(5)
それよりも今はもっと切実な事態が待ち構えていたのだ。
私たちが下りたところから、ロータリー、駅の階段にも隙間もなく人がびっしり並んでいた。
そして、その向こうのどのホームにも線路に落ちてしまいそうなほど人がひしめきあっている。
「やあねえ、どうしたのかしら」
私と似たような制服を着た少女が二三人、少し離れたところにいて話していた。
よく見ると、周りじゅう、すべての人がみな学生服を着ている。
遠くに見えるホームにひしめき合っている人たちも、紺や黒やグレーの、制服カラーばかりだ。
一体、どうしたんだろう。今日は学校以外何もかもお休みなのかな。
うららかな春の日差しは天頂に近く、もう真昼に近かった。
さっきバスを降りてからずっと待っているのに、信じられないほどの人の列は、一向に進まない。
電車が止まっているのかとも思ったが、さっきから時々は電車がホームに滑り込んでくるのが見える。
ウラジーミルを横目で見ると、彼は物珍しそうに辺りを見回している。
「すごいなあ。あんな制服もあるなんて、さすが日本」
ウラジーミルの見つめる先を見て、私は目を丸くした。
そこには、大学の卒業式みたいな矢絣の着物に袴をはいた女学生たちが笑いさざめいていた。
髪は真ん中あたりを高く結いあげた、何となく古めかしいデザイン。
とどめの大きいリボンは、大正ロマンそのもの。
そして、その姿を少し離れたところから興味ありげにちらちら眺めているのは、絣の着物の中に白いシャツを着て、同じように袴をはいた丸刈りの学生たち。
ひょっとして何かのイベントが始まるのだろうか。
さらに少し先には、セーラー服にもんぺ姿の女学生までいる。
なんていうか、時代錯誤?時代遅れ?
それとも・・・町を上げての、コスプレ?
線路わきの、資材の散らかしてある空き地に、菜の花が群れて咲いている。
小さな黄色い花の一つ一つがまるで私たちのようだ。
少しの風に揺れてそよいで、進むようで進まず、眠気を誘う春の風の中になすすべもなくただ立ちすくんでいる。