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ソウゾウ楽園  作者: 金曜の夜まで雨
7/21

7.入学式④

 


 周りは、ペアの報告をしている人の列でざわざわと騒がしい。

 ミュウとブランは一緒に並んでおり、今日会ったばかりとは思えないほど距離が縮んでいる。あっちは、仲良くやっているみたいだ。


 ……さて、2人きりになれたけど、何を話そうか。やっと作り出すことができたチャンスなんだ、これをみすみす逃すわけにはいかない。


 よし、一番気になっていることを聞いてみよう。


「ねぇ、ニーナはブランと待ち合わせしてたみたいだけど、どういう関係なの?」


 初めは適当なことを聞いて、遠回りをしてから本題っていうのが理想的ではあるが、あまりのんびりしていると何も得ることが出来ない意味のない時間になってしまいそうで怖かった。


「ブランとはね、一昨日知り合ったばっかりなんだ」


 ニーナの言葉はセカイが一番、求めていたものだった。

 心の中でガッツポーズをする。


「そ、それにしては随分と仲がいいみたいだけど?」

「恥ずかしい話なんだけど、私、誘拐されちゃってね」


 苦笑いをしながら、話始めた。


「えっ?それはどうして?」

「うーん、それがよくわからなくてさ。家に帰っている途中で知らない男の人にね、眠らされちゃったみたいなの。能力でも使われたのかな?」


 ……能力?

 あの、ただの誘拐に貴族が関わっているとでもいうのか?


 一昨日のことを思い出す。


 確か、僕が殺した中に能力者はいなかったはず。


「それで、起きたときには柱に縄で縛られていて、ちょうどブランが戦ってるところだったの。相手が持っていたナイフなんて関係なく、能力であっと言う間に倒しちゃった」


 僕が気づいていなかっただけで、ブランも1人倒していたのか。

 なら、そいつが能力者だってことも考えられるけど、ナイフを使っていたのか……うーん、分からないな。


 ニーナを眠らせたみたいに、相手を無力化させられる能力者が自分の能力よりもナイフを頼っている状況が想定できなく、能力者だって断定できないでいた。


 もしかして、まだ仲間がいるとか?


 ブランの倒したやつが能力者だと考えるよりも、想定のしやすいものではあった。

 となると、ニーナのことを助けた僕たちを探しているってことも考えられる。ただの賊ならば、そこまで気にすることではないけど、能力者が絡んでいるとなると警戒をしておいた方がいいだろう。


「倒したって、殺しちゃったってこと?」

「え?ううん、殺してはいないけど……建物が崩れたから、無事かは分からない、かなっ」


 まだ生きている可能性があるってことか……それが聞けただけでも十分だ。


「そうか、大変だったんだね」

「うん、あの時は最悪だって思ったけど、ブランが助けてくれたから、今はなんとも思ってないよ。あの時のブラン、とってもカッコよかったんだよっ」

「……へ、へぇ。そ、そうなんだ」


 ちょっと、待って。……カッコいい、だって?今、カッコいいって言ったよね。


 賊のことは一通り聞くことができた。

 なら、今、僕のやるべきことってなんだ?ここで考えていても仕方のない、未知なる能力者のことか?いいや、違うだろ。


 今、やらなければならないことは、ニーナがブランのことをどう思っているのか聞くことだろ。

 危なかった、もう少しで折角のチャンスを無駄にしてしまうところだった。


 まずはこれを聞いておかなければいけないだろう。


「え、えぇーっと。もしかして、さぁ……ブランのこと、好き、なの?」


 勝手にブランのことを好きだと勘違いしたまま、先に進むよりも、ニーナがどう思っているのか明確にしておいた方が今後の作戦を立てやすいからな。

 それに、カッコいいと言ったから好きとはならないし、ただ率直な感想を言っただけなのかもしれない。


 そんなセカイの期待は、虚しく散ってしまった。


 それを言った瞬間、ニーナの顔が一気に赤くなったからだ。

 セカイに見られていることがわかったからか、真っ赤になっていることを隠すために顔を両手で覆う。


 ……もう確定じゃん。


「ど、どうなんだろっ。あの時、顔が血だらけの人が怖くて怯えてたのに、ブランは臆さずにその人を怒鳴ってね、初めはどういう意味か分からなかったけど、私を思ってのことだって気づいたら、胸が苦しくなってブランから目が離せなくなっちゃったのっ」


 あぁ……その顔が血だらけの人って、僕なんだ。

 まさか、僕の登場によって好きだと自覚することになったとは。……はぁ、何やってるんだよ、一昨日の僕は。


 これは、かなりまずい状況だ。

 ここからの打開は険しいものになるだろう。


 もし、同じ状況で僕が助けたとしても、ブランの方が……なんて霞んでしまうのは明らか。ニーナ自身は意識してなくても、想い人中心に考えるようになってしまう。

 どうやってそこに僕という存在を割り込ませるかが鍵になってくる。


 諦めるにはまだ早い、僕にだって勝機はある!


「いやー、結構早めに行ったはずだけど、長い時間待たされちまった」

「ブ、ブランっ!?は、早かったね」


 顔の熱を冷まさせようと、手で仰いでるけど一向に収まる気配はない。赤くなる一方だ。


 ニーナにこんな顔をさせるなんて……羨ましいやつだ。


「なに話してたの?」


 いつの間にか僕の隣に来ていたミュウが話しかけてきた。

 あっちは2人で話してるし、聞こえることはないだろう。


「いろいろ話したけど、お前は少しの間1人にならない方がいい」


 すぐさま、切り替える。


 もし、あの場を見られていたとしたら、ここにいる3人の顔は知られているかもしれない。ミュウは関わっていなくとも、一緒にいるというだけで危険に晒されてしまうことも考えられる。

 別にミュウが弱いというわけではない。むしろ、僕よりも強いくらいだ。ただ、危険な目に遭わないに越したことはないからな。


「ん?……わかった」


 どうしてなのかは分かっていないようだが、セカイの忠告には素直に返事をした。



 ***



 ペアの報告が終わったようで、立っている生徒はいなくなった。

 今度は、学習したのか静かに指示を待っていた。


 これならマイクで話されても聞き取ることが出来そうだ。


 一通りペアの組み合わせを聞いた上級生たちは、ステージの端の机の上に置いてある箱に、ペアの名前が書かれたであろう紙を入れていく。


 どうやら、くじ引きで戦う順番を決めるようだ。


「今から名前の呼ばれた方はステージに上がってきてください」


 全ての上級生が箱に紙を入れ終わるのを確認すると、女性がその箱のもとに行き、箱の中に手を突っ込む。

 紙を一枚取り出すと、ペアの一組である2人の名前が呼ばれる。


 これで終わりかと思いきや、そういうわけではないらしい。

 そのあとに二組目、三組目と名前が呼ばれていく。


「……最後にニーナ、ミュウのペア」


 4組目で呼ばれたのはミュウ達だった。


「いきなりかー、緊張するねっ」


 そうは言っているが、あまり緊張しているようには見えないどころか、楽しそうだ。

 余程の自信があるのか、戦うことが好きなのかわからないが、こういう場を楽しめるのは羨ましく思う。


「うん、でも早い方がいい」


 ミュウはいつも通りで、気にしている様子がない。

 そういえば、こいつが緊張しているところなんて見たことないな。


 なんて思っていると、ニーナがミュウの手を握った。


「それじゃあ、先に行ってくるねっ」


 僕たちにそう言うと、ミュウを引っ張ってステージの方へ走っていく。



 呼ばれた全員がステージに上がったのを確認し、女性がマイクを口元に持っていく。


「今からこのステージを4つに分けます。その場所で4組は2分間戦ってもらいます」


 上級生が4組のペアをそれぞれの場所へと案内していく。

 この闘技場が広いおかげで、4つに分けたとしても十分な広さを確保することが出来ている。


 白熱して他の場所に入ることがないよう、大人がそれぞれの場所に3人ずつ立っている。


 紙を持っていることから、同時に評価も担当しているのだろう。

 勝ち負け以外にも、反映されることがありそうだ。


「2人の試合が見やすいところにまで移動しようぜ」


 周りを見てみると、他にも移動している生徒がたくさんいた。


「うん、そうしよう」


 僕も2人のことは見ておきたかったし、ブランの提案に乗った。


 試合をする2人は僕たちが座っている出入り口側とは反対のところで向かい合っている。

 2人とも緊張しているとは思っていなかったけど、まさか笑みを浮かべているとは思わなかった。ミュウも少し楽しそう。


 移動しながら様子を見ているうちに、準備も完了したみたいだ。


「生死に関わる攻撃が出た場合は、周りにいる教師が止めに入ります。遠慮せずに全力でぶつかってください」


 なんとか始まる前に席へつくことが出来た。


「それでは、始め!」


 という合図で、2人の試合が始まった。

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