6、すれ違う想い
“許嫁じゃない”───その事実を聞いた瞬間、美結は頭を殴られたような衝撃を受け・・・軽い目眩さえした。
(嫌われてるとは、思っていたけど───・・・・)
「・・・そっか」
美結は震える唇を隠そうと笑う。だけどやっぱりうまく笑えなくて、うつ向いたまま顔を上げることは出来なかった。
「そうだよね、私もそうしなきゃと思ってたの。だって宇佐美くんとなんて、あり得ないもんね」
自嘲気味にそう言って、美結は自分の言葉にまた虚しくなった。
たっくんに自分は相応しくないなんて、初めから分かっていたことなのに。
嫌われてしまってから、何度も諦めようとしてきたのに。
(それでもまだ・・・・気持ちがついていかない・・・)
保健室から出ていこうとドアに手をかけた崇仁の背中に、すがるような想いで美結は声をかけた。
「じゃあ私達、また友達になれるよね?」
振り返った崇仁が冷ややかな目で美結を見た。
「は?」
「・・・私、初めて宇佐美くんと話したときのこと覚えてるよ。傘無くて困ってる私に声掛けてくれたよね。・・・嬉しかったぁ。それがきっけでよく話すようになって、仲良くなったよね。だからまた、あの時みたいに────」
「小宮山さんてさ・・・・本当に何も分かってないよな」
呆れたような声で言うと、崇仁が刺さるような言い方で続けた。
「俺は────そんなこと、考えたことも無かった」
「え・・・・」
「許嫁の話を聞かされて、興味本意で小宮山さんに話し掛けただけだし」
「・・・・そ、っか」
(それなのに私は────・・・)
友達だと思っていた。
仲良くなれたと思っていた。
────それ以上の感情をこの人に抱いてしまった。
「バカだね私、」
友達にすら、なれてなかったなんて。
嫌われてしまったとか、そういう次元じゃなかったなんて。
乾いた笑いをする美結の意思に反して、涙腺が緩む。
勝手にボロボロと涙がこぼれだし慌ててそれを拭う美結を見て、崇仁は苦しそうに眉間に皺を寄せた。
「あのさ・・・いちいち泣くほどのことでもないだろ?」
「ご、ごめんね、すぐ止めるから」
これ以上迷惑をかけられない、と美結が慌ててそう言って涙を拭うと、あのなぁと呆れたように崇仁が笑った。
「止めれるもんじゃないだろ、涙って」
「・・・・ごめん」
崇仁が笑うのを目の当たりにした美結は胸がぎゅっと苦しくなった。
崇仁が、真っ赤になった美結の頬をそっと撫で顔を覗き込む。
「そんなに────・・・友達になりたい?俺と」
「うん・・・」
涙声で頷く美結に、崇仁が言った。
「そっか・・・」
その次の瞬間────美結の瞼にそっと、崇仁の唇が触れた。
「悪いけど、俺は友達にはなりたくない」




