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未完って関係ありますか?

 トーマさんが買い出しと、薬を売る為に町に行く日がやって来た。普段の村の暮らしではあまり現金は必要ない。薬も物々交換でやり取りしているくらいだ。だけど、村では手に入らないものもある。そういったものを買う為に、半年に一度くらい近隣の町に出掛けるのだ。町での買い物にはお金は必須。だから、まずは薬を売って現金に替えるのだ。


 今回は私も手伝うから、上級の治癒魔法をかけた薬液も作ることができる。町までは片道3日ほど。村を立つ前に魔法をかけると、すぐに効果が切れてしまうから、魔法をかけるのは町に着いてからだ。



 町への道中ー・・・



「初級薬液でも、数を売ればいつもの買い出しには充分なんだがな。ユーカの上級薬液なら、倍以上の値段が付くはずだ。余裕をもって買い出しができるし、皆から頼まれたものも買えるだろう。助かるよ!」



「いえいえ、魔法をかけることでは手伝えますけど、運ぶことに関してはたいした力になれてないですし…。薬液って本当運ぶとなると重たいですね…。それなのにたくさん売りたいだなんて、ワガママを言ってしまって…」



「ハハッ。そんなことは気にしなくていいさ。力仕事は俺が、魔法をかけるのはユーカが頑張ればいいんだ。持ちつ持たれつさ!それに、買いたいものがあるからだろう?ワガママなんてことないさ!」



「はい…。どうしても本が買いたくて…。でも、本は高いみたいなので、薬液もたくさんいるかなと思って…」



「買ったことがないからわからないが、恐らく高いだろうなぁ。俺たちも村長さんに簡単な読み書きは習うが、本を読むってことはないからなぁ。もしも本が買えて、村の子ども達に読んでくれたら、皆喜ぶだろうよ」



「それはもちろん!皆に本の楽しさを知って欲しいですし!」



「頼もしいな!さぁて、町まではもうすぐ!あとひと頑張りだぞ!」



「はいっ!」



 街道の要所要所にあるオアシスで夜を越しながら、歩くこと3日。ついに町に到着だ。



 町に入ってまず向かったのは薬局のようなお店。店員さんはトーマさんと顔馴染みのようで、気さくに挨拶を交わしている。私のことは、新しい助手だと紹介してもらった。



「薬液の買い取りだな?魔法は今からか?」



「あぁ、今からかける。じゃあ、よろしく頼むな」



 そう言われて、並べられた薬液の前に立つ。店員さんはトーマさんじゃなく、私が魔法をかけることに少し驚いているようだが、とりあえずは集中だ。光の届く範囲なら一度にかけることができる。そして、呪文を唱え…無事に上級薬液が完成した。



「え…?!上級薬液?ユーカさんは上級治癒魔法が使えるんだ?!」



「そうなんだ。優秀な助手だろう?」



 驚く店員さんにトーマさんが笑いながら答える。



「いや、優秀過ぎだろう!助手のレベルを越えてるじゃないか!」



「そうなんだけどな。ま、多少訳ありでな。うちで当分は働いてもらう事になってるんだ」



 多少訳あり…それは、これ以上突っ込むなということだろう。店員さんも、それ以上追求してくることはなかったのだった。



 薬液のやり取りを終えた後は、いくつか質問をする。本を扱っているお店があるかどうかと、水魔法の使い手がいるかどうかだ。



「本なら中央通りのよろず屋で扱っているはずだ。あとな水魔法の使い手か?俺は知らないが…よろず屋のおやじさんなら何か知っているかもな。聞いてみるといい」



「ありがとな!じゃあ、また!」



 そう言ってお店を出て、教えられたよろず屋に向かう。よろず屋の場所はすぐ分かった。店内に入ると、様々な商品が並んでいる。そして、片隅に待望の本が並んでいるのを見つけて、早速手にとって見てみる。



(会話だけじゃなく、読み書きもできて本当に良かった!本があっても読めなかったら…ま、その時は一から勉強したけどね!)



 幾つかの本をめくって確かめる。ほとんどが小説で、歴史書や絵本も並んでいた。一冊の値段はやはり高めだったが、トーマさんから事前に聞いておいた予算で充分に数冊は買うことができそうだった。悩んだ末に数冊を選ぶと、店員さんのところに持っていく。



「いらっしゃい。本が好きなようだねえ。あんなに熱心に選んでいるお客さんは初めてだよ」



「こんにちは!そうなんですか?私はとにかく本が好きです!どれにしようか迷ってしまって…」



「それだけ迷って選ばれた本は嬉しいだろうねぇ」



 そんなやり取りをしながら、本を包んでもらう。大事に村まで持って帰らないとね!



 トーマさんも加わって、水魔法の使い手について聞いてみる。



「水魔法かぁ…。確か学校の先生が使えたはずだが…今は生憎休暇中だねぇ」



 どうやら、今は学校の長期休暇中らしい。残念だけど、仕方ない。またの機会にしよう!親切な店員さんに、再度お礼を言い店を出たのだった。



 そして、また復路も3日間歩いて、村に帰り着く。村長さんに無事に戻ってきた挨拶をした後で、頼まれていた買い物を集まっていた村民さん達に配っていく。留守の間に薬草園の管理をしてくれていたお隣さんには、お礼の品を。私が選んだから喜んでもらえるか心配だったけど、大丈夫だったようだ。



 その日の夜は、疲れもあってすぐにでも眠れそうだった。だけど、本の誘惑の方が強いのだ!久々の読書タイム!本の冊数は限られているから、ゆっくり少しずつ読んでいこう。



 小説は完結済みのものか、ちゃんと店員さんに聞いておいた。続きがあったら気になるし、かといって簡単に買うことはできないからね。



(続きが気になる…か。この世界に来たのも、続きが気になったからなんだよね…。この村にはまだ入って来ていないけど、町では王都を出発したという勇者様一行の話を漏れ聞くことができた。町に入ってきた情報もタイムリーではないんだろうけどね…。完結済みの小説じゃないから、これからどうなるのかもわからないんだよなぁ…)



 そこでふと気づく。続きが気になって夢の世界に入ったことは前にもあるけど、それはまだ私が読んでないだけで小説自体は完結していた。たしかそれは外国の小説だったから、翻訳されてなくて…。だけど、今回は…?初めて夢の世界から目覚めることができないのは…小説が完結してないから?!


 もしもそれが理由だとしたら…これから、勇者様一行の旅が進んで物語が完結しなければ、私は夢から目覚めることができないのだろうか…。一体いつのことになるのだろう…。まだそうと決まったわけではないけれど…その可能性が高いような気がしてきた。今までと違うことは【完結していない】ということだけなのだからー・・・



(勇者様…!頑張って早く旅を終わらせて…!)



 見ず知らずな勇者様に、遠く辺境の村から祈るユーカなのだった。

読んでいただき、ありがとうございましたm(_ _)m

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