5.入学式②
……こいつも、セットでついてくるのかぁ。
さっきまでの最高な状況から一変して、最悪な状況へと早変わりしてしまった。
なんたって、ライバルが誘拐から助けてくれたイケメンだ。挨拶を交わしただけの冴えない男と比べたら、現時点では前者を選ぶに決まっている。
まぁ、まだ2人がどんな関係かわからない以上、考えすぎな気もするけど。
「そんで、この人たちは?」
「こっちの可愛い子はミュウちゃんで、その隣にいるのはミュウちゃんの弟のセカイ君」
ブランの問いかけに応じ、ニーナがセカイ達を紹介する。
ニーナの中で僕はミュウの弟ということになってしまったらしい。
いや、そんなことよりも……どうしてミュウから紹介しているんだ?
僕の印象が薄いってこと?あんな、衝撃的な出会い方をしたのに……。物理的ではあるけど。
それに紹介の仕方で僕のことをミュウの弟としか思っていないみたいだし。ニーナの中で僕の立ち位置は相当低いのかもしれない。
「セカイにミュウ、よろしくな。俺はブラン=ウルーフ、ブランって呼んでくれ」
「よろしく、ブラン」
「ん、よろしく」
ブラン=ウルーフ……陸位貴族のウルーフ家か。
聞いたことがある。ウルーフ家の次男が優秀で、成り上がっている貴族だって。
このジャンラ王国には「地」、「陸」、「空」、「天」、「神」の順で貴族の階級が決まっており、「神」の位は王族にしか与えられないがその他は外国との戦争に参加し、功績を積むことで国王から位の授与が行われる。
もし、こいつのおかげで成り上がっているとしたら、戦争で活躍した実力者だということか。
ド派手で強力な攻撃をしてきたし、僕と違って色々と恵まれているんだろう。
そりゃ、こんな堂々とした態度も取れるんだろうな。
ちなみに、この学校は貴族しか入学できないが、身分の上下関係を気にする必要はないらしい。
だから、いくら貴族の位が高いとしても平等に接してもいいということだ。位が一番下の僕みたいな貴族には最高の制度だな。
「そろそろ入学式始まりそうだし、行こっか」
「そうだな」
ニーナが頬を染めながら、ブランの制服の袖を引っ張って一緒に歩き始める。
……ん?
僕たちもその2人の後に続く。
やはり……。
いや、僕の勘違いだろう。うん、きっとそうに違いない。
***
王国には、勇者として戦争で活躍する人材を育成するための機関が4つある。このブレイントール勇者育成学校は、そのうちの1つだ。
勇者なんてカッコイイ名前で呼ばれているが、実際は戦争の道具として都合よく使われているだけの駒でしかない。
まぁ、戦争に参加することで昇進の機会や多額の報奨金を受け取れるから勇者側にも大きなメリットがあるのだけど。手っ取り早く偉くなるには、勇者になる必要があるということになる。
ここにいる生徒は、大半が出世欲の強い親の道具として入学したのだろう。
隙間がなくなるほど大勢の人間を見てそう考える。
入学式は、この学校で一番大きいと言われている闘技場で行われる。今年入学してくる人数なんて楽々収容することが出来るんだろう。
……。
てか、どうして僕以外の3人で仲良く会話しているのかな?
さっきから僕に話が振られることはないし、どうやっても会話に入ることが出来ない。まずい、これが仲間外れというものか?
あぁ、心が痛い。
「みんな、同じクラスになれるといいね」
その「みんな」には僕も入ってるよね?
「クラス分けは実力によって決まるわけだし、俺たちの持てる力を精一杯出そうぜ」
「そうだよねっ。私もがんばろっ!」
「うん」
「僕もがんばるよ」
みんなが返事をするタイミングで紛れ込んだら、変な空気になることもなく、思ったよりもいい感触だった。
ただ会話に入るのを怖がっていただけだった。普段、家族以外との会話なんてなかったから、新鮮だ。
「そのクラス分けの実力ってどうやって決めるかみんなは知ってる?」
「え?そんなの……いや、そういえば聞かされてなかったな」
「がんばろうって言ったけど、私も何するかわかんない」
「……わたしも」
みんなも知らないのか。
闘技場で入学式をするってことは、戦わされたりするのか?
「まっ、全力でやるってことには変わらないんだし、気楽にいこうぜ」
その自信は、実力からくるものか。
……と急に服が引っ張られる
「ね、ずっと気になってたけど、ニーナを助けたっていうのは……もしかして」
その相手はミュウだった。
立ち止まらせて話がしたいってことは、2人にはあまり聞かれたくないってことか。
どうして聞かれたくないかはわからないけど、気にしても意味はないのだろう。
「あれ?言ってなかったか?お前の想像通り、ニーナを助けたのはあいつだ」
「……やっぱり」
昨日のセカイの話と2人の関係から予想することが出来ていたのだろう。特に驚くことはなかったが、立ち止まって考え事を始める。
「……?」
「ん?なんだって?」
セカイに聞こえないほどの声でブツブツ言っており、伝えようとしていないのがわかる。
こういう時に話しかけても返事が返ってきたことはない。色々と考えているんだろう。
これは……もう用済みってことだな。
このままここにいればいいか、それとも離れていいのか迷う。
「おーい!何やってんだ?」
先へと進んでいたブランが、いつまで経っても追いつかないセカイ達を心配し大声で呼んでいた。
助かった。
未だに何かを考え込んでいるミュウの肩を軽く叩く。
「おい、呼ばれてるぞ」
「あっ……ん、ありがと。心配かけるし、早くいこ」
そう言って、真っ先にミュウがブランのもとに走って行く。
……よくわからんやつだ。