3、小さな嘘
スポーツ大会のその日、アタックを決めまくるまりの姿に美結は目を輝かせて応援していた。
まりの活躍のおかげであっさりと勝敗も決まり、第一試合が終わった。
「凄かったよ、まりちゃん!さすが!」
「ありがと美結。───興奮しすぎだけど」
美結のテンションに、まりが苦笑しながらも嬉しそうに応える。
と、その時隣のコートから甲高い歓声が起こった。
「ああ、次うちのクラスの男子バスケだ」
まりが反対側のコートを見ながらそう呟いた。
そうなんだ、と美結もつられて何気なく視線を向ける。
(あ・・・・)
何気なく向けた視線の先に、宇佐美くんの姿があった。
急に心臓がぎゅうっと掴まれるように苦しくなって、美結はうつ向く。
「うちの宇佐美王子目当てに女子のギャラリー半端ないねぇ。」
まりがその人気ぶりに呆れながら言う。
「暑苦しいから私は外に出てるけど、美結はどうする?」
「あ、うん・・・・」
まりに歯切れの悪い返事をして、美結は視線を伏せた。
「・・・私、救護係だからここに残ってるよ」
「そっか、じゃあまたあとでね」
「うん」
まりに軽く手を振ってから、バレーボールのコートのある北側からバスケットボールのコートがある南側へと美結は一人で向かった。
(まりちゃんごめん・・・・嘘、ついちゃった)
“救護係だから”なんて、正当化させて。
本当はただ、────宇佐美くんのプレーする姿が見たかった。
(私って本当に────諦めが悪いよね・・・)
バスケの試合が始まり、女子の歓声がより大きくなった。
応援に駆けつけている女子は同じクラスの子だけではないので、会場内は人口密度が高い。
美結はその人混みに紛れて、崇仁の視界に入らないところからその様子を見つめていた。
(───あ、またスリーポイント。)
宇佐美くんの華麗なフォームに、女子はキャーキャーと叫ぶ。
(・・・・・つらいなぁ)
笑顔で同じチームの男子とハイタッチする崇仁の姿に、どうしようもなく胸が締め付けられる。
この気持ちが消えてくれたら、どんなに楽なんだろうかと───そう思った時期もあった。
中学の時も去年も、違うクラスだったから・・・・このまま忘れられるかもしれないと思っていたのに。
「危ないっ」
そんな声が聞こえたその瞬間、コート内で倒れている選手がいることに美結は気が付いた。
「だれか!二年二組の救護係!」
コート内からそう呼ばれて、美結は人混みをかき分け駆け寄る。
「はい!私、救護係です!」
ようやくコート内に着くとそこに倒れ込んでいたのは、同じクラスの柳壮太郎だった。