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 【More daze 番外編】 青春と複雑な事情。

作者: 鈴ノ木

 

それはちょっと暑い日のことだった。私が教室掃除で、黒板消しを機械で綺麗にしている時、クラスメートの里村さんに話しかけられた。


 「そういえばずっと思ってたんだけど、鬼人さんってさ」

 「うん?」

 「白川くんといつも登校してるけど、家近くなの?」

 「えっ!?あ、えーっと近くっていうか、なんていうかね…。私、訳があって波也の家に住まわせてもらってるんだよ」

 「へえ…、なるほどなあ。じゃあ、こういうことか」

 「うん?」

 「それってつまり、白川くんと鬼人さんってそういう―――」

 「!!」


 にやり、と笑う里村さん。これはからかっていると理解した私は、「やめてよ、そんなんじゃない」って必死になった。それに対し里村さんは顔を赤くしている私を笑いながらまたからかうだけだった。



  感じたのは「恥ずかしい」という感情だった。


 

こんな感情初めてだ。今まで経験してきたものでこういう「恥じらい」というものは感じたことがなかった。そもそも、私は本来の『鬼人歩』ではない。いずれ消えてしまう存在なのだ。そんな存在が、人間の男の子にそんな感情を抱いてしまうとかありえないことなのかもしれない。そもそも本当の『鬼人歩』は彼に一度も会ってないまま、あの世界に行ってしまっている。だから、彼に会ったあの日から彼は私を「鬼人歩」としてみているのだ。


 なんていうか、複雑だ。


 (いいのかな、このまま私が『鬼人歩』として人間として生きても)


 私がこの身体を手に入れた理由は、「あの子」の為に住みやすい環境を整えるため。私の記憶をあの子に移動させ、私があの子と入れ替わればいいだけなのだ。この真実は今、誰も知らない。私の中でとどめている。私は本来、彼とは出会っていけない運命なのに。なんでだろう、この感情の先の先を知りたい自分がいる。そもそもあいつはゲームばかりで勉強もあまり出来ないし、朝も一人で起きられない。人間としては残念なものだ。そんな彼を私が気にかけるだなんてどうかしてるとしか思えない。自分でも驚いてしまう。


 「うーっ…」

 「そんなところでうずくまってどうしたんすか、先輩」

 「! あっ、燐くんじゃない…」

 「うっす、何かあったんですか?」

 「い、いやぁ実はちょっと…」

 「ちょっと、とは…」

 「クラスメートの友達にさ、私と波也が一緒に暮らしてることをからかわれちゃって…。ほら、赤の他人同士だし」

 「あーー、なるほど。まぁ、そうなりますよね」

 「あはは…」


 私は「ちょっと恥ずかしくって拗ねてた」と燐くんに言い訳をした。それを聞いた燐くんは「先輩って可愛いところがあるんですね」といたずらっぽく笑った。


 「むうぅ~~っ、そういう燐くんは好きな人とかいないの?ほら、あいつから生徒会長の座を渡されたりしてから案外モテたりしてるんじゃないの?」

 「あ、いや…。確かにモテたりはしていますけれども、俺にはそういう相手は居ません。――というか、俺には忘れられない人がいるので」

 「もしかして失恋?」

 「いえ、告白できなかったんっす」

 「あ、そうだったんだ?なんかごめんね、きいちゃって」

 「構いませんよ、それより先輩こそどう思ってるんですか?白川先輩のこと」

 「えっ、えええぇ!?」


(まさか、燐くんも質問してくるとは思わなかったな)


 「――ど、どうなんだろうね?」

 「はあ…、その様子じゃまだまだ進展は先っぽいですね」

 「進展って何よ進展って…、そもそも私と波也は…」

 「いいですか先輩」

 「は、はい…?」


 ずいっと燐くんが私に顔を近づけてくる。まるで今から警告をするかのように。


 「俺はずっと見てきましたから、わかるんです。きっと白川先輩は貴女に好意持ってますよ」

 「え、そ、そんな事言われてもな…、証拠はあるの?」

 「俺が証明したって仕方ないじゃないっすか、ご本人に聞いてください」

 「でも…」


 もし、そうだったとしても私は本当の『鬼人歩』じゃないんだけれど。


 「そんな事ぐらいで怯えてるくらいなら俺みたいになりますよ、今から聞きたいことや伝えたいことは後悔しないうちにやらないと、ずっと抱えたまんま関係は終わっちゃいますよ。案外、簡単そうに見えて難しいんですよ?人間の関係は」

 「……考えてみる」


 確かに、人間は『言葉』があって、それを喉を伝って、口から発することで伝えたいことを伝える。それが出来なければ相手には伝わらないまんま。人間はとても手間の掛かる生き物だ。思っていたって伝わらない、それを私はあの日から知った。


 でもまだ、わからないことがある。


 


 私は波也とどうしたいのか、どう生きたいのか。まだ、答えはないままだ。


 「…それを見つけるのが、もう一つの課題」


 本来ならば私は、この世界に居てはいけない存在で、波也たちとは出会ってはいけない運命だったはずなのに。一体、いつから歯車が狂ってしまったんだろうか、運命の歯車は今も不規則に回り続けている。そして目的は、『本当の鬼人歩』が安心して暮らせるような環境を用意すること。それはもう果たしてしまっているので、後はいつ『あちらの世界』に戻るかだ。タイミングが悪ければ、皆私の様子がおかしくなってしまったと思い込んで心配をかけてしまうだろうから。


 まだ、あの家であいつを叩き起こす日々が続くなら、せめて一人で起きれるようにしないと。


 「…何が『課題』なんだよ、歩」

 「わああぁ!び、びっくりした…、もう馬鹿!いきなり話しかけないでよねっ」

 「そっちがなんかボーっとしてるから、現実逃避でもしてるんじゃねえかと思って。せっかく妄想の世界から現実に引き戻してやったのに」

 「妄想じゃない、考え事よ!」

 「同じだろ」


 牛乳パックのストローを加えながら喋る波也。いつの間に現れたのか、自動販売機でそれを買ったあとなんだろうけど。


 「…何しにきたのよ」

 「べっつにー?たまたま見かけただけだっつの」

 「見かけただけで話しかけたの?変なの、そんなのほっとけばいいのに」

 「悪いかよ、お前に話しかけて」

 「…別に悪いとは言ってないじゃない、勘違いしないでよね」

 「ツンデレ乙」

 「五月蝿い――…、っ…!」


 その時、波也の耳がほんのり赤くなっていることに気がついた。――なんで?って、そんなの私にもわかるわけないでしょ、人間に成りすました『タダの正体不明の存在』になんて絶対理解できるわけがないじゃん。


 『きっと白川先輩は貴女に好意を持っていますよ』


 ふと、先ほど燐くんが言っていた言葉を思い出す。もし、それが本当なのだとしたら、私は彼の私に対する好意に応えてあげるべきなのだろうか。人間は確か、それを『愛』と呼ぶ。『愛』はとても曖昧なもので、意味も様々で正解もない。どんな形であれ本人がそう認識すれば、それは『愛』だと主張をする。

 彼はどうなのだろう。どんな風に人を愛すのだろうか。また、『愛』を全く知らない私は人を愛していいのだろうか。それにも答えはない。


 「……波也」

 「ん?」

 「波也は…その、居るの?」

 「何が居るって?」

 「………………好きな人、とか」


 その質問を聞いた波也が目を見開いた。


 「な、何言ってんのお前。腐ったあんまんでも食べた?」

 「いくら好物があんまんだからってさすがに腐ったものは食べないわよ。別にちょっと気になっただけよ、その何ていったっけ、今の私たちって『シシュンキ』ってやつなんでしょ?」

 「普通、その質問を男に聞くかね…。あのなあ、そういうのは他の女子とやるものだぞ」

 「さっきやったから聞いてるの。それに里村さんに掃除の時に、ちょっと聞かれたし。私たちのこと」

 「……ああ、だからか」


 ため息を付きながら納得をする波也。


 「今後一切、そういうことは俺とじゃなく他の女子とやれよ?」

 「どうして?」

 「俺じゃなかったらお前、目付けられてたんだからな?」

 「意味わかんない」

 「はあ…」


 『こいつの先が思いやられる…』と波也は思ったのだった。


 

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