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得意なのは治癒魔法!

 半分ほどお茶を飲み、私の気分が少し落ち着いてきただろう頃を見計らったように、マーシャさんから声が掛けられた。



「いろいろ聞きたいことはあると思うけど、まずは名前を聞いてもいいかい? わたしはマーシャ。生まれも育ちも、ここヨハネスだよ」


「マーシャさんですね。私はユーカと言います。生まれはナハト国ではないんですが…ナハト国にはたくさんお世話になった方がいて。その方たちを訪ねる旅の途中だったはずなんです…。それが、いったい何でこの町にいるのやら…わからなくて…」


「その道中からの記憶がないんだね。悪いやつらにでも攫われたのかもしれないね…。それで、もしかしたら途中で悪事が見つかりそうになったやつらに、この町に置いていかれたのかもねぇ…。ヨハネスは平和な方だけど、物騒な地域もあると聞くからね…。この町は移民者も多いし、生活していくにはどうとでもなる町だけど…やっぱりナハト国に渡りたいんだろうね?」


「はい…ナハト国には行きたいですし、一旦うちに戻るにしても…やっぱり元の大陸に戻らないといけませんから。海を渡るには船ですよね?」


「ああ、もちろん船で渡るしかないからね。あっちの大陸とは交易が盛んだから、船自体はたくさん出ているよ。だがね、渡るにはそれなりに旅費がかかる上に、役所の発行した身分証か、政府に信用のある方々の紹介状が必要でね。わたしら一般人には紹介状は無理だから、役所に身分証を発行してもらえばいいんだけど、正式な身分証を発行してもらうには何か仕事をしていないといけないし、発行後1年は経っていないと渡航は難しいそうだよ。制限なく渡航させるわけには行かないようでね」


「…そうですよね。簡単に渡れたらちょっと問題が出てきそうですし…。仕事はどんな仕事でもいいんですか?」


「職種は関係ないよ。仕事をしてさえいればね。うちで働いてもらったって大丈夫なんだけど…旅費を貯めるとなるとね。もっと稼ぎが良くないと時間が相当かかるだろうね。何か手に職があればいいんだけどね。専門職はその分稼ぎが良いからね。ユーカは何かできることはあるかい?」


「私ができることといったら…」


(治癒魔法…まだ使えるかな? あ、さっき座り込んでた時に、ちょっと膝に擦り傷ができたみたい。これに試しにかけてみよう…)


「ちょっと試してみますね…」


「…??」



【我は求めん。癒しの光を。輝く光で包み込み、我の求めに応じて癒しを与えん】



 ちょっとした擦り傷に中級魔法は大げさなんだけど、初級よりは中級を使える方が、専門職につきやすいだろう。さすがに上級魔法はやり過ぎだしね。神級魔法も同じく…。擦り傷に神級魔法使ってたら、逆に怒られそうだ。…ギルさんがいたら…ね。


 魔法はきちんと発動したようで、擦り傷が綺麗に治っていく。



「えっと…私ができることといったら、治癒魔法を使えることですかね。治癒術士は専門職ですか?」


「…すごいね! 治癒魔法の使い手なんて、そう多くはいないんだよ! この町では人の行き来が多いから、需要も高いしね! 今かけてたのは…中級魔法というやつかい? 一度だけ見たことがあるんだけど…」


「そうです。きちんと呪文は覚えてたようで安心しました。上級魔法も使えると思います」


「上級魔法も使えるのかい?! それなら、働き口はどこにでもあるよ!」



 どうやら治癒術士の需要は高いようだ。そして、稼ぎもかなり良いらしい。マーシャさんが信用のおける職場を探してくれるようだし、これで身分証の発行は大丈夫だろう。渡ることが可能になるまでの1年というのは長いけど…旅費を貯めるのに、きっとそれくらいはかかる。いくら稼ぎが良くてもね、大陸を隔てる海は結構な大きさのようだから。旅費だって、かなりのものだろう。渡った先がすぐにナハト国というわけではないから、向こうでの移動にかかる旅費も必要だし、そう簡単には貯まらないはず。お金を貯めながら、ナハト国…そして、ナハト国にいるはずのみんなのことを少しずつでも調べていけばいい。さすがにトーガ村のことはわからなくても、王都の様子や勇者一行の情報なら、それなりには伝わってきているだろうし。うん、まだまだ先は長いけど、頑張ろう!!


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