魔が差しただけなんすよ。
挿絵も描いてます。
「なんで俺がココに居る事がバレると不味いんだ?普通、死んだ人間が行くとしたらお前の上司である閻魔大王のトコだよな?」
ビクッと反応する手から、アリマの動揺が伝わる。
「それなのに遥か下っ端のあんたと二人でこんなよく分からん部屋に閉じ込められてる。挙句の果てには異世界転生とか言ってたな?お前は俺を殺した事を上司に隠して誤魔化そうとしてるんじゃないのか?」
今まで集めた情報を一つの線にして答えを導き出す。
俺の言葉の一言一言に逐一反応していたアリマの手がプルプルと震えだす。どうにも隠し事が下手なタイプのようだ。
「そーですよ!それがなんすか?あなたには関係ないすよね?」
「あっ、お前開き直りやがったな!」
「それがなんすか?」と腕組み仁王立ちするアリマに、
「おー、そうだな。俺には関係ないな!だったら、俺が今からお前の上司に告げ口するのだってお前には関係ないよな!」
「そ、そそ、それは話が違うじゃないすか、田ノ中さぁん。」
脊髄反射レベルで擦り寄り、俺の手を握り首を垂れるアリマ。
コイツ損得勘定が露骨すぎる…。あと急に手を握って来ないで汗かいちゃう。
「今までも色々あって、私結構ヤバいんすよ〜。さすがに可愛さだけで今回の件は乗り切れないんすから〜。」
いやいや、春先から働いてるとしてもまだ五月半ばだぞ。一ヶ月半でどんだけやらかしてんの?
「人間をやっちゃったってなったら、さすがに首だと思うんすよ!どーすんすか?家賃に生活費、それにリボルディング払い〜。」
だめだコイツ、俺を殺しといて私利私欲な感情しか吐きださねぇ。こんなに汚い女の涙なんてあるのでしょうか。
「わかった、じゃあ俺がお前の上司に説明してやるから…。」
涙ながらに全力で縋り付いてくるアリマを不憫に思い、俺は仕方なく仏心を見せた。
「は?…説明っすか?それは告げ口となにが違うんすか?首になったら責任取ってくれるんすか?」
ピタリと涙は止まり俺に睨みを利かせてくる。とことんクズって来るがそういう奴だと分かれば、それほど怒りも湧いてこない。
「お前だってワザと俺を殺した訳じゃないんだよな?」
「当たり前っすよ。自分が田ノ中さんなんか殺して何の得があるんすか?むしろそ…いや、なんでもないっす。」
前言撤回、コイツは人をイラつかせる才能がずば抜けている。
「お前がワザとじゃない、反省してるってことを上司に説明してやるってことだ。」
「田ノ中さぁん、マジあんたイケメンじゃないっすか!顔はともかく心はイケメンっすよ!」
「おい、褒めてねぇぞ。」
「上手く話して頂ければ反省文だけで今回も済みそうっす!」
もう許されたくらいの笑顔になるアリマ。反省文や始末書とか書き慣れてるんだろうなぁと思った。
「という訳だ。俺を殺した状況を詳しく説明してくれ。」
まさかの自分の殺人事件の事情聴取をする機会があるとは思わなかった。
アリマはコホンと無駄にワザとらしく咳払いし、とつとつと話し始めた。
「あの時の私は少し焦っていました。あれは仕事の昼休み、私はいつものようにお弁当を食べ、自分の席で刻一刻と迫る午後の勤務に辟易しながらくつろいでいたっす。」
休みが終わるのは嫌だもんなぁ、ましてやそれが仕事となったら経験こそないが理解はできる。
「そんな折、私の身体が甘味を欲してる事に気付きました。…そしてふっと思い出したのです。先輩のプリンが確か冷蔵庫にあるということを…。」
コイツ…まさか?屑だ性悪だと確信していたが、そんなまさか…。
「私は手を伸ばしました。魔が刺したんす…。」
目を伏せ、独白のように己の悪業を懺悔する。
「お前、それはやっちゃいけないだろ!」
意図せず俺の語気は強まる。
そんな俺を悲しい目で眺め、アリマは続けた。
「3回目っす。」
挿絵に話との関連性や意味はありません。でも、いいじゃない。