まぁ、幽霊っすよね。
「…さん。」
…ん。
「…のなかさん。」
…んん。
「田ノ中さん!起きてください!」
アリマの金切り声が俺の脳みそを激しく揺さぶる。目覚ましとしたら最悪の部類だ。
「うるっせぇな!」
上体を跳び起こし、俺の体をぞんざいに揺さぶるアリマを睨みつける。
本日2度目の目覚めは気分の悪い物だった。
「いや〜、全然起きないから死んだのかと思いましたよ。いや、まぁ、死んでるんすけどね〜。」
ケラケラと笑うアリマ。誰のせいで死んだか、その身体に教えてやろうか?
「…ここどこ?」
天高く上る太陽、ほどほどに気温は高く過ごしやすい陽光だ。見渡すと平原が視界に広がり遠くに山脈や森などが見える。自然豊かな世界のようだ。
俺が寝転んでいた場所は道…というより人が歩く事で通り道になった獣道の脇のようだ。頬をなでる風が運んで来る青臭い臭いが、鼻に付くが嫌な気はしない。
「まぁ、異世界すよね。お約束通り近代か中世ヨーロッパレベルの文明はあるはずっすよ。一応、転生玉は私が調べて選んでるので。」
「異世界転生ってそういう仕組みなの?」
「うちはこのやり方っすよ。選びもせず田ノ中さんみたいな雑魚幽霊引き連れてかないっすよ。私が危険になっちゃうじゃないすか。」
深くは聞かないでおこう…ん、幽霊?
「幽霊ってなに?」
「え、知らないんすか?どんだけ無知なんすか?」
立ち上がり、パンパンと服の埃を払うアリマ。その埃がぜーんぶ僕の方へ流れて来てるのは気にしないらしい。
「幽霊は知ってるよ。でも…俺、幽霊なの?」
「そりゃまぁ、死んだんだから幽霊っすよ。幽霊になった田ノ中さんを生き返らせる為に異世界来たんですから。」
「異世界転生じゃねぇじゃん!幽霊のまま送られてくるって、前代未聞だろ!?」
「男の癖に細かい人ですね~、そもそも蘇生させれるんなら蘇生させてミスを誤魔化した方が早いでしょ?それが出来ないからわざわざ異世界来て、田ノ中さんを復活させるんすよ。」
…なるほど、納得のいく答えだ。
「でも、臭いとか気温とか感じてるけど…。」
「今まで感じてたモンが幽霊になっていきなり消えはしないっすよ。ただまぁ、物とかに触るのは今の田ノ中さんじゃ難しいかもっすけどね~。」
「じゃ、空飛べたりはすんのかな?幽霊なんだし。」
「いやいや、逆もまたしかりっすよ。今まで飛べた事ない空に何で急に飛べるなんて思うんすか?漫画やアニメの見過ぎじゃないっすか。」
「何て夢のない事を言う奴だ。」
そんな事よりっと、俺のわくわくを一蹴して、
「この世界に来た目的であるナントカカントカって宝石を探しに行きますよ。それを使えばどんな願いでも叶うらしいんで。」
「ナントカカントカって何だよ、あまりに情報少なくない?」
おーっと拳を突き上げるアリマに大丈夫?と不安いっぱいの視線を送る。
「どんな願いでも叶う宝石なんてみんな知ってて当然だし、その辺の第一村人にでも聞けばいいしょ。だいたいそんなモノは悪い権力者が持ってるパターンっすけどね~。」
あっけらかんと言うアリマにはきっと計画性というものが欠落しているのだろう。世の中の人がみんなキミのように強欲とは限らないんだよ。
「じゃあ、とりあえず人のいるところに行こうよ。街の場所とかわかんの?」
「初めて来た世界なのにわかる訳ないじゃないっすか。ま、テキトーに歩けばなんか見えてくるでしょ。」
「不安で仕方ないんだけど…。なんでそんないい加減に居れるんだよ?この世界はいきなり誰かに襲われたりしないの?」
悩まず考えず、特に理由もなさげに歩き出すアリマの後ろについて行く。治安とか大丈夫なのかなぁ?
「あ、田ノ中さん人っす!人影が見えるっす!」
「え、どれ?見えねぇけど。」
「何すか、田ノ中さん顔だけじゃなく目も悪いんすか?アレっすよ!」
コイツの口の悪さはもはや当たり前なので流しておく、アリマの指差した方角を見ると小さな小さな何かが動いているように見えなくもない。