(4)
バスが止まった。みんな、どっと降りていく。
「やべえよ、もう遅刻だなあ」
誰かが言うと、とたんにみんな急ぎ足になった。
「急がなきゃ。遅刻だってさ」
ウラジーミルが私の手をなれなれしげに引っ張った。
まあ、さっき自己紹介したばっかりなのに、と私はちょっぴり戸惑ったが、正直いやな気持ではない。
バスのステップを降りて、私は目を丸くした。
この駅は三つの省線が乗り入れている、かなり大きな駅だった。
改札口に直結したショッピングモールは、ぶらぶら一日でも過ごせそうなほど広く、駅周辺には小さなビルや個人商店がひしめき合っていた。
だが・・・今、目の前にある駅は、違う。
あの、大きな駅ビルがない。
数年前に大規模な再開発で立ち並んだはずの大きなショッピングモールが、そっくりそのまま消えている。
念のため、駅名を目を凝らしてみると、桜町。うちの最寄りのあの駅の名に間違いない。
まるで、数年前にタイムスリップしたみたいだ。
目の前にある駅は、ホームこそ上りと下り、合わせて六つもあるが、駅舎は懐かしい木造の屋根で囲われていて、バス停からもむき出しの線路と、日当りのいい土手が続いているのが見えた。
私は頭がくらくらして、何度かまばたきをするうちに、なぜか目の前の駅の変化は大したことでないような気がしてきた。
あの駅がうちの最寄りの桜町の駅なのに間違いはない。
確かに目の前の駅には見覚えがあるし、私が寝ぼけてとんでもない思い間違いをしていたとしか思えない。
そうだ。きっとそうなんだ。
私は、前から田舎臭い地元の駅が気になっていた。
これだけ電車の本数も多いんだから、駅の周辺をもっと立派にすればいいのに、と思っていた。
だから、春の陽気で少し頭のねじが緩んで、こうなったらいいなあと思い描いていた駅が本当にあると信じ込んでいたのだろう。
目の前の駅舎も、周りのくたびれた商店街も、いつもの見慣れた風景じゃないか。
と、頭を巡らせたところで、私は現実に引き戻された。