅーと下ると、ほら、」

エリクレアのか細い指先がまだ湿り気を帯びた豊かな**の林を優しく掻き回しながら下へと探り入り、


【約2行省略いたしました】************************************************************************


な強さでつねってみる。

黒衣の侍女たち、即ち、絶対の女王・ゼノワ・ワルトランディスに直接奉仕する強力無比の侍女集団ー黒の娘たちーの第二席、万能の次元間生命体サイキスの一人と完全な融合を果たしたという稀有なる女傑、テュスラ・オッシナ=メイファーラー・クレサント〔極秘の愛称クサンドル〕が、まるで12歳の処女子(おとめご)の如き可憐繊弱な悲鳴を上げる。その両足の間に素早く割って入ったエリクレアの額には隠しようのない、稀代の悪戯小僧めく、ほの暗い邪悪さが、薄い青緑色の微光を帯びて輝いている。

「ここはまあ、」

娘はゆっくりと舌を使い始め、


【約2行省略いたしました】*************************************************************************


侍女は、これ以上声を上げるのは沽券にかかわるとばかりに歯を食い縛り耐えているが、さきほどまでの剛腕振りが嘘のような、正味にうぶな小娘のごとき、ややわざとらしい羞じらい振り、無抵抗振りなのがいささか〔というよりも、大いに〕不審ではある。

「ねっ!」

「な、なにがねっ! よっ! あ、あぁーはぁーーん、」

「そ、ここが例の王宮桟橋、秘密の三角地帯ね、」

「ぐ、ぐふっ! ぅむぅーーん、」

完全に腹這いとなった娘は肘を張り、ひどく嬉しそうに相手の両膝をそっと取り押さえながら頭を左右に振り振り非正規的な講釈を続ける〔もちろん舐めながら〕。

「で、この二つがしらが水門橋の両翼、水上水中両用ー完全閉鎖可動要塞ってわけかしらん、」

薔薇の姫は妙な生真面目さでマーレバステルを参照し解説しつつ、かなり頑丈そうな骨ばった膝小僧をぐるぐると愛しそうに撫でさすり時に左右に激しく揺らすので


【約3行省略いたしました】*************************************************************************************************************


を浮かせて逃れようと力弱くもがきはするのだけれども全く成功の見込みはなく、さすがに、頭がぼうとしてきたという感じで生返事を返すばかりとなる。

「でね、かたつぶり要塞のすぐ北から、こう、ほら、東西へ大運河が延びてるでしょ、ぐるっと、輪を描いてー、こう、町を包んでる・・・ 」

両手が同時に、侍女の堅い筋肉質の太もも脇を摩り上がってゆき、やがて腰骨の出っ張り辺りに達すると、しっかりとその翼端をつかみ、長身に似合わぬ小娘の如き狭い骨盤〔要するに腸骨の丸い縁〕をぐっと押し下げ押し広げようとするかのようだ。

「ああ、エリクレア、そこっ! そんな力は・・・ 駄目、ああ、仙腸関節の可動範囲なんて、がっ!」

「がっ!ってナニ言ってんの、馬鹿クサンドル、」

「どうせ私は馬鹿ですよ、ふーん、」

「気持ちいいんでしょ、素直に言いなさいよ、馬鹿、」

「お、あ、ああ、もっと押して、ぐっと、ああ、その角度! 広がる、ちょっと痛い、でもいいの、いいのよ、もっと押してっ!」

「だから、そっちにゆかないで、聞きなさいよ、ほら、ここ、」

エリクレアの右手が侍女の左の腰骨をゴツンとやる。

「ここ、ね、バスコムの城壁街よ、東の門塞、ここの東はもうすぐ険しい山地でしょ、レイガムの断崖が迫ってるし、ダンスコーの段丘もある、あっ、そうだ、こんど見つけた温泉ってここよ、ノウウィッチンの村外れ、ゲントム辺り、」

「連れてってくれるの? でもえらく辺鄙なところじゃない、」

「さっき一緒に行きましょって言ったじゃない、もう忘れたの、馬鹿クサンドル、」

「どうせ、馬鹿だもん、ふーんだ、」

「あんたって、時々そうやって退行するのよね、何かの防御プログラム? 自己暗示魔術の類い? 」

「あたしだって、四六時中、鉄の女でいたいわけじゃないわよ、当たり前でしょ、」

「可愛いいわ、好きよ、それ、」

「ふ、ふーん、」

「で、あっ、ナニ言うんだったか忘れちゃったじゃない、馬鹿、」

「やーい、馬鹿エリクレア、馬鹿馬鹿、」

「馬鹿に馬鹿って言われちゃったらお仕舞いね、馬鹿の好きもん同志なのねっ!」

薔薇の長姉はほんの少しずり上がり小さな頤を侍女の柔らかな下腹の上に乗せた。そうして左手で右の腰骨を捕まえる。

「で、ここ、ガルデンジーブスとこ、ほら、今でしょ、ここでイヨルカとヨナルク、そいでもって、あの赤ん坊が引っ掛かってる、」

「そうね、今丁度、そんな感じかな、あんたが言ったとおりかな、ヨナルク様とガルデンジーブス様、丁度会見中・・・かな、」

「テュスラは? 実体化してるの?」

「うーん、どうだろ、よくわかんない、警戒中って感じだけど、実体化してるかどうかは、なんか、ぼやけてる、」

「なにか、特別な術式を展開中なのかな、その五里霧中って感じ、たまにあるって言ってたわよね、」

「そう、そんな感じ、ああ、そうね、あれだ、夢中逆理催眠帯域?かな、超々高等技術よ、そう、ヨナルク様が展開してる、ああ、すごい広範囲、西の門塞全体を覆ってる、あそこにいる人間全部、目を開けたまま眠ってるも同じこと、目の前で何が起こってもなーんも記憶に残らない、」

「ガルデンジーブス公はどうなの、さすがに暗示にはかからない?」

「どうだろ、わかんない、さすがに五星公ってことかしら? でも、わざと直談判にして面子を立ててあげてるってこともありうるし、あとでばれてもガルデンジーブス様さえ承知ならどうとでもなるって、あら、しまった、夢中・・催眠なんて、わたし、言っちゃったかしら、言ってないわよね、忘れてよねっ!」

「もう、遅いわね、でも、あたしも記憶力弱いし、すぐ忘れるの得意だし、」

「あら、そお、忘れててね、五星公にすらかかっちゃうってばれるととっても困るのよね、」

「ふふ、語るに落ちてるわよ、でもいいわ、そう、それでね、」

エリクレアは、両可動要塞〔もちろん、見立てのです〕の上に置いた手をすっと持ち上げ、やおらクサンドルの両の**を


【約2行省略いたしました】**************************************************************


をなぶりにかかる。クサンドルは息を殺し健気に耐えている。

「でね、北のオネーサマ方がここね、エメラルドタワーがね、ほら、立ってる、」

「立ってるじゃないん、わ、わよ、なんで両方ともつまむのよ、ひとつで十分でしょ、北の門は一本じゃない、2本じゃあ、ああ、そんな、爪たてたら、い、いたい、」

「ふふん、嬉しいくせに、血が出ても嬉しいくせに、カマトトぶってるわね、」

「いたいいたい〔さらに翻訳すると、いい、いい、となるはず、そして、ヤメテ、とは言わない・・・〕、」

「それでね、」

エリクレアのちょっとあきれて冷たい風の解説が続く。

「あの塔がね、見る角度によって二本に見えるって怪談話みたいな噂があるのよね、なにか知ってる?」

「一本の塔は一本の塔よ、二本も三本もあってたまるもんですか、」

「ま、そうなんだけど、ほら、ちょっと気になるっていうか、ゴンケルム姉妹のお家ってあの天辺にあるでしょ、」

「例の玄室ね、鳥〔翼あるもの〕以外は出入りできない、空中の浮き籠よね、」

「ヴィルナとドルナもね、鳥人間よね、不気味だわ、」

「そのドルーだって、さっきここの上でフワフワ飛んでたじゃない、あれは、もちろん遊覧飛行じゃないでしょ、」

「ま、監視ってゆうか、観察よね、ドルーは特に好奇心旺盛だもんね、このあいだもバスコムんとこの改造超解炉を見学?に来てたわ、バスコムもあの子にはとっても甘いから、もう、デレデレなのよ、」

「あの子って、あんた、あれがいくつなのか、知ってて言ってるの、」

「さあ、でも、可愛いから、いいんじゃない?」

「まあ、節操のない、でも、うん、しょーがないか、あんただって歳を聞かれても困るだけだろうし・・・ ふふふ、」

「なにかなー、この口は、」

「いたい、いたい、ちぎれちゃう、ちぎれちゃう、え、まだ? え、そこ奥歯で噛むの? やる気? まだ? やる気なの?」

「むふふ、ふぁーーかねぇ、」

エリクレアはさらにずり上がってゆき、丁度二人の体はぴったりと


【ここより約3行省略です】**********************************************************************************************


の閉じ合わせのように、ほとんど融合状態として感じている。

「で、要するに、よ、」

薔薇の長姉、ロデロンの影の主宰者、既に帝都全域をその根の国の管轄下に置くも同じ、地上〔というか、むしろ地下世界〕最大の複合生命体、その地上代行者、次元間空間を自在に遊弋する分有同位体としてのこの女、すなわち、ダインバーント・グリム・ガスタム〔極秘の愛称エリクレア〕は、慎重に言葉を選びながら、五星公に包囲=守護された帝都ルシャルクの魔法的深位相を解析しつつ己が見立てを述べようとする〔スッポンポンだが・・・〕。

「あれに副塔が存在するっていうのは、大昔から噂されてる?わよ? 超越感覚者とか、背理妄想変態とかいう連中の間ではほとんど常識扱いってことになってるのは、まあ、事実かどうかは置いといて、ね、ほら、感覚としては、門ってものは、こう、対でないと格好がつかないというか、機能しないというか、ねっ!」

「わたしは認めない、そんなこと、絶対に、認めない、エメラルドタワーは、一本のみ、あれがただ一人、孤独に、優雅に、あらゆる鳥の王たちを住まわせて突っ立っている、その姿だけが正しいといえるのよ、」

「相変わらず、堅いわよねえ、ほんと、杓子定規っていってもいいくらい、」

「堅いも柔らかいもないでしょ、一本の塔が天と地を繋いでる、全ての空中を飛ぶものは、その絶対の垂線に引き寄せられる、つまり、支配される、それが門の真の機能というものよ、例外はないわ、」

「論理的に、厳密に、正しいって訳? 超越論的美学講義ねえ、」

「なんとでも言うがいいわ、二本で挟まないと門に見えないなんて、要するに、下品だわ、」

「ふふふ、人体の生理学的には、正しいことよ、これが、調和の形ってものなのよ、」

「乳首が二つなら、目も二つって訳?」

「二重奏でないと始まらない、正しい波長は産み出せない、」

「それを言うなら口とお臍、そして、ここ、この垂線が垂線である限り、そうでないとこの絶対の階調は産み出せない、」

「屁理屈じゃない!」

「じゃあ聞くけどあの快感は何のためにあるの?」

「なによ突然?!」

「女は男に奉仕するためにあるの?ってこと、」

「そんな訳ないじゃない!」

あからさまに馬鹿じゃないのという顔付きのエリクレア。

「じゃあそうなのよ、女の快楽は少なくみつもっても男の9.9倍だって大昔から言われてるんだし・・・」

「ははん、例の古代神話の大ボラね、」

「そうかもしれないし、そうでないかもしれない。」

「較べること自体おかしいわ。」

薔薇の姫は再びずり上がり侍女の瞳を覗き込む。

「さっき聞きたかったのはね、」

異様に真剣な相手の視線を軽く外し、侍女はいささか眉をひそめる。

「なに?」

「あなた、男のこともわかるじゃない、」

「さあ・・・ ・・・ うん、 まあね、」

「クレサント伯とは?」

「そりゃあ夫婦だもん、まあね、」

「聞いてもいい?」

「だから何?」

「どっちがいいの?」

「それ真面目な話なの?」

「真面目も真面目、世界の命運がかかってるほどにね、」

クサンドルはわざとらしい渋面を作った。しかしのしかかるように迫る相手の小さな顔が余りにも可憐極まるので自然とおのが唇も弛んでしまう。キスを求めるがそっぽを向かれてしまい、その逃げてゆく片頬の膨らみが史上最強(凶?)の綿菓子のように美味しそうなのが最悪にも悩ましいのである。

「こら、クサンドル、ヨダレ、ヨダレ!」

「ああ、エリクレア、あなたやっぱりひどいわ、」

「ふふ、自業自得ね、(でもこれでおあいこよ!)」

「答えるわ、」

「どうぞ、」

「男が有利なのは間違いないわ、」

「あら、そうなの?」

「でもそれはひたすら、そう、造化の神(デミウルゴス)の狡猾極まる罠のせい、生殖への強制誘導としての七倍増し、要するに醜悪の極みだわ、でも世の女のほとんどが夢中で腰を振るのはそれのお蔭、つまりは出産の痛みと恐怖が完璧に隠蔽されてる状態なのね、陋劣極まるけど・・・」

「労役の代価ってわけ?」

「先払いってのがミソなわけね、」

「滑稽だわ、」

「でも誰も抵抗できない、できた試しが無い!」

「で、あたしたちは?」

「ふふふ、神の御業の横流し、じゃないや、垂れ流し、違う違う、横取り? タダ取り?」

「泥棒猫?」

「ま、そんなところじゃない?」

「垂れ流しかぁ、いいえて妙じゃない、」

「何言ってるの、あんたは!」

「だって流出といえば神の特性=特権じゃない、この世界は神の快楽の搾り滓、うんにゃ、むしろ恥垢みたいなもんだなって、誰かゆってた、・・・ よーな気がする・・・」

薔薇の姫はゆっくりと顔を下げ、おもむろに侍女の唇の両端、厳しい顎の線に沿ったヨダレの跡を舐め取った。

「じゃあこれは・・・ ・・・  反逆って訳だ。」

「造化の神のエゲツナサに対抗するには・・・ ちょっとささやかすぎるけどね、」

「何事も、内から外へ、流れ出ることにはヒジョーナ快感が伴う、」

「じゃあ、侵入は?」

「快楽への予備動作、前快楽として意味がある、」

「馬鹿の一つ覚えね、陳腐だわ、」

「まっ、常識哲学だわね、」

「ただの受売じゃない、」

「それはそうと、さっきのトリスタン可愛いかったよね!」

「よく見てなかったわ、」

「スカートが短くなっててね、かあいいアンヨが丸見えだったのよ、」

クサンドルの眉間に微かな縱ジワが走る。

「また病気?」

「ちょっと虐めてみたいって思わない?」

「別に、ないわ、」

「あの子、さっきずっとあたしたちを覗いてたのよ、」

「別にいいじゃない、」

「駄目、お仕置きが必要だわ、」

クサンドルは起き直った。

「興味ないわ、」

「そんなことゆわずにつきあってよ、」

「嫌よ、そろそろ行くわ、」

「そんなこと言ってあんただってカイアスを苛めにゆくんでしょうが!」

「馬鹿言わないで、あなたの鬼畜な趣味とこっちの教育的指導を一緒くたにしないでほしいわ、」

「指導ねえ、」

「なによ、」

「知ってるわよ、」

「黙んなさい!」

「ちゃんと見て知ってるもん、」

「黙りなさい、ダインバーント・グリム・ガスタム、」

「カイアスの体に生傷の絶えないのは、」

「その首切りとばすわよ!」

二人は立ち上がった。

「ははーん、やれるもんならやってみなさい、テュスラ・オッシナ、黒い魔導師の犬風情が、遠吠えするんじゃないわよ、」

ついさっき愛を交わしたばかりの、純白の広大なベッドの上に立ち上がり、睨み合う女二人の姿は、あられもないスッポンポンのままであるし、足元はフワフワで覚束無いし、その身体中には愛咬の痕やら愛液やら涎やら、その他得体の知れない分泌物のまだら模様までもがくっきりと残っているし、どうみてもあまり芳しい、麗しい光景とは言えないのである。より長身のテュスラはやや半身となり晴眼につけた右手刀には薄青い微光がほんのり宿っている。薔薇の姫はその手先を睨みつけたまま正面立ちし、両腕をだらりと垂らしてはいるがそのか細い指先の全てには文字どおり薔薇色の、心を蕩かす淡い光のヴェールがかかっている。しかし微かな震えが二本の腕全体に走っているのは隠しようがないのである。

「どうしたの? かかってきなさいな、」

姉娘の、声にもなぜか震えがある。侍女の手刀は微動だにせず相手の目の高さに鎮もっている。

「アレが不在のままじゃ力も技も出せないかしら?」

「試してみたら?」

「バラバラになるのはあんたの方よ、」〔薔薇の鉤爪の曲線の、凶悪な揺蕩たゆたい〕

「不死身なんてあり得ないことを教えてあげる、」

全裸の侍女は半歩前に出た。ベッドが軋み、薔薇の姫は一歩下がる。指先の薔薇色がかすれるように明滅する。

「さっき師は仰った、死よりも悪いものが存在する、見せかけの不死身には意味がないって、」

テュスラの瞳に青白い燐光が宿る。

「そ、そうかしら?」

薔薇の姫はさらに半歩下がる。が、踵が何か硬いものを踏み、バランスを失う。同時に侍女の体が沈むように大きく揺らいだその瞬間、小さな人影が致命の間合いのど真ん中に飛び込んでくる。トリスタンの華奢な肢体が目に見えぬ力の狭間にかかり、一瞬静止、と、宙空高く不思議につり上がり、そのまま有り得ない角度で変形する。か細く鋭い悲鳴が、豪奢な天蓋の下に響き渡る。


またまたご無沙汰してしまいました。2月から今まで、絶賛花粉症発作中でございます。ほとんど死んでおりました。まだ、半分死んでおります。何とか、予定の半分だけ訳し終わりました。なんか全然話が進んでおりませんがどうかお許しください。どうかどうかお見捨てなきよう。

【御注意】運営様より指摘があり語句の一部を省略いたしました。

【御注意】運営様より指摘があり語句の一部を追加省略いたしました。第2回目。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ