(1)
遅い朝のやわらかい光の中を私は歩いていた。
中学校の制服がひどく懐かしい。これを着るのは・・・たしか、半年振りぐらいだ。
紺の丸首のボレロの左胸のポケットに、校章と組章のピンバッジが留めてある。
組章はⅣ―Bとなっている。
私は長い間学校を休んでいた。理由は・・・何だか忘れた。
でも、今日は始業式で、私はブランクを乗り越えて、無事進級できたらしい。
頭の中に、懐かしい仲良しの友達の顔が次々と浮かぶ。
あらあ、久しぶり。また一緒になれたね。
そんな声が聞こえてきそうで、私はいつの間にか顔がほころんでいた。
車の通りが少ない住宅街の細い路地には、ところどころからプランターに咲きこぼれるパンジーやビオラ、色とりどりのチューリップやヒヤシンスも揺れている。
前方にある少し広い通りには、街路樹の桜も満開だ。
とても理想的な、始業式の朝らしい光景だ。
それにしても、こんなに光が柔らかなのは、もしかしてもうかなり遅い時刻なのではないか。
確か、始業式は9時半からのはず。でももう10時はとうに過ぎているような感じだ。
ひょっとして・・・遅刻?ブランクを超えての久々の登校なのに?
私は急にみぞおちの辺りにかすかな鈍痛を感じて顔をしかめた。
「あのう、すみません」
左の肩越しに声がした。振り返ると、背の高い金髪の少年が立っていた。
そばかすだらけの白い肌に青い瞳、どうみても外国人だ。だけど、普通に日本語をしゃべっている。
「桜町へはどう行けばいいんでしょう。ぼく、ここに来たばかりなので、よくわからないんです」
桜町はここからバスで20分の駅。私の通う中学校はそこから電車で二駅のところにある。
「私も行くところだから。あれ、その制服・・・」
よく見ると見覚えのある紺のブレザーにモスグリーンのネクタイ。私の学校の制服だった。
「何年生?」
「今度、三年です」
少年は少しはにかんで笑って答えた。
一年後輩だった。私たちは並んでバス停まで急いだ。