3、一緒
崇仁の母、夕子は親友である美和とよくお茶をする。夕子と美和はお互いの母親がまた、昔から仲が良かったので小さい頃から一緒だった。結婚してからもずっと、二人の友情は変わらずにお互いの家を行き来していた。
夕子は美和とお茶をするとき、崇仁を毎回祖母の家に預けていた。その為、崇仁は一度も小宮山家に行ったことはなかったし、美結も同じように美和が宇佐美家に遊びに行く時は決まって祖母の家に預けられていた。
だから小学四年生のとき、美結から“たっくん”と友達になったと聞かされたとき、美和はとても喜んだ。
「ぜひ今度夕子とうちに招待しましょう」と次の週末には夕子と崇仁を家に招いた。
それからほぼ毎週末、どちらかの家で遊ぶようになり、崇仁と美結の距離はグッと縮まった。
崇仁は美結が新鮮だった。
クラスにいる女子とは違って自分に媚びてくることもないし、変に自分をアピールしてくることもなかった。
美結はいつだって自然体で穏やかで────崇仁は彼女と一緒にいるだけで癒された。
「たっくん、私ね────・・・」
子供部屋で二人一緒に遊んでいたとき、美結が少し小さな声で言った。
「特別ピンクが好きな色っていう訳じゃないの」
美結がそう言った理由は、きっとついさっきリビングでお昼にランチをした時のことに関連しているのだと崇仁はすぐに察した。
ランチのとき、美結の前に並べられたお皿もコップもフォークも、全てがピンクだった。
それを見た夕子が「美結ちゃん、本当にピンクが好きなのねぇ」と美和に言い、美和もまた「そうなの、美結はピンクが一番好きだからねぇ」と答えた。
美結はその場では否定も肯定もせず笑っていた。
「そうなの?」
「うん・・・あ!別に嫌いでもないんだよ?」
美結が、フォローするように慌ててそう付け加えた。
「じゃあどうして?」
「以前にね、海外のお土産にってパパがピンクのお洋服を買ってきてくれたの。それが私に似合う色かどうかでお母さんとパパで言い合いになって」
その時の事を思い出した美結は少しだけ表情を曇らせた。
「それで咄嗟に、“私はピンクが一番好きだよ”って・・・」
「言っちゃったんだ?」
崇仁の言葉に、美結はコクリと頷いた。
「だけど本当はね・・・何色だってとっても嬉しかったの。」
「───なんか、分かる」
崇仁は考えるより先に、そう口走っていた。
美結が少し驚いたように目を見開いたのが分かった。
「え、“分かる”・・・・?」
「うん。俺も────そういうトコあるから」
その言葉を口にするとき、崇仁の想像以上に勇気が要った。
“良い子で居続ける”────“良い子”が本当の自分なのだと周りに思わせてきたし、自分自身もそうなのだと思ってきた。だから本音を敢えて他人に告白するのは初めてで・・・・勇気が要ったし、不安だった。
美結にガッカリされたらどうしようと、内心ビクビクした。
「そっか。じゃあ一緒だね」
美結の言葉に、崇仁は情けない顔をあげた。美結は嬉しそうに微笑んでいた。
「たっくんと一緒!」
美結は明るくそう言って笑った。
美結にとっては何気無い一言だったのかもしれない。
だがその言葉一つが、崇仁はずっと張り詰めていた心を緩めたのだった。まるで初めて、呼吸ができたようだった。
「ねぇ、美結ちゃんが本当に一番好きな色、教えて」
(────“美結”を、知りたいと思った。)
「“本当に”?」
崇仁の問い掛けに、美結は考え込んだ。
「うーん・・・────何色だろ、全然分かんないなぁ。たっくんは?」
「俺?・・・青、かな?」
「ふふ。なんで疑問系なの?」
「俺も全然分かんない。だから一緒だ」
美結の前でなら、素直になれた。
それでも美結は、傍にいて笑ってくれるから。
俺と美結は、“一緒”だから。
だから────。




