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ソウゾウ楽園  作者: 金曜の夜まで雨
6/21

6.入学式③

 


 校内の中心に堂々と構える闘技場には多くの生徒が集まっていた。

 闘技場の中は戦う場所であろうステージを囲うように観覧席があり、壮観だった。ステージには過剰だと思えるほどの光で照らされており、微小の光しかない観覧席から見る景色は神秘的で妙に少年心がくすぐられる。


「あそこに座ろうぜ」


 ブランの提案で一番後ろの席へ向かった。


 こういう自由に座れる席で一番後ろが空いているのは珍しいな。真剣に勇者の道を目指そうと意欲のある生徒が多い証拠なのかもしれない。


 席に向かった順番でブラン、ニーナ、ミュウ、セカイという並びで座った。

 

 僕の横にはミュウがいる。家では見慣れた光景だが、一つ言いたいことがある。


 ……そこの席は僕に譲るべきだろ?


 ミュウとはニーナを助ける前に、モテるように協力してあげるって言われた気がするんだが。

 ニーナの一件で役に立つと思ったけど、明らかな妨害行為……実は協力する気がないとすら思えてきた。それか、単にポンコツなだけか。


 隣同士になったニーナとブランの2人は楽しそうに会話をしている。


 ……よく笑う、素敵な子だな。

 その笑顔には、助けてもらったことへの信頼感もあるのだろう。ブランの隣が今のニーナにとって一番の安全な場所だと感じているのかもしれない。


 この時点で僕にできるのは、誘拐の時に初対面であってくれと願うことくらいか。その前からの付き合いだとしたら、諦めるのすら視野に入れておこう。時間をかけて無謀な戰に挑むほど馬鹿じゃない。

 ミュウにあそこまで言った後で申し訳ないけど。


「ね、もし、戦うなら本気でやるの?」


 気落ちしているところに、ミュウが話しかけてきた。

 口数が少なく、何を伝えたいのか読み取りづらいけど、ある程度の理解が出来る時間を一緒に過ごしてきたつもりだ。こんなことでわざわざ聞き返さない。


 もし試合みたいな形式になった時に本気でやるのか……ってことだと思う。


 そりゃもちろん、勝って注目されたいしな。期待の新人!!みたいに。

 いや、よく考えたら、こんなところで本気を出すわけにはいかないな。手加減をしつつ力を示すのが理想だ。


「さぁな」


 なんて色々考えてはみたものの、わざわざ言うほどのことでもないと判断し、適当に返事をする。


 そんな答えに満足したのか、こちらへ向いていた目線を外して前を向く。


 その瞬間、舞台の明かりが消え、一本の光が差す。

 明かりの下には、一人の男が立っていた。細身で長身の理想的な体型に加え、腰まであるサラサラの白い髪。遠目からはまるで王子様が連想されるが、皮と骨しかないようなやつれ顔のせいで、実際にはそう見えないから不思議だ。夜道で出会えばゾンビと間違えても仕方ない。


 そんな男が黒のローブを羽織っているせいで、不審者としか思えないが、見たことがある。


 ……この学校の校長だ。


 僕たちと同じくらいの歳、つまり15歳には戦争で活躍していた逸材で、異例の若さで校長に就任した男だって噂だ。


「やぁ、新入生の諸君。私はブレイントール勇者育成学校の校長のハンボートだ」


 家名を名乗らないってことは貴族ではないのか。

 どうりでおかしいと思った。若いころから戦争で活躍していた貴族が校長になんてなるわけがない。だからと言って平民がなれるものでもないけど。

 そこは、それだけ実力が飛び抜けていたということなのだろう。


 実力で校長にはなることが出来ても、平民はどう足掻いたって貴族の位を与えられることはなく、平等に評価されることはない。それがこの国の常識なんだ。


「この学校は実力主義だ。家柄がいいからって、優遇されることは決してない。優遇されたいのなら、力を示せ。力がないなら強くなるために努力しろ。……以上だ」


 校長は言いたいことだけ言うと、退場した。

 周りには「平民のくせに」と不満を漏らしている新入生もいたが、目立って何かをしようとはしなかった。


 今まで平穏に過ごしていてもこの校長の存在は知っているのだろう。戦争の恐ろしさは、この国で暮らしていれば嫌でも耳にする。


 それでもこの学校に入学してくるのは、王国の歴史で築いてきた思想のおかげだ。自らの意思で戦場へと赴く、そう本人たちは疑いもせず当たり前のように考えている。


 それは例に漏れず僕も。


「それでは、新入生の方々には1対1の試合をしてもらいます。これは、クラスを決める際の参考にするものなので、是非頑張ってください」


 校長と入れ替わりに入ってきた女性が手に持った紙に目を通しながら読み上げていく。


「各自、近くにいる人とペアになってください」


 紙から顔を上げる。


 この時間にペアをつくれってことだろう。


「なぁセカイ、俺とペアを組まないか?」


 ブランは近くにいたニーナとミュウと試合をするつもりはないのか、真っ先にセカイに声をかけた。


 これはどういうことだ?女の子には手を出したくないとか……それとも、単純に僕がなめられている?

 もし、そうだとしたら……いいだろう。


 ちょうどいい機会だ。一昨日、受けた借りを返すとしよう。


「うん。僕も誘おうと思ってたんだ」

「よっしゃ。手加減しないからな」

「こっちだって」


 そういって握手をする。


 ……なんだこれ。


 とても爽やかな会話だ。

 こういうやり取りに慣れていないせいか、思いっきり手を潰すなどして空気を壊してやろうかと思ったけど、悩んだ末、やめた。


 だって、負けそうだもん。見てみろよ、あの筋肉。逆に握り潰されちゃうよ。


「じゃあ、ミュウちゃん。私たちで組もうよっ!」


 ニーナがミュウに思いっきり抱きつく。


 発育のいい胸がミュウに押し当てられている様はとてもいい眺めだ。


「うん、わかった、から」


 抱きつかれて息苦しそうだったが、自然と嫌がっているようには見えなかった。


 僕が抱きつこうとした時なんて……いや、思い出すのはやめておこう。



 セカイ達と同じように周りも続々とペアが決まっていく。

 一度話し始めた集団は、なかなかおさまらずガヤガヤと騒々しい。


 これ、どう収拾つけるつもりだ?


 次の瞬間、この騒ぎを止めるかのようにドカンと響き渡る爆音。

 闘技場のど真ん中で爆発が起こった。


 明らかに、静かにさせたいタイミングでの爆発……能力か?


 能力とは、この世界の人間が必ず持っている魔力という名のエネルギーを使えるようにするための装置のようなもののことをいう。一般的には貴族しか扱うことは出来なく、能力者と呼ばれ権威を示している。

 これが、貴族と平民の間にある明確な差だった。能力者でなくとも自身の魔力を使う手段はあるにはあるが、平民が手にできる代物ではないため、平民にとって魔力とは無いに等しいといえた。


 そのため、貴族でもないハンボートが校長に就任しているのが不思議で仕方がなかった。戦争で活躍した実力者以外にも理由があるのではないかと勘繰ってしまう。



 さっきの爆発で、あれほど騒がしかった闘技場内は静かになっていた。

 爆発の煙が晴れると、ステージ上にはさっきのお姉さんが立っており、再びざわつく。


 爆発前ほど騒がしくない新入生を「静かに」と黙らせると、再び話を始めた。


「それでは、ペアになったところは席に着いてください」


 大半はペアが出来ているようで、次々に座っていく。

 ある程度動きがなくなってくると、ペアが出来ていない人だけが残る。


 ここで座ることが出来ないのは、プライドの高い貴族にとっては屈辱的なことのため、同じく近くに座っている人とペアを作って座る。

 そんなこともあり、全員が座るまで、大した時間はかからなかった。


「ペアの内1人は観覧席の後ろにいる係の人へ報告してください」


 後ろ?


 振り返ると、壁には僕たちと同じ制服に身を包んだ人が一定の間隔をあけて立っていた。


 ネクタイが緑色ってことは2年の先輩か。


 この学校は3年生まであり、1年生から順番に赤、緑、青と色が決められている。これは学年が上がっても色は変わることがなく、入学してきた新入生は、卒業していった学年の色に決められる。


「俺から誘ったんだし、行ってくるよ」


 そう言うブランは、親指を立て、席から離れていく。

 ブランが向かった時にはすでに多数の生徒が列を作っていて、戻ってくるまで時間がかかることが予想できる。


 ……これはチャンスだ。


 チラッとミュウのことを見ると、目があってコクリと小さく頷くと「わたしも」と席を立って、小走りでブランの後についていく。


 よし、伝わった。


 これで、今、席には僕とニーナの2人しかいない。


 待ちに待った状況をようやく作り出すことができた。

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