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最期の栞  作者: 武倉悠樹
20/26

:20 届けられた答え

 霧島を見送った後、人気のないロッカールームで詩織はただただ、天井を見つめていた。霧島からは家に帰って休めと言われたが、こんな日中に変えれば、母親にどうしたのと聞かれるのは目に見えていた。それは面倒だったし、そもそもどうしたのか、自分自身で答えられる術を持たない気がした。

 体力的に疲れているわけでもなく、気分転換をしろと言う指示だったと受け止めてはいるが、その方法がわからない。

 ふと、目に入ったのは悟のロッカー。何の気なしに近づき、扉に手をかけると使用者が居なくなったロッカーは鍵が掛けられているという事もなくすんなりと開いた。

 そこにあるのはがらんどうの鋼鉄の箱。

 その空白を目の当たりにし、今更ながら前島悟がこの図書館から姿を消したと言う事への実感を再度新たにする。

 詩織の心中を支配していたのは、怒りだけでも悲しみだけでも自責の念だけでもない。そのどれもが存在し、混然となっていた。

 しばしの間、空のロッカーを前に立ち尽くし、物思いにふけっていた詩織だったが、やがて我に返った。このままここに居たら、誰かに出くわしてしまうかもしれない。そう思い至ると、家に帰る気にはなれなかったが、とにかくこの場を離れようという気持ちが生まれた。

 退勤確認リリースドアイディを行おうと、自身のロッカーの前で腕の端末をかざしたところで、その端末の放つ小さな光に気づく。

 メッセージの着信を告げるその光。

 詩織は端末を軽くタップした。

 主人の命令に従い、端末はメッセージの内容をホログラムで写しだした。

 そこにはシンプルな英単語が幾つか並んでいる。

「To Aoyama

This is my answer

From S.M」

「なに、これ?」

 わからない単語がその文に含まれていたわけではなかったが、あまりにシンプルな文章はかえって詩織の理解を阻んだ。

 差出人の欄を確かめるが、本来ならば知人の名前が表示されるはずのそのスペースには「Unknown」としか表示されない。登録のないアドレスならそれはそれでアドレスがそのまま表示されるはずだった。そんな表示は今まで目にしたことがない。

「フロム エス、エム?…………悟? 悟前島っ! 前島くんからっ!?」

 そこまで思い至り、詩織は初めてそのメッセージに添付のファイルがある事に気づく。

 ポップアップのように浮かび上がったクリップのマークに触れると、そのファイルのインデックスが表示される。ファイルサイズはMMと表示されている。これはミニマックスの略で、0と区分して問題ない範囲の極わずかな容量を指す。

 どうやらただのHTMLのコードのようだった。

「アドレス? ネットの? どういう事? でもこのアドレスって見覚えが」

 そう呟きながらそのアドレスに接続する。

 メッセージを表示させていた端末は一旦その光を放つのを止め、また新たな光を詩織の眼前に浮かび上がらせた

「……っっ!!?」

 そこに表示されたのは、見慣れたキャッチコピー。

「物語から生まれた物語をあなたに」

 表示の中央に飛び出したキャッチコピーはやがて自然なアニメーションでフェードアウトをし、代わりに広がるのは『RR』のポータルサイト。

 普段から見慣れたそのサイトの表示。唯一違ったのは、表示中央より少し上部に設けられた検索ボックス。作品名、作者、そして「読み手」などを入力し『RR』プログラムを検索するためのフォームに既に単語が入力されていたことだった。

「はちみつ色のユン S・M」

 詩織が渡した『RR』プログラムの元作品の名前と悟前島のイニシャル。

「ディスイズマイアンサーってこれのこと?」

――僕は、物語が嫌いなんだ

 出会った初日。悟がこぼしたその言葉が詩織の脳裏に浮かんだ。

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