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ソウゾウ楽園  作者: 金曜の夜まで雨
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2.誘拐②

 


 力が抜けたように男がドサッと音を立てて倒れ込む。


 はぁ、やってしまった。声をかけられるまで気づかないなんて、もっと気を引き締めないと。


 室内を覗くことに夢中で、周りに気を配らなかったことを反省するも、このまま失敗を引きずっていたら駄目だと気持ちを切り替える。


 今回のことはセカイの甘さが引き起こした失敗ではあったが、その甘さのおかげで気づけたこともあった。


 多分だけど、この集団の戦闘能力は大して高くない。僕のことを見て口封じをしてきたってことは、腕に多少なりとも自信があったからだろう。

 ということは、集団の中でも実力的には上の方、悪くても真ん中、下っ端ってことはない……はずだ。


 この男くらいの力量ならば、建物内にいる仲間を始末して安全に救出することができる。


 そう判断し、先程のような足音を消すといった慎重な行動をすることなく歩き始める。

 建物の中は騒いでいるせいで、外の足音は聞こえずにセカイは難なく扉へと到達することができた。


 今までの警戒はなんだったんだろう。慎重に行動していた苦労を考えると、見つかってほしかったと思ってしまう。


 建物の扉は何十年も手入れされていないと思わせるほどボロボロで、手を扉の側面に滑らせると塗装が剥がれて茶色の錆びた部分が露わになる。


 それに加え建て付けも悪く、開けたら音で気づかれることは目に見えている。


 よし……先手必勝だ!!


 扉から数歩下がって、充分に助走ができる距離を確保する。


 そして勢いよく駆け出し、扉を力の限り蹴破った。

 バゴンッ!と気持ちのいい音が鳴り響き、外れた扉が部屋の中へ吹き飛ぶ。


 豪快に侵入したセカイの前には顎に髭をはやした中年やヒョロヒョロの男など、個性豊かな連中が5人、手に酒を持ち、机を囲んで座っていた。


「あ?……誰だ!?」


 侵入に驚いた男たちは椅子を倒して立ち上がる。困惑している男たちに、薄ら笑いを浮かべているセカイは、手のひらを男たちへ向ける。




 次の瞬間、まだ状況を呑み込めていない様子の間抜けな頭が1つ、セカイの足元に転がっていた。手のひらの向く先にいる首の無くなった中年の男は力が抜け崩れ落ちる。


「なんだお前は、もしかして……。おい、お前ら気を抜くなよ」


 残りは4人。そう頭で理解できた男たちは、この状況に対する恐怖心を押し殺し、武器を手に取った。

 その様子にセカイも表情を引き締め、戦闘態勢に入る。



 ***



 セカイの周りには5つの死体が転がっており、大量の返り血が体に付着していた。


 はぁ、なるべく殺さないようにって言われていたのに……。


 セカイは自分の力が相手を殺さないように加減できる便利なものではないことを悔やむ。


 ……そういえば、こんなことしてる場合じゃなかった!

 早く女の子を助けに行かないと。


 この部屋にはセカイの蹴破った扉の反対側にもう一つ扉がある。

 この扉の先に誘拐された少女がいる。そう確信のあったセカイはドアノブを握って力一杯に開け放つ。


 さぁ、僕が君の王子様になってあげるよ!


 何故か入った部屋は明るく、そこの様子がハッキリとわかった。

 僕の目線の先には、赤い髪を後ろで束ねて疲れた様子の綺麗な女の子と……と?


 その女の子の体を優しく抱きかかえている男がいた。






 …………?







 はぁ?……え?なんで?


 まずい、この状況に頭が追いつかない。


 あれ?助けに来たのは僕で、その子の王子様は僕のはずだろ?……なんでお前がそこにいるの?

 そこは頑張った僕のポジションであるべきだろ?


 お前は、その子を助けるために何かやったのか?やってないだろうが!


 2人の横には気絶した男が横たわっているが、混乱しているセカイには気づけるはずもなかった。


「ねぇ、あの人……」


 セカイの心の訴えは当たり前だが届かず、助けようとした女の子から向けられる目には警戒、恐怖、敵意などが読み取れる。


 おい、なんだよその目は。


 まるで、セカイが誘拐してきた奴らの仲間であるかのような反応。


 僕は君のことを誘拐した犯人の仲間じゃないぞ?

 逆に君のことを助けに来たヒーローだっていうのに。


 ただ、出てきた状況的に、どう見ても悪者は僕でヒーローはそこにいる男。


 しかも僕のことをよりイラつかせるのは、女の子の声に反応してこっちを向いた男は、男の僕が見てもイケメンだと思えるようなルックスをもっていることだった。茶髪のオールバックも顔の良さを前面に押し出しているように見えて余計に腹が立つ。


 顔ですら、僕に勝ち目はないのか。僕の顔は良くても60、いや65……70って言っても許されるかな?特徴があるとすれば毛先だけ銀色に染めた髪くらいだと思っている。

 特徴が自分で作ったものだけなんて、どんだけ惨めなんだ。よし、これからは顔の自己評価くらいもっと高くしておこう。


「どうして、ニーナがこんな目にあわないといけないんだ」


 自分の個性の無さを嘆いていると、茶髪の男が話しかけてくる。


 てか、その子ニーナって言うんだ。


 名前を知っている仲なんだと、一瞬、冷静さを取り戻す。


「……無視か。こんな酷いことをしたお前らのことを絶対に許さねぇっ!」


 ちょっと待って、無視したつもりはないんだ。

 イケメンがその女の子の名前を知っていることが驚きで、いろいろ考えてただけなんだよ。


 てか、やっぱり僕のこと床に転がっている奴らの仲間だって勘違いしてるよね?


 やばい、状況が整理できなくて頭の中がグチャグチャだ。


「ちょ、ちょっと待っ……」


 肝心の言い訳はセカイの口から出ることなく、茶髪の男が戦闘態勢に入ると、突如ピカッと体が発光して目にも止まらぬ速さで移動した。


 こっちに来るとわかっていても、体が追い付かない。

 目で追いかけることすら難しい速さ。セカイがどうにかできるはずがない。


 でもさ、イケメンに話しかけられた時、すぐ誤解を解こうと努力しなかったことは悪いと思ってるけど、いきなり攻撃ってのは予想できなくないか?


 セカイが反応できずに、腹に膝が突き刺さる。


「ガハッ!」


 その衝撃に体はくの字に曲がり吹き飛ばされ、壁に衝突、古くなっていた壁はセカイを受け止めることができずに突き破った。

 壁の支えがなくなった建物は形を保っていられず徐々に崩壊を始め、天井がセカイの上に落下した、


 あまりの痛さに声も出ず、歯を食いしばって耐える。


 崩れてきた板と板の隙間から、ニーナを抱えて歩き去っていく男の姿が見える。

 その様子はまさしく物語の中のヒーローだった。


 ……僕以外の人から見れば。

 勘違いで殴られるなんて笑えてくる。


 実際は笑える気力なんて残っておらず、その場でゆっくりと意識を手放した。

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