(2)
人通りも少なかったし、広い国道の車の流れも気味が悪いほどガラガラに空いていたのに、なぜバス停がこんなに混んでいるんだろう。
道は一本道のはずなのに、なぜかどこからか湧いてくるように、次々と人が集まってくる。
このたくさんの人たちはいったいどこから集まってきたんだろう。
バス停は長蛇の列だった。私たちが並ぶと、すぐに後ろにも長い列ができた。
止まったバスは運転手以外無人だった。
ここ、始発だったっけ。私は首をかしげた。
駅でもないこんな国道の中途半端な場所が始発?
だけど、これだけの人々が乗り込むことを思えばラッキーだった。
私と少年は一番後ろの座席に何とか座ることができた。
バスの中はすぐ学生でいっぱいになった。まるで、スクールバスだ。
遅刻じゃないかと内心焦っていたが、広い範囲で交通機関がマヒしているのかもしれない。
学生たちは皆、すし詰めのバスの中で不平を言うでもなく、何だか遠足のようにはしゃいでいた。
発車したバスの少し曇った窓から外を見ると、バス停では乗り遅れたたくさんの学生たちが恨めしそうに私たちの乗ったバスを見つめていた。
列の最後尾を見ると、まだまだどんどん学生たちがやってくるのが見える。
振り返って道路を見ても、後続の車は見当たらず、対向車線も空っぽだった。
そういえば、さっき歩いていた時の、なんと空気が澄んでいたこと。
静かで、車のエンジン音ひとつ聞こえてこなかった。
道を歩いている人影も全然なくて、私一人で歩いていたっけ。
今、となりにいるこの少年が声をかけてくるまでは。
「名前、聞いてもいいですか?」
私が見つめているのに気付いた少年は少し嬉しそうに笑って控えめにそう尋ねてきた。
「杏子。杏に子供の子、って、漢字わかる・・よね?」
「はい、わかります。いや、わからなかったはずなんだけど、なぜか今はわかります。言葉も、全然わからないはずなのに、すごくよくわかる。ぼくは、ウラジーミル」
「へええ」
私はきょとんとしてウラジーミルと名乗った少年を見上げた。
本当に生粋の外国人なんだ。ロシア系?なんか、それっぽい名前。
外国人慣れしていない私は、映画から抜け出してきたような彼の風貌にすでにときめいていた。
しかも、性格もよさそう。言葉の壁もないし・・・。
そんなことを内心にまにまと考えていると、私の前で吊革にぶら下がっている五分刈りの少年が弾んだ声で言った。
「ああ、久しぶりだなあ、こんなにのんびり学校へ行くなんて」