4、比呂の心
美結を教室まで送り届けて廊下に出ると、比呂はつい声をあげた。
「あぁくそっ!なんで俺だけクラス違うんだよ!」
そんなことを嘆いても仕方ないのだが、比呂は美結の近くに居てやれないのが無性にイラつくのだ。
「綾瀬くん、よっぽど美結が大事なんだね」
呆れたようにまりが笑う。まりは比呂から借りていた教科書を返そうと比呂を追いかけて廊下に出たところだった。
「大事っていうか・・・美結には俺がいないとダメなんだ」
「え?」
「だってあんな世間知らずだぞ?あっさり騙されてその辺の男にポイ捨てされるのがオチだぞ?しかもメンタル激弱だし、心配だろ?」
小学校で知り合った美結はもともと小動物のような可愛さがあって、男子に人気だった。
自分はなんの興味もわかなかったが、周りのやつらがいつも話に出すのでたまに目で追っていたくらいだった。
それが、見るたびにどこか抜けている美結の天然さが目に余るようになり。
それがさらに放っておけなくなり────今に至る。
しかも、ある日を境に───美結は沈みがちになるようになった。あまり笑わなくなった。いや、笑顔は変わらず見かけるが・・・・どこか違和感があった。
「心配、ね・・・」
「なんだよ、水瀬も心配だろ?」
「そりゃあ、そうだけど」
「さっきだって、泣いてたし」
美結が泣いてると、嫌だ。
アイツのそばに居るのにそれだけの理由ではダメなんだろうか?
美結の泣き顔を思い出したら、怒りが湧いてきた。
険しい表情の比呂に、まりが遠慮がちに問う。
「・・・美結と宇佐美くんとのこと、綾瀬くんは知ってるの?」
「知ってる」
そう。
美結が幸せになる方法を、本当は知っている。
「だけど、あんなの不毛だ」
(自分が納得できないだけで────・・・)