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箱庭の言の葉  作者: 粘土
4/7

恋って切ないですね。

そうして始まった新学期。私は初心に帰る積りで挑んだ。実際、巧く行った。彼に会う事もあまり無かった。彼からのアプローチも無かった。なので、何とかなったと思っていた矢先、講義の最中、学生達に質問をしなければならない状況になった。きっと大丈夫だろうと高を括っていた私だったが、真っ先に手を挙げたのは例の彼だった。何故、と云う問いに対し、充分な答えを返され、しどろもどろになってしまった。自分でも、赤面するのが自覚出来た。恥ずかしく、又、嬉しく、何かが通じ合った様な気がした。明らかに、私自身が、特別に彼を意識しているのが分かった。

 此の侭ではマズいと思った私は、彼に適切な評価を与え、其の場を乗り切った。

 二十八、いや、そろそろ九に成る。恋にうつつを抜かすには、余りに歳を取り過ぎた。学問にのめり込む内に、そんなにも歳を取ってしまった。世間的に観ればまだ若いと云うが、わたしにはそうは思えなかった。詰まり、もう、そんな事に身を委ねるのは“子供”だと思う様になってしまったのだ。其れで好いのだと云う気持ちが、私の身体と心を支配していた。なのに、彼は今、観える処に居て、手の届く処に居る。完全に矛盾した心は、精神を揺るがし、体を火照らせる。真っ赤に成ってしまった顔が、正に其れを物語っている。一体、私は成長していないのだろうか。生徒の時代にも、学生の時代にも、こんな事は無かった。人は成長と云う変化を必要とする。然し、わたしはどうなのだろう。嘗て彼に出会ってから、全く前に進んでいないような気がする。実際そうなのだ。……。

 ハッとなって現実に戻ると、はやり、火照る頬の厚さを感じた。次の講義の為の資料を、作っていたというのに。仕事さえ、元の様にはこなせない。いけない。これではいけない。そう、思うのと反して、資料を造れば造る程、彼がどう反応するのか、そんな事ばかりが頭に浮かぶ。喜んで呉れるのかどうか。そう望むと、彼の笑顔を思い出す。彼の為の講義では無いのに。いけないと思っても、彼の成長と、彼の心が、わたしの胸を熱くする。鼓動を速くする。抑えたいのに、抑えられない。ひょっとしたら、此処で彼に再び出会った事を限り無く安堵し、喜んでいるのかも知れない。公私混同では無いが、忘れられない思い出の中に彼が居るのだ。歳が満たされれば好いと、社会での決まりは語っている。一体誰がそんな事を決めたのだろう。そんな決まりさえ無ければ、きっとこんな苦悩に悩まされる事も無かっただろう。けれども、其れを嬉しく思う自分が居る。ダメだと言っても、イヤイヤとむずかる自分が居る。何故だろうとも思えない。止められない衝動が、今、わたしの中で躍り、成否の天秤すら壊してしまいそうだ。

「これはダメだ」

 私は同僚の中でも、特に仲の良い、教授に相談する事にした。


箱庭の意味は、何時か明らかにします。

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