村長さんも良い人でした!
トーマさんの先導で森を抜け、トーガ村へと向かう。小さな村のようで、入り口を通り抜けると、村の人がぞろぞろと出てくる。トーマさんが誰を連れてきたのか、みんな気になっているようだったが、まず先に村長の所に行くというトーマさんの言葉で、トーマさんへの質問は止んだ。
でも、質問したくてウズウズしている感じが、その視線からも伝わってくる。その村民さん達に向かって時折ぺこりと会釈をしながらも、村に入って早歩きになったトーマさんに置いていかれないように、パタパタと歩く。
トーマさんさんの足が止まったのは、村のど真ん中だろう場所に位置する一軒の家の前。きっと村長さん宅なのだろう。他の家よりも一回りほど大きいだろうか。
トーマさんは迷うことなく、ドアをくぐり抜ける。村長さん宅はドアも開きっぱなしだし…村民に開けた村長宅?
「村長!トーマです!ちょっと話があるんで、降りてきて下さい!」
トーマさんが二階に向かって大きな声を掛ける。すると、ドアが開く音がして、1人の初老の男性が階段から降りてくる。彼が村長さんで間違いないだろう。そんな雰囲気が出ている。
「おや、今日は森に薬草を採取しに行くと聞いておったが、やけに帰りが早いではないか。それに、後ろに連れている女の子は誰だね?」
「それを話そうと思ってやってきました。どこか座って話したいんですがね」
「じゃあ、居間で待っていてくれ。お茶を頼んでくるとしよう」
「別にお茶はなくても…」
「そう急がんでも大丈夫だろう?お茶を飲みながら、ゆっくり話を聞くとしよう」
村長さんは誰かにお茶を頼みに行ったのだろうか。奥に歩いて行く。私はトーマさんと居間に向かい、トーマさんの隣に腰掛けた。
しばらく待っていると、村長さんと村長さんの奥さんがお茶を持って、居間に入ってきた。その後の話は、基本的にトーマさんが村長さんに説明をした。私を見つけた経緯、私の記憶が曖昧な点、そして最後に自分の元で働いてもらいながや、記憶を思い出すのを手伝うつもりだということ。
途中途中で、村長さんから私にも質問が飛ぶ。だが、村長さんは始終笑顔で、質問も厳しい内容ではない。トーマさんは私を信じてくれたようだけど、他の人達にも信じてもらえるかどうかは不安だった。でも、きっとトーマさんへの信頼が厚いのだろう。トーマさんが信じているならと、私のことも信じてくれるようだった。
(最初に出会ったのがトーマさんで、本当に良かったぁ…)
改めてそう思ったのだった。
村長さんとの話が終わり、村長さんと奥さんに見送られ、家を出ると…そこには、村民の皆さんが…。どうやら、好奇心を抑えきれず、村長さんとの話が終わったらすぐに聞き出そうと待っていたらしい。これにはトーマさんだけでなく、入り口まで出ていた村長夫妻も苦笑いだ。説明しようとするトーマさんを遮って、村長さんが代わりに喋り始めた。
「トーマが連れているのは、森の中で記憶を無くして困り果てていた女性だ。トーマが不憫に思い、尚且つ信用に価すると判断して、自分の元で薬師の手伝いをしてもらおうと連れ帰った。わたしも彼女…名前はユーカさんというのだが、ユーカさんは信用できると判断し、村への居住を村長として許可した。トーマが生活の面倒はみるといえ、日常生活で困る事もあるやもしれん。そんな時は皆、他の村民が困っている時と同じように手助けして欲しい。以上だ」
村長さんの話を聞いていた皆さんが、一斉に頷く。そして、入れ替わり立ち替わり挨拶をしてくれる。全員と言ってもそう多くはない。皆さんと一通りの挨拶を交わす事ができたのだった。
村長さん宅から、トーマさんの自宅兼仕事場はすぐ近くだ。トーマさんの家に入ると、さすが薬師さんの家だけあって、薬草の匂いが充満していた。でも、決して不快な匂いではない。
「一階は仕事場と台所兼居間、それと俺の部屋だ。二階は今は薬草の保存部屋として使ってるが、一部屋使ってない部屋がある。そこを、ユーカの部屋にしようと思うんだが…」
「ん?どうかしたんですか?」
「いや…ずっと使っていなかったから埃が溜まっているだろうなと…。それに、寝具もない。今から俺は寝具を調達してくるから、ユーカは部屋の掃除をしておいてくれ」
「掃除はもちろんしますけど、寝具をわざわざ用意してくれるんですか?それは申し訳…」
なんだか申し訳なくて遠慮しようと言葉を発するのだが、途中で遮られる。
「別に高い寝具を用意するわけでもないし、気にするな。この村にはそんな店もないからな。これから、しっかり働いてもらうんだ。言っておくが、薬草の採取や栽培は、慣れないうちは疲れるぞ?疲れを取るのに寝具は必需品!必要経費だ!」
笑顔でそう言い切るトーマさんに、つい『わかりました』と言ってしまった。
トーマさんから掃除用具の置き場と部屋の場所を聞き、寝具を調達しに行くトーマさんを見送ると、早速掃除を開始する。ドアを開けると…。
ゴホっ…ケホっ…!
確かにすごい埃だ…。まずはタオルで口を塞ぎ、窓を開ける。すると埃が舞い上がって…。でも、掃除のしがいがありそうだ!
掃除を終えて少し経った頃、トーマさんが数人の村民さんと寝具を運んで戻ってきた。見違えるように綺麗になった部屋に寝具が入ると、一気に部屋らしくなった。寝具の他にはタンスと小さなテーブルと椅子があるだけの、シンプルな部屋だ。ここが今日から私の部屋で、この世界での拠点になるんだ。
仕事は明日から教えてもらうことになった。今日はまずは台所で、調理具の場所や保存食品の場所を聞いた。これで、明日からは料理が手伝える。今日はトーマさんが作ってくれたスープと干し肉、パンを食べた。
ご飯の後で、お風呂の説明を聞いた。お風呂場に浴槽はなかったが、お湯を入れた盥を代用するとのことだった。
ご飯も食べて、お風呂も済ませた。今日はもう眠りにつくだけだ。ベッドで寝たらもしかして…?でも、期待を持ち過ぎてはダメだろう。
(とにかく明日からは仕事を早く覚えて、少しでもトーマさんの役に立てるように頑張ろう!それで、なんとか元の世界に戻れる方法を探すんだ!)
そう思ったのを最後に眠りについて、夢の世界での3日目を終えたのだった。