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ソウゾウ楽園  作者: 金曜の夜まで雨
3/21

3.誘拐③

 


 尖ったものがツンツンと頬に当たる感覚で、意識を取り戻す。目を開けると、陽の光と共に見覚えのある顔が目に入った。


 宝石かと思うような美しい銀色の瞳が僕の平凡な顔を写している。

 顔を直視するのに妙な気恥ずかしさを感じるほど整っていて、自然と視界の外へと追いやってしまいそうになる。

 しかも、光が反射しそうなツルツル肌で、触ると柔らかいんだろうなと気持ちの悪い考えが脳裏をよぎる。


 こっちを覗いているせいで、瞳と同じ銀色の髪が顔に当たってくすぐったい。


「やっと起きた」


 話す言葉に抑揚はないが、見た目どうりの綺麗な声音で、寝起きで気分が悪い状態にも関わらず不快感を感じることなく、流れるように頭の中へ侵入してくる。

 そんな彼女も表情の乏しさのせいで上手く武器を活かしきれていないが、それすらも愛嬌を感じさせる。


 ーーー刀の刃先で僕の頬を突いてくる奇行がなければ、だが。


「あぁ、ミュウか。わざわざ起こしてくれてありがとう」


 鬱陶しいし、地味に痛い刀を手で払いのけ、優しく声をかける。

 僕はこいつのことをよく知っている。ミュウ=チータ……一応、僕の妹だ。


「……ここには誰もいないよ?」


 そう言われて、辺りを見渡す。あるのは、瓦礫と死体。その光景を見て、嫌でも昨日の記憶が引っ張り出される。それと同時に、僕とミュウしかいないことがわかった。


「なんだ、お前だけか」


 明日からの学校生活に備えてミュウに「どちらかと言えば、優しいほうがいい」と言われてから、初対面の人には優しい印象を抱かせるように努力していたが、こいつだけならその必要もない。

 てか、さっきから顔の周りに何か張り付いているみたいで、話しにくいし気持ち悪い。


「その顔はどうしたの?」

「顔?」


 ミュウに言われて、自分の顔に触れる。確かな違和感を感じて、触った手を見ると、僕の手には固まった血がついていた。

 殺した時にでも返り血を浴びたのか。


 ……全く気が付かなかった。


「それで、女の子とは仲良くなれた?」


 勿論、僕があんな暗い場所を意味もなく歩いていたわけではない。

 こいつがどうやって調べたのかは知らないけど、あそこに女の子を誘拐した男が通ることを事前に教えてもらっていた。


 もし、教えてもらっていなかったら、この件に関わることはなかっただろう。


 それにしても……本当にミュウの言った通りになるとは。


「それなんだが、変な邪魔が入ったせいで助けられなかった。ていうか、助けられていた。何だったんだ、あの男は。イケメンだからって僕の獲物を横取りするなんて許されるはずないだろうが。顔がちょっといいだけで……」

「あの子のこと獲物って言わないで。……で、男?」

「あぁ、でもあの男……よくこんな場所に来れたよな」


 ここは町の中心からは離れていて、セカイのように目的がなければ辿り着くことができないような場所にある。ということは、偶然ここに来て、偶然ニーナって子を助けたとは考えにくい。


 名前を知っている様子だったし、元々一緒にいたところを連れ去られて助けに来たっていうのが、考えられる可能性としては有力か?


 いや、待てよ。僕が男を追いかけている時、近くに人影はなかった。暗闇の中、目視できるギリギリの距離を保っていたことを考えると、後から来たとは思えない。

 そもそも、あんな力を持っている奴が連れ去られるか?


 セカイが意識を失う原因になった出来事を思い出す。


 考えれば考えるほど、真実から遠くなっているような気がしてくる。



「でも、これのおかげで顔はバレなかった」


 ミュウが僕の顔を指しながら、安心したように微笑んだ。

 この血のおかげで僕の顔がわからなかったのか。……もしかして、これのせいで勘違いされてぶん殴られたのか?

 

 逆の立場だったとして、顔面血まみれの男がいたら迷わず敵認定をし全力で殴っているだろうから、こればっかりは気付かなかった自分を責めることしかできない。……生きていただけでも運が良かったとしておこう。


「早く帰って、顔洗うわ」


 あー、体中が痛くて起き上がるのすら苦労する。人の血が付いた状態でいるのも気持ち悪いし、さっさと帰ろう。


 陽の光が眩しい。

 一晩中寝ていたのか。……体も洗わないと。


「ちょっと、待って」


 家に帰るために数歩進むと、後ろから声をかけられた。

 いつもとは少し違う声で、真剣に話そうとしているのが伝わってくる。


 一体、なんなんだ。


 そう思い、顔だけをミュウの方に向ける。


「もしかして、あの子のこと諦めるの?」


 …………。


「そんなわけないだろ。あの子は僕と同じ学校に入学するんだろ?学校でハーレムを作りたいんだ。折角の美人なんだし諦めるわけがないだろ」

「そ、ならいい」


 あの野郎、見てろよ、最後に笑うのはこの僕だ。







 血まみれの顔で笑う姿は、まるで悪魔だった。

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