アリマさんはいつも正しい。
「理解出来たら、すぐに裏から逃げますよ。」
身をかがめて、ちょいちょいと手招きする糞ピンクさん。
大丈夫かなと思うが、人に触ることすらできない幽霊な僕にはどうしようもないなという考えに至り、アリマさんに憑いて行く。
そんな中でも外では人々の怒声や悲鳴、物が壊れる音が絶えず響いている
「大変っすよ、田ノ中さん。」
さすがのアリマも外の異変が気になったのか、真剣なトーンになり、
「この家、裏口がありません。」
逃げ道のなさを嘆いていた。
「お前は本当に天使なのか?慈悲がなさ過ぎるだろ。」
「天使じゃありません、見習いなんで。」
サラッといなして、
「仕方ないすね、表からこっそりと逃げましょう。」
騒音を聞く限り、外は相当凄惨な状況なはずだ。それを見捨てて逃げるのは人としての良心がチクチクと痛む。
特に何が出来るでもないけど…それでもという気持ちが俺を支配し、玄関に足を向かわせた。
「あ、1人だけ逃げるのはズルっすよ!」
ぐんぐん進む俺の動きに、勘違いしたアリマが追随してくる。
俺はアリマとは違う、ちゃんと人の心と慈悲を持っているのだ。会ったばかりだし、見ず知らずの他人だけど、簡単に見捨てる訳にはいかない。
ちっぽけな勇気を片手に玄関を飛び出して、目に飛び込んで来た情報を飲み干した俺は、
「本当に裏口はないのか?」
追いかけてきたアリマを部屋の奥に追いやって叫んだ。
「ど、どーしたんすか?」
アリマが眉をひそめる。
「どうしたもこうしたもあるかぁっ!ドラゴンだドラゴンが居る!早く逃げなきゃ我が身が危ねぇっ!」
「え、ドラゴン!?マジっすか?ちょっと見てみたいんすけど!」
「そーっと覗けよ。そーっと。バレないように。」
目を輝かせるアリマに小声で耳打ちする。
先程、俺がみた光景は漆黒のドラゴンが真っ赤な火を吐き、集落を燃やす映画やゲームでしか見たことのない迫力満点のリアルだった。
もう、逃げたくて仕方がない。赤の他人の状況なんて知ったこっちゃないです。
アリマさんは正しいいつも正しい。
裏口だ、裏口を探さねば…。
「うっはー、モノホンじゃねすか!やっばい凄い迫力っすねー。」
アリマさんの感情に呼応するように背中の羽がピョコピョコ動く。
「そんなもんはいい、とっとと勝手口を探すぞ。最悪、風呂の窓とかあるだろ?」
「ヒュー田ノ中さん冴えてるじゃないっすか!」