勇者様一行ご到着!
トーマさんと町に買い出しに行ってから一ヶ月。勇者様一行がどうやら、この辺境の地トーガ村を経由して隣国に向かうらしいという噂が聞こえてきた。魔物退治をしながら魔王の情報を求めているそうだけど、国内では魔王の気配は感じられないらしい。
勇者様に祈りが届いたのか…いや、私が祈らなくても、勇者様は変わらず頑張っているんだろうけど。
噂話は隣町から伝えられた。勇者様の旅のスピードからいくと、もうそろそろトーガ村に到着するのではないかと。そろそろ到着かと思われる時期に近づくに連れて、勇者様見たさに隣町からかなりの人が、トーガ村にやって来ていた。宿はもちろん満員御礼。村人も空き部屋を貸し出したりしているくらいだ。
今のところトーガ村の周辺には、幸い魔物は出現していない。だから、勇者様一行も隣国に入る前の最後の休息をとったら、すぐに出立するはずだ。村でできる歓待はたいしたことはないかもしれないけれど、精一杯おもてなしするのだ!
(直接お話するのは無理だろうけど、姿を見るくらいはできるはずだよね!それは、楽しみだな!)
そして、勇者様一行がトーガ村へやって来た。勇者様一行を出迎えたのは村長さん。そして、休息をとってもらう為に、早速家へ案内している。その日の夜は、勇者様一行をもてなすため宴会が開かれた。といっても、宴会で疲れさせては意味がない。祭りの時の宴会のように深夜まで行われるというようなこともなく、お開きとなった。到着の時は私も含めて皆、遠慮していたけど…宴会中はしっかり勇者様一行を見ることができたのだった。
(勇者様一行…さすが!美形揃い!勇者様はもちろんのこと、魔術師さんや戦士さんもかっこいい!)
勇者様の容貌は、柔らかな焦げ茶の髪に青い瞳。村に到着した時は銀色の鎧姿だったが、今は少しラフな格好だ。一見すると普通の青年のようだが、やはりそこは勇者様。オーラが出ている感じで、どこにいても勇者様に目がいってしまうのだった。
休息をとり、国内での最後の補給を終えた後は、すぐに出立されると思っていた勇者様一行。
だけど…なぜか…その勇者様一行がトーマさん宅、つまり私も住み込みで働いている家にやって来ている。なぜ?!
魔術師様が語るにはー・・・
勇者の一行は勇者の他、魔術師と戦士、そして治癒術師という構成であるべきだった。それは古よりの決まりごと。
勇者の召喚が行われた時に、魔術師、戦士、治癒術師の人選も神々がなされる。魔術師、戦士はこの国から選ばれ、勇者もこの国に召喚された。そこで、治癒術師もこの国から選ばれたかと思われた。
選ばれた者は神々から授けられた証を持つ。嘘偽りで名乗り出ることはできないし、選ばれた者が名乗り出ないことも今まではあり得なかった。なのに、今回はいつ迄経っても、誰も名乗り出てこない。
そこで、神官達が神々に問いかけた。治癒術師はどこにいるのかと。すると、神々は答えた。
『治癒術師は確かに選ばれ、この国に住まっている。しかし、彼の者はこの世界の理を外れる者故に、自らが選定されたことに気づいていないのであろう。彼の者はトーガ村の薬師、特徴は黒目黒髪・・・』
そこまで、語った魔術師さんにジッと見られる。勇者様や戦士さん…トーマさんに、村長さんにも…。
(そんなに見つめられたら照れちゃう…。じゃなくて…!その薬師って私のこと?!この世界で産まれたんじゃないから、理は外れてるよね、うん。で、私は一応薬師。まだまだ薬師見習いだけど。で、黒目に黒髪。…そうですね、私なんですね…)
「神々の宣託の治癒術師とは、貴方のことで間違えないと我々は考えている」
「た、確かに特徴は私に当てはまります…!けど、私は授けられた証なんて持っていないですよ?!」
突然、勇者様一行の一員に選ばれるという、この本の世界の本筋に関わるような流れに戸惑いを隠せない。本来、私はこの本の世界には居ないはずなのに、なぜ私が魔王討伐に加わることになるのか。上級治癒魔法が使えるとはいえ、ただそれだけの私は勇者様達の足手まといにしかならないのでは。そんなことも短い間に頭を駆け巡る。それに、私は…本当に証なんて持っていないのだ。
すると魔術師さんがこう答える。
「【証】と言っているが、形あるものではないのだ。神殿に出向き祈れば、おのずと分かるものだからな。祈ることによって証と反応し身体が光り輝き、自分が選ばれたことを知るのだ。この国、いやこの世界の民は、すべて同じ神々を信仰し、総じて信仰深い。ずっと神殿に参拝しないなどあり得ないほどにな。だから、今まで選ばれた者が選ばれたことに気づかないということはなかったのだ。貴方はこの世界の理から外れていると神々はおっしゃった。貴方は勇者と同じく他の世界からやってきたのか?」
「気づいたら草原に投げ出されていたのです。その前の記憶は曖昧で…この村の近くの森でトーマさんに保護され、この村で生活させてもらっています…」
全部を信じてくれたかどうかはわからないけれど、納得された。そして、村の小さな神殿に一緒に出向いて欲しいと請われた。この世界では神々の言葉は絶対なのだろう。ここまできて誤魔化したり、拒否することは出来ないだろう。覚悟を決めて、神殿に出向くことを了承したのだった。