まずはパン屋さんで
マーシャさんは本当に親切で。仕事が決まるまではと、空き部屋まで提供してくれた。さすがにそこまでしてもらうのは申し訳なかったけど…持ち物を確認したところで、都合よくこの世界の貨幣を持っていたということもなく…。無一文…これじゃあ野宿しかない…。仕事が決まったら、必ずお礼をしよう!! と心に決めて、マーシャさんの好意に甘えさせてもらうことにしたのだった。
話が終わった後、まずは家族を紹介された。パンを作ってるのはマーシャさんのご主人のリックさん。笑い声が豪快で、笑顔がよく似合う…マーシャさんとは本当にお似合いの夫婦だ。
さっき出会った店番をしていた女の子、シーラは住み込みで働いているそう。このあたりでは住み込みの仕事というのは、よくあることだそうだ。だから私もマーシャさんに職場の希望なんかを聞かれた時に、住み込みで働けるところを希望しておいた。住み込みの方が節約できるものね。少しでも早く旅費を貯める為に、できるだけ節約しなければ。
シーラは、このお店で働き始めて3年の18歳。夫妻の子供は、今は各地を修行して回ってるんだって。パン職人の修行かと思いきや、お菓子作り…パティシエの修行だった。帰ってきたら、パンとケーキのお店を一緒にするんだって、すごく嬉しそうに話してくれた。
私が使わせてもらうことになった空き部屋を、シーラに案内してもらう。シーラはコロコロと表情がよく変わる、とても可愛い女の子。ちょっと年齢は違うけど、シーラは一人っ子のようで、少しの間でも私がここに住むことになったのが、姉ができたみたいで嬉しいと言ってくれる。良い子だぁ…私もこんな妹が欲しい!!
ずっと空き部屋だったから不具合があるかもって言われた部屋だけど、全然不具合なんかない。むしろ、すごく気に入った! 狭くないかとも聞かれたけど…確かにベッドと物入れを置いたら、ほぼいっぱいになってしまう部屋だけど、広すぎる部屋って落ち着かないし(前回、この世界で学んだ…豪華過ぎるのは、私には落ち着かないのだ…)、寝るところがあれば充分! むしろ全てがコンパクトで、なんか可愛い感じの部屋だ。それはきっと可愛いアンティークな窓と、ベッドにかかってるキルトのカバーなんかのおかげだろう。荷物っていっても特になにもない私は、ざっと部屋を見て、換気のために窓を開けてから、シーラとともに再び居間に向かったのだった。
居間ではマーシャさんが夕ご飯を用意してくれていて。野菜いっぱいのスープに、魚のフライ、サラダと…真ん中に置かれた籠の中いっぱいにつまったパン。さすがパン屋さんちのご飯! いろいろなパンがあって、選ぶのに迷ってしまって仕方がない…って、ちょっとは遠慮しようよ! 私!
悩む私を見て笑いをこぼすマーシャさん。『遠慮なんていらないんだからね! 好きなだけ食べなさいよ!』そう言って、どんどん料理を取り分けてくれる。魚のフライには、甘酢のタレが用意されていて。港町だけあって、魚がすごくおいしい! そして、パンは本当においしい! 最後に残ったパンだから種類がバラバラなんだとか言ってたけど、どれも美味しいから残っちゃってたなんてもったいない! どうやら閉店前までパンが切れないようにどんどん焼いてるみたいで、残るだろうことは前提なんだって。そして、それが家族分の食事になる。
食後はシーラと一緒に近くのお風呂屋さんへ。このお風呂屋さん、なんと露天風呂もあって! ついつい長風呂しちゃった! マーシャさんちに戻ってからは、シーラの部屋で女子会。パン屋さんは朝が早いから、夜更かしはできないけどね。それでも、シーラとの語らいの時間は、とても楽しかった!
私も仕事が見つかるまでは、ここでお手伝いをさせてもらうことになっているから、明日からは早起きだ。自分の部屋に戻ってベッドに潜り込む。窓からは綺麗な星空が見えていて。その星空を眺めているうち、いつの間にか眠りについていたのだった。