てへっ。
「情事酌量の余地無し!」
「仕方ないじゃないっすか!我慢出来ないんだもん!」
ブワッと一気に目に涙を溜めるアリマという名称のクズ。
「よく考えてくださいよ!先輩はプリンが好きだって言うわりになかなか食べないんすよ!わざわざ私に見せつけるように冷蔵庫に取っておくんす!」
「別に好物をとっておくなんて普通だろ?」
「どっこが普通なんすか?好きならガマン出来ずにその場で食べるでしょ?誰かに盗られたらどーすんすかっ?それって本当に好きなんすか?」
「盗る誰かってキミだよね?」
「田ノ中さん、今はそんな話してないんすよ?馬鹿なんすか?」
こいつの感情で押し切った理論は中身こそはないが、勢いがあって対応に困る。
「プリン食べたのはもういい、わかったから…、それがどう俺の件に繋がるんだ?」
「そうっす、それが大事なんす。」と前置きして、再び無意味に咳払いするアリマ。
「実は先輩は酷い人なんすよ。」
「俺的にはお前の方が酷いよ。」
「田ノ中さんは話を聞きたいんすか?それとも私と喧嘩でもしたいんすか?」
いくらアリマがゴミ屑でも自分より遥かに小柄な少女と喧嘩する気はないので、首を振って否定を示す。
「では、ちゃちゃ入れず大人しく聞いてて下さいっす。」
くそ、イラつかせてくれるぜ。
「で、先輩なんすけど、プリン食べたの2回目までは笑って許してくれたんすよ。」
凄いな先輩、人間が出来ている。
「でもでも、3回目はダメだぞ…と。3回目は閻魔様に訴えて勝つぞと言われてまして…。」
「勝ち目ないんだから、とっとと示談金でも払って全力土下座で許してもらえよ。」
「そんな金ねぇっす。」と一太刀で切り捨て、
「それに先輩の場合は金というか、もっと別の形の可能性も…。」
と、ごにょごにょ言い出す。なにかしら?
「とにかくどうにか一銭も使わず、私に被害なく、解決出来ないかと思い、法律を学ぶ為に天界六法全書を図書館に借りに行ったんすよ。」
学ぶ動機が糞だけど、何にせよ学ぶ姿勢は悪くないと思う。というか、天界六法全書なんてあるんですね。
「ところがですね、この天界六法全書は実に重たくて、私の細腕では持ち運ぶのが辛くて途中で落としてしまったのです。」
「落としたって拾えばいいじゃん。」
妙に申し訳なさそうに言うアリマ。
「いや、それが、その…、落としたってのがあなたの頭の上なんすよ。人間界に通じる通称ぼっとん池という物がありまして、そこに落とした天界六法全書がそれは見事に田ノ中さんの脳天へ…実に運が悪い。いや、むしろ良いのかもしれませんね。」
苦笑いを浮かべながらペラペラと喋るアリマさん。
「いやぁ、見てて思いましたよ。あの重さになると紙でも凶器になるんだなって…。悪いとはわかったんすけど、軽く笑っちゃいましたもん。」
はて…、俺の頭の上?
……
……
…
「俺の死んだ理由って…、もしかしてソレ?」
「…てへ。」
「てへっじゃねぇよ!フザけんなよ!そんなくだらない理由で人殺しやがって!ぜってぇ許さねぇ!俺、テメェをぜってぇ許さねぇ!」
「ちょっと待ってくださいよ、田ノ中さん!それはずっこいっすよ、ずっこいです!さっきは許されない罪はないとか言ってたじゃないすか!自分だってワザとじゃないんすよ!偶然の不幸な事故っすよ!」
「うるせぇ、犯罪者!窃盗に人殺しなんか許される訳ねぇだろ!」
「いやいやいや、田ノ中さん!自分はこう見えて天界に使える者っすよ!言ってしまえば天使みたいなモノなのに人間風情が犯罪者呼ばわりしてくるなんて失礼極まりないすよ!」
安っぽい天使の輪っかを指差しながらアリマは主張する。
目を凝らして見ると何やら透明な棒で頭と輪が繋がっている。偽者疑惑浮上。
「何が天使だ!面だけは一丁前だけど、中身は悪魔じゃねぇか!」
「あ、あくま!?私をまさか悪魔呼ばわりすか!犯罪者ならまだしも、バファリンの半分は私で出来てると言われるほど優しい私もさすがにお冠すよ!」
早口に妙な事をまくしたて、
「わっかりました!その喧嘩買いましょう!表へ出てくださいっす!死人のくせに勝てると思ってるならその鼻を明かしてあげますよ!」
見事な逆切れで袖をまくり上げ、白く細い二の腕があわらになった時、ドンドンっと俺の後方から壁を叩く音が轟いた。
「おい、誰か居るのか?」