お仕事初日!
週末の夜。明日から、ジーンさんのお店での仕事が始まる。お店の開店はパン屋さんのように早くない。むしろ結構遅めかな。急患があれば対応するけれど、普段は3の鐘が鳴る頃から開店するそうだから。だけど、私は明日も1の鐘で起きる予定だ。マーシャさんちにいる間は、皆と朝食を共にしたいものね。だから今日も早寝します!
翌朝。1の鐘が鳴ると同時に起きるのも慣れてきた。早起きは馴染んでしまうと、まったく辛くないものだ。
朝食を食べ終え、皆はそれぞれの役割を果たしていく。私も出かけるまでは時間があるから、手伝おうとしたのだけど。でも…『これから働きにいくんだから休んでなさい』と言われ…しかも3人から…おとなしく部屋に戻ることに。荷物といっても特に持っていくものはないから、準備することもなく、本当に休んでいるだけだ。2の鐘が鳴ってからぼちぼち出て、それから準備してくれたらいいと言われているけど、2時間って結構長くてなかなか潰れない。
(二度寝も出来ないし…お散歩でもしてこようかな)
早朝だから人通りもそう多くなくて。海風を感じながら、海沿いの道をプラプラと散歩する。港町=猫が多いっていうのは、日本と同じかな。イメージを壊すことなく、この町にも猫は多くて。人懐こい猫もたくさんいて。そんな猫を撫で撫で……。
(あぁ、癒される…)
そんなことをしていると、ようやく2の鐘の音が聞こえてきた。さぁ、出勤だ!
仕事初日。といってもすることは、ミーナさんが作った薬液に、順に魔法をかけていくという単純作業。上級魔法、中級魔法の順にかけていき、それぞれの棚に並べていく。あとは、薬液を買いに来たお客さんの対応も私の仕事だ。ミーナさんは、店の奥で薬液を作っているからね。
今日用意された薬液に魔法はかけ終えたから、あとはお客さん対応だけだ。直接の治癒を求めての患者さんは、そうは多くないみたいだから、薬液を買い求めるお客さんが途絶えてしまうと、ゆとりが生まれる。そんな時間は、当番となった家事をする。今週の私の当番は掃除だから、開店前に済ませた販売スペース以外の居住スペースや作業スペースの掃除を様子をみながら行っていく。半分程済ませたところで、お昼になったとミーナさんから声がかかった。今週の食事当番はミーナさん。良かった!
ミーナさんが用意してくれた今日のお昼ご飯は、フィッシュサンド。パンはマーシャさんちのパン。見た目も味もタルタルソース! って感じのがかけられていて、すごく美味しかった!
お昼の休憩はきっちりとること! っていうのがジーンさんの口癖の一つらしい。そんな休憩時間に薬草園を見せてもらうことに。ん? これは仕事ではありませんよ。見たいだけだもの。
薬草園は家の裏手に広がっていて。ここだけでなく、他にも土地を借りているそうだけど、とりあえずはここの薬草園をゆっくり見させてもらう。どの薬草も手入れがきちんとされている。
「ここだけでも結構広いですよね。ミーナさんが主に管理しているんですよね? 水やりとか大変じゃないですか?」
「そうね。雨が少ない時期は結構大変な作業ね。水やりだけで、結構な時間を費やすもの」
「ですよね…。井戸から水を汲んでいるですよねぇ…。あ、私初級の水魔法も使えますよ!」
「そうなの!? 治癒魔法を上級まで使えるだけでもすごいのに、水属性の魔法まで使えるのね! そうねぇ、水を桶に出してもらうだけでも、かなり楽になるわね。それに、水魔法で出した水の方が、薬草の育ちが良いと聞いたことがあるし…試してみたいわ」
「桶に水を出すくらいならいつでも。薬草の栽培もなんだか懐かしくて…少し手伝わせて貰えると嬉しいです!」
「助かるわ! 時間が取れたら、薬草の研究もしたいと思っていたのよ!」
私の仕事に水の【生成】も加わった。薬草園の手入れも手伝わせて貰えることになったし、やる気が漲ってくるな。ただ…少し後ろめたい気も…。
(まだ試していないけれど、本当は神級魔法まで使えるはず…。でも、神級魔法を使えるのは【授けられた証】を持つものだけだって聞いているし…。迂闊に言ってもいいものなのかどうか…。上級魔法の使い手を求めていたのだから、問題はないんだけど…全てを伝えられていないのが後ろめたさの原因よね…)
【授けられた証】を持つもの=勇者一行。もしくは、何か重要な責務を神より与えられた人。今の私はそんな大層な人間じゃない…いや、前の私もそうだったけど…。だから、やっぱり今は…伏せさせてもらおう。
(ごめんなさい…)
そう心の中で謝るユーカなのだった。