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最期の栞  作者: 武倉悠樹
9/26

:9 日々をこなして

 見学と鬼ごっこに終始した初日から一週間。詩織はすっかり図書館でのバイトに慣れていた。短期のバイトの為、複雑な業務に着くことはなく、仕事を覚えるのは苦ではなかった。

 図書館での仕事と言えばなんとなく本を調べたり案内するリファレンスの仕事をイメージしていた詩織だが、子どもたちの相手をする傍らで見た限り、それらはとてもじゃないが自分に務まるようなものではない事を知った。

 ありとあらゆるジャンルの知識を満遍なく持ち、時に利用者ですらぼんやりとしかつかんでいない要求を、ヒアリングをしながら具体化し、尚且つそれに応えうる本を探し出す。

 本が大好き。たくさん本を読んできた。と言う自負を持っていた詩織だったが、それが井の中ならぬ、自宅の本棚の中の蛙であったった事を思い知らされた。しかし、だからと言って気落ちしたわけではない。まだまだ知らないことが、読んでない本が、出会ったことのない作家が、たくさんあるのだ、と言う事実はむしろ詩織を高揚させた。

 更衣室での本の貸し借りも楽しみの一つだった。初日に借りた本を早々に読み終えると、その次、その次と借りた。

 一つ気がかりだったのは、やはり前島悟の存在だった。

 同じ学生バイトと聞いていたので、てっきり同じ職場かと思いきやそうではなかった。主に、書架の整理を任されているらしく、二階に上がった時に見かけることが多かった。出退勤のタイミングは重なることが多く、更衣室で他愛もない話を交わしたことは何度もあったが、相変わらずの低いトーンで、こちらの話に適度に「あぁ」とか「そうだな」とか「別に」程度の受け答えが返ってくるのが常だった。

 悟については、二つ印象的なことがあった。

 一つはリファレンス担当の人が悟に何事かを聞いていたことだ。

 悟とよく話をしているのは、宮野というおじさん司書で、大柄で、白髪の混ざったボサボサ頭。おっとりとしていて、詩織は密かにお父さんに似ていると感じていた。

 休憩時間に何度か話しをしたことがあったが、自分から何かを話すことは多くなく、しかし、こちらがどんな話題を投げかけても、深い造詣で面白い話を教えてくれる。司書という人への尊敬を強める事になった人物の一人でもあった。

 そんな宮野が利用者から本の案内を受け、悟に相談しているであろう場面を二度ほど見かけた。

 なんでも知っている宮野さんに相談を受けるなんて、前島悟と言う人間は何者なのか。そんな詩織の疑問は膨らむ。

 悟への興味を惹かれた出来事はもう一つあった。悟の持って来た貸し借りの本が人気だと言うことだ。専門書が多く、詩織は手を出せずにいたのだが、他の人はよく手を伸ばしていた。

 時たま発生する児童とのかくれんぼをこなしつつ、絵本を読み聞かせ、主に保健体育関係の質問をぶつけてくるませた小学生をあしらいつつ、暦は八月に入ろうかと言うある日。

 詩織は悟の新たな一面を知ることになる。

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