タイムマシン (箱物語16)
近未来。
とある研究所で、人類にとっては長年の夢――タイムマシンの研究と開発が進められていた。
そこにはすでに一台、完成直前のタイムマシンがあった。四角形の箱のような乗り物で、前と横には小さな丸窓が、後部には出入りするハッチがそれぞれついていた。
二人の男が、乗り物を出たり入ったりと忙しそうに動きまわっている。
一人はタイムマシンを開発した博士、もう一人は博士の助手であった。
しばらくして……。
二人は満足げに乗り物のそばに立った。
ついに時空を自由に移動する、夢のタイムマシンを完成させたのである。
「長年の苦労がやっと実ったな。あとは試運転を残すのみだ」
博士は感慨深げである。
「タイムマシンの研究が始められて、すでに三百年以上です。それを博士は、わずか十年足らずで完成。さすがというほかありません」
「これまでは、未来や過去に無制限に行こうとするから失敗していたのだ。その点、ワシのは三日間だけだからな」
「たとえ一時間でも、時間の壁を越えればタイムマシンですからね」
「そういうことだ。それはそれで、大いに使い道があるというものだ」
「まったくそのとおりでして」
「これでワシらは億万長者だ」
「明日からは、アタリ馬券だけを選んで買えるというわけですね」
助手が博士の手にある競馬新聞に目を向ける。
「それもあらゆるレースでな」
博士の目的は大金を手に入れること。そのためにタイムマシンの研究をしてきたのだ。
「ただそれも、コイツがうまく動いてくれてからのことだ」
博士はさっそくタイムマシンに乗りこんだ。
つづいて助手が乗る。
タイムマシンの中は狭く、二人分の座席とわずかな計器類があるのみで、それはハンドルのない自動車のようだった。
博士がスイッチを入れ、ハッチが閉まる。
これで準備完了。
いよいよ未来に向かって出発だ。
「行き先は二十四時間後だ。明日の競馬新聞を見るためにな」
博士はメモリを二十四時間後にセットした。
発進ボタンを押す。
丸窓から見えるものが、グニャグニャとうずまくようにゆがみ始めた。ねじれた時間の流れが空間をゆがめているのだ。
タイムマシンが前後に大きくゆれて、ゴトンとうしろにひとつ転がった。
タイムマシンが静止した。
丸窓から研究室の中が見える。
すべてが静止していた。時間の流れと空間が正常にもどったのだ。
博士が腕時計を見て叫んだ。
「やったぞ! ちょうど一日進んでおる」
「では、ここは二十四時間後ということに」
「ああ。ついにワシらは、タイムマシンの開発に成功したのだ」
タイムマシンは未来に向かって移動した。
時空を飛び越えて二十四時間後の未来に到着した。
が、二人は外に出られなかった。
ハッチの向こうは、なんと床。
タイムマシンがうしろに転がったため、ハッチが下向きになったのである。
明日には着いたが、ハッチが開かなければ外には出られない。外に出られなければ、レースの結果は見られない。
「ふむ。こいつはこまったな」
博士はいかにしたものかと思案した。
タイムマシンの中からでは、タイムマシンを転がす方法はひとつ。転がる前にもどることしかない。
「残念だが、いったんここは昨日にもどろう。ハッチの位置も元にもどるからな」
博士はメモリを二十四時間前にセットして、発進ボタンを押した。
窓から見えるものが、ふたたびグニャグニャとうずまくようにゆがみ始める。
タイムマシンが前後に大きくゆれて、今度はゴトンと前にひとつ転がった。
タイムマシンが静止する。
ハッチは床を離れ、元の位置にもどっていた。転がる前、二十四時間前にもどったのだ。
ただ二人は、明日に行ったことなどまるで覚えていない。時空が、タイムマシンの完成直前にもどっていたのである。
ふたたび博士と助手は、タイムマシンを出たり入ったりと、忙しそうに動きまわり始めた。
しばらくして……。
二人は満足げに乗り物のそばに立った。
ついに時空を自由に移動する、夢のタイムマシンを完成させたのである。
この完成、もう何回目になるかしれない。
だが、いまだにアタリ馬券は手にできずにいた。