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ソウゾウ楽園  作者: 金曜の夜まで雨
8/21

8.入学式⑤

 


「それでは、始め!」


 開始の合図でステージ上の4組が一斉に動く。


 ニーナは先手必勝、速攻を仕掛ける。先ほどまでの緩い雰囲気を感じさせない気迫でミュウに迫る。ニーナの能力は知らないが、距離を詰めているところを見ると、近づかなければならない理由があるのだろう。


 対するミュウは、その場から一歩も動いていない。


「おい、あの子、大丈夫か?」


 2人とも容姿が整っているため、セカイ達以外にも多くの生徒が2人の試合を見守っていた。生徒からは、全く動かないミュウに心配の声が上がる。周りの大人が早くも止める準備に入っている。


 だけど、そんな心配必要ない。

 距離を詰めたところで、何もできやしないのだから。


 ニーナが拳の届く距離にまで接近する。どんな能力を使うのか興味があったけど、攻撃の手段として用いたのは速度を活かした正拳突きだった。


 ニーナの攻撃が当たる、と思ったその瞬間、ミュウを中心に地面から爆発するように水が噴射した。


「おおっ!」


 あまりの衝撃に会場が揺れ、爆音に耳を塞ぐ。さっきまで心配していた連中は、驚きの声を上げている。


 天井近くまで上昇した水柱は威力を失い、水滴が辺りに降り注ぐ。

 この場の誰もが濡れることを覚悟したが、透明な壁のようなものに阻まれ、誰一人被害を受けることはなかった。


 こちらへの攻撃は対策済みってわけか。


 ……いや、そんなことはどうでもいい。ニーナはどうなった?


 周りの大人も、あまりに突然のことで対応ができていなかった。なんのために配置されているんだと、文句を言いたくなるが、あの桁違いの威力の前では責めることはできない。


 だって、こんなクラスを決める試合ごときで使う能力じゃないんだから。ミュウの実力を知っている僕ですら、予想することが出来なかった。


 ブランの様子が気になって、横を見ると、心配をしているどころか全く動じていなかった。

 この展開が読めていたかのような反応のなさ。


「ふっ」


 そんなブランを見て、思わず鼻で笑っちまったね!

 あの攻撃をまともに食らったニーナはおそらく立つことすらできないだろう。


 いや?それどころの話じゃない。息をしていないことすら覚悟しなければならない。


 なのにこいつはただ見ているだけ。

 ここで助けでもしたら、お前にもっと惚れていたかもしれなかったのになぁ!


 そのチャンスを逃したんだ。しかも、その何とも思っていなさそうな顔。お前はニーナのことなんてどうでもいいんじゃないのか?

 そうだとしたら、これ以上僕の邪魔をしないでもらいたいね。


「大丈夫、ニーナは無事だ」


 セカイが勝ち誇った顔で馬鹿にしていると、ブランが笑みを浮かべる。


「確かに、ミュウの能力はすごいけど、ニーナのことをなめてもらっちゃ困る」


 そんなことあるはずないと思いながら、2人の方に目を向ける。

 すると、そこには苦しそうに息をしているものの、しっかりと自分の足で立っているニーナの姿があった。


「え、まじ?」


 あまりにも意外で、ついつい素が出てしまう。


「ニーナの能力名は【減力】でさ、守りに特化した能力なんだ。だから、あの高威力の攻撃を防げたってわけだ」


 【減力】だって?


 能力は魔力を使うための装置ではあるが、なんでも自由に使うことができるわけではない。

 魔力の使用用途は能力名として文字で表されていて、その文字以外の用途では魔力を使用することはできない。


 【減力】という文字から、何かしらの力を減らす能力だと考えられる。


 そうなると、あの威力の攻撃を耐えられたのにも納得がいく。


「でも、あの様子じゃもう戦えないんじゃない?」


 肘に手をつき、下を見ていて、前もろくに見ることができない。立っていることすらも限界にみえる。


「まぁな、でも、この試合に勝てなんて言われてないし、あれほどの威力の攻撃を受けても倒れなかったってだけで、ニーナの力を示せたんじゃないか?」


 なるほど、そういうことか。


 おそらく、この試合の評価でクラスが決まる。能力者としての試合でニーナの【減力】はあまりにも地味で、勝ち目も薄い。普通に試合をしていたら、どこを評価すればいいのか迷ったことだろう。そうなれば、底辺のクラスになるのは必然。

 そこに、ド派手な攻撃を真正面から受け止めたという結果を作ったことで、ニーナの評価がしやすくなり、上位のクラスになることも視野に入る。


 ……まさか、全てブランの入れ知恵ってわけじゃないだろうな。

 あのニーナがここまで考えて行動するとは、失礼だけど思えない。偶然にしては、ブランの反応が引っかかる。だとしても、何故ミュウがその作戦を成し得るほどの強力な攻撃を放つと予想できたのかなど、疑問に思うこともあるけど。


 もし、試合の説明から大した時間も経ってないってのに、ここまでのことを考えたとしたなら、素直に尊敬しよう。ついでに、鼻で笑ったことも謝ろう。




 2人が話していた間も試合は続いており、目を離していた隙に状況は大きく動いていた。そして、セカイは目を離したことを後悔するのだった。


 あれは、ちょっとマズいかもな。


 眼前には視界を覆い尽くすほどの巨大な水玉。

 ミュウが本気になった証拠だ。ステージの攻撃が対策済みだったとしても、信用できないくらいにセカイは危険を感じていた。


 ただの試合だってこと忘れてないか?

 さっきの攻撃だって、ニーナの能力がなければ死んでてもおかしくなかった。……こんな考えなしの行動、いつものミュウらしくない。


 そこまでして、上位のクラスに入りたいのか?


 何を考えているのか分からないことで本格的に危機感を持ったセカイは、逃げ出したい気持ちをグッと堪える。ここで逃げたら、臆病者のレッテルを貼られてしまう。そうなれば、この学校生活、モテるどころか笑い者になること間違いなしだ。それだけは、絶対に避けなければならない。


 ……とミュウのことを信じることにし、その場に留まる。



 セカイの気持ちに応えるかのように、圧倒的な存在感を持った水玉が一瞬にして霧散した。

 

 信じてよかったぁ、と全身の力が抜ける。


 勝敗がどうなったのかステージを見ると、ミュウの周りに大人が集まっていた。

 生死に関わる攻撃だから止められたのか?と思ったが、どうやら違うらしい。


 ニーナが手を挙げて、降参宣言をしていた。

 その姿に、ブランは大きく拍手をする。みんな、状況がわかっていなく困惑しているため、拍手の音はやけに響いた。


 よく考えたら、最初の一撃で評価されることが目的なのだから、これ以上、試合を続ける意味はないのか。


 他の生徒からしたら、これから面白くなりそうだったのに、とガッカリしているのだろうけど、僕から1つ言わせて欲しい。


 降参してくれて、本当にありがとう!


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