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嘘だらけの恋  作者: 夢呂
【2】スポーツ大会
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5、その関わり


崇仁を視界に入れた瞬間、美結は顔の体温が上昇していくのが分かり、素早く俯く。


(うそっ、どうしてここに・・・っ?)



「何で来たんだよ、いま試合中だろ?」


美結の気持ちを代弁した柳壮太郎は、まるで邪魔者扱いするように崇仁を睨む。崇仁はそれを冷やかな視線で受け止め、言った。


「もう終ったよ、35―10でうちのクラスの勝ち」


(勝ったんだ・・・・!)


崇仁の言葉に耳だけ向けていた美結は、勝ったことを内心すごく喜んでいた。だけど彼に「おめでとう」の一言も、恥ずかしくて言うことができない。


「・・・突き指したんだけど、先生居ないんだ?」


左手を少し上げてみせると、崇仁が柳壮太郎にそう訊ねた。美結はその崇仁の言葉にハッと顔を上げた。


「わたしっ!わ、たし・・・救護係だからテーピングする、よ!」


美結の必死な態度に反応することなく、崇仁は踵を返す。


「待って宇佐美くん!ダメだよちゃんと処置しないと!」


引き留めようと、美結はそっと崇仁の背中の体操服をつかむ。ビクッと驚いたように崇仁は足を止めた。

と、その時ガヤガヤと廊下から声がして、保健室にクラスの男子達が入ってきた。 


「おぅい!────大丈夫かぁ壮太郎!」

「・・・大丈夫じゃなぃ・・・」

ちょうど来たクラスの男子たちの肩を借りて、壮太郎はひどく悲しそうな表情(かお)をしながら保健室を出ていった。




崇仁と二人、取り残されて静けさが戻る。

美結は緊張しながら崇仁を椅子に座らせ、テーピングをしようと手を伸ばした。


(ど、どうしよう上手く出来る気がしない・・・・っ)


今、目の前にいるのは────ずっと以前(まえ)に仲良くしていた男の子で。

だけど、美結が意識してしまったせいでうまく話せなくなって。

更に嫌われてしまってからは───こうして向き合って至近距離に座ることも、無かったから。


(心臓が・・・っ、酸素が・・・っ)

緊張し過ぎて、頭がうまく働かない────と、その時。


「手、震えてんだけど?」

「あ、ごめ・・・」

崇仁の苛立っているような言い方に美結はつい謝ろうとしたが、それを遮るように崇仁がボソリと言った。


「さっきは震えてなかったくせに、」


“さっき”・・・?

って、それ柳くんを手当してたとき?

一体、─────いつから見ていたの?


頭の中でそんな問いを繰り返すが、美結はそれを聞く勇気はなく、ただ手元に視線を戻す。


「あのさ、無理して俺と関わろうとしなくていいから」


その言葉に、美結はまた弾かれるように顔を上げた。


「無理なんて・・・・!私はべつに」

「何も聞かされてないんだな」

息巻く美優の言葉をかき消すように、低い声が保健室に響いた。


「許嫁の話なら・・・とっくに解消してるから」

「───へ・・・?」


(カイ・・・ショウ?)


言葉の意味が分からなくなって、美結は唖然としたまま動けずにいた。そんな美結の手をそっと除けると、椅子から立ち上がりながら崇仁が言った。美結はそれを目で追う。


(どうして・・・・?)


「俺と小宮山さんは、とっくに赤の他人だってこと」


(どうしてそれを───そんな笑顔で・・・言えるの?)


畳み掛けるような言葉だけでも胸が張り裂けそうに痛いのに、それを他人行儀な笑みを浮かべて言う彼の気持ちが美結には理解できなかった。


呆然と立ち尽くす美結の前から、立ち去ろうとする崇仁。

引き留める術が分からない美結はショックで頭の中が真っ白になっていたのにも関わらず、崇仁に声をかけた。


「それは・・・たっ、────宇佐美くんが決めたの?」


咄嗟に口をついて出たのは聞きたくもない質問だった。なんてまぬけな質問をしてしまったのと悔やんでいた美結に、振り返った崇仁が言った。


「そうだよ。俺がばあちゃんにそう告げた」



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