3、比呂の説教
「こんのぉ、馬鹿!」
「ご、ごめんなさい・・・」
「だから言っただろ!知らない男からの手紙はまず、俺か水瀬に相談しろって」
美結にすごい剣幕で説教しているのは、隣のクラスの綾瀬比呂。比呂は美結と小学校時代からの腐れ縁で、言わば幼なじみだ。
目が大きくくりんとしていて愛嬌のある顔立ちは黙っていればなかなかの美少年。ただ、少し口が悪いだけで・・・。
「でも、“誰にも言わずに一人で来て欲しい”って・・・」
「おまっ、脳ミソプリンか!」
まだ言い足りなそうな比呂を「まぁまぁ比呂くん」と、ようやく屋上にたどり着いたまりがたしなめる。
そして美結に向き直ると優しく諭すように言った。
「何もなくて良かったよ。でも、美結はもっと警戒しなきゃダメだよ?」
比呂は困っている人を放っておけない正義感の強い性格が災いし、美結と知り合ってからはつい世話をやくのが日課になってしまった。
高校から二人と知り合ったまりはそんな二人の関係性が羨ましくもあり、美結を大切にしている比呂の気持ちを、自分も尊重したいと思うようになった。
そして、そんな比呂とまりが常に近くにいるのだから、美結が恋愛に疎くなっても仕方ないのだ。
「二人とも心配かけてごめんなさい・・・」
「で?伊藤に呼び出されたはずがなんで、宇佐美?」
比呂の言葉に、・・・その名前に────美結はぴくんと反応してしまう。
「えと・・・た、助けてくれて」
「助けた?アイツが?“泣かされた”の間違いだろ?」
疑うような眼差しで、比呂が美結をじっと見つめる。
「違っ!本当に、助けてくれたの。」
────嬉しかった。
彼は本意じゃなかったのかもしれないけど、結果的に助かったから・・・・。
だから────つい、馴れ馴れしく声をかけてしまった。
「あっそ。それならいいけど」
「綾瀬くん、顔、怖いから」
そう言いながらも不機嫌な比呂に、まりが苦笑いで指摘する。
(ああ・・・・本当に馬鹿、)
『その呼び方、やめろ』
(分かってたのにな。たっくん・・・・宇佐美くんは────。)
「美結、教室戻れる?午後の授業始まるけど」
まりの声で我に返ると、美結は涙を手で拭って笑顔を見せる。
「うん、大丈夫」
(大丈夫、分かってる。────私のことが嫌いだって)