4、保健室
柳壮太郎が、左足を庇うようにして歩く。
肩を貸すからと申し出たのに、美結の身長では背が足りないからと断わられた。
壁伝いに歩く柳くんに、美結は申し訳なく思いながら声をかける。
「あの・・・柳くん、平気?」
「ああ、うん・・・」
彼はどうやら試合中に左足首を捻挫してしまったらしく、美結はとりあえずアイスパックで足首を冷やした。そして一緒に保健室に向かうことにしたのだが、肩を貸すこともできずしゅんとしてしまう。
「失礼しま────・・・ってあれ?」
肝心の保健室の先生は、他の競技で怪我をした生徒がいたらしく不在だった。
「先生が居ないとか、ここまで来た意味ねぇじゃん」
痛そうに顔をしかめて柳くんがそう呟く。
「柳くん、私上手くできるかわからないんだけどテーピングさせてもらってもいい?」
「え・・?」
「左足、ちょっと触るね・・・」
美結は丸椅子に座った壮太郎の前に跪くと、そっとその左足を自分の太ももの上に置いてテーピングを巻く。
「・・・ごめんな小宮山さん」
「ん?謝らないで、これは私の仕事なんだから」
顔を上げてふわりと笑顔を返すと、柳くんは口元を手で隠し気まずそうに目をそらした。
自分はスポーツ全般苦手で、参加すればクラスに迷惑がかかる。だからこんなカタチでしか、役に立てないのだ。
そういう意味を込めて美結はそう言ったのだが、なにか気にさわるようなことを言ってしまったのだろうか?
「やば・・・」
「柳くん?」
どうかした?と首をかしげる美結に、柳くんはなにやら言いづらそうに顔をしかめる。
「いや・・・・あのさ、」
「うん?」
顔を上げて彼の顔を見上げると、柳くんは口元を隠すようにしながらぎこちなく話し始めた。
「あの・・・・さ、小宮山さん、いつも一緒にいる5組の綾瀬と付き合っていないってマジ?」
「・・・・え?付き合っ・・・え?比呂くんと私・・・が?」
唐突な質問に頭がついていかない美結に、柳くんがさらに続ける。
「違うなら、俺のこと考えて貰えないかな・・・・その、前から小宮山さんかわいいなと思ってて────・・・ 」
「え───・・・・?」
それって・・・と美結の頭が答えを導きだそうとした時、
バンッ!と勢いよくドアが開いて、驚いた二人は言葉を切ってそちらを向く。そしてそこに立っていた人物に、美結は息を飲む。
「・・・・宇佐美」
───柳くんがそう溢したのを、耳に入れながら。