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最初の出会いは…

(って…聞き込みとは言っても。言葉はちゃんと通じるのかな? 前回は通じたから大丈夫だと思うけど…)



 耳を澄まして周りの音を拾ってみる。賑やかではっきりとは聞こえないが、部分的に聞こえてくる単語は、ちゃんと意味がわかるものだった。そのことに安心するユーカだったが、今の状況は…路地の端っこの方ではあるけれど、地べたに座り込んでいる状態。いきなり立ち上がって聞き込みしても、不審に思われるかもしれない。なんせ『ここはどこ?』から始めなければならないのだから。とりあえず聞き込みの前に、この辺りを歩いて回ってみようかと考えていると、うしろから声がかかった。



「そんなところに座りこんでどうしたんだい? 気分でも悪いのかい?」



 パッと振り向くと、そこには心配そうな顔をして尋ねてくる、優しそうな女性が立っていた。



「すみません。こんなところに座り込んでたら邪魔になりますよね…。気分が悪いわけじゃないので大丈夫です。ありがとうございます」


「いや、別に邪魔にはなってないから大丈夫だよ。でも、本当に平気かい? 顔色も良さそうには見えないけど…」


「体調は本当に大丈夫なんです。ただ…ちょっと途方にくれていたというか…考え事をしてまして…」



 親切に声をかけられ、ついつい本音を吐露してしまう。この人になら、ここがどこかとか聞けるかな…そう思いながら、体調は本当に悪くないと示すためにも、立ち上がる。



「途方にくれていたって…。なにか困ったことでも起きたのかい? お金でも落としちゃったのかい? この辺はスリもいるからねえ…それだったら、騎士様の駐在所に行けばなんとかなると思うけど」


「えっと…そうじゃないんです。ちょっと記憶が曖昧で…。私はナハト国のトーガ村に向かっていたはずなんです。でも、気づいたらここに座り込んでて…。ここはナハト国…ではなさそうだし。一体、何が起きてこうなったんだろうって…。ここはどこですか?」


「え? まさか無理やり連れてこられたのかい?! ここはナハト国じゃあないよ。トーガ村というのは知らないけど…ナハト国がある大陸とこことは海で隔てられてるからね。ここは、リーディア王国。王国一の港町ヨハネスだよ。知ってるかい?」


「…すみません。わからないです…」


「なにか恐い思いをして記憶が飛んでしまっているのかもしれないね…。かわいそうに…。ここじゃあ、ゆっくり話も聞けないね。そうだ、うちにおいでよ。うちで休んでいくといい。もう少し話を聞けば、わたしで役にたてることもあるかもしれないからね」


「いいんですか? 今は右も左もわからない状態なので…とても助かります」


「困っている人を助けるのは当然さ! さぁ! ついておいで!」


「はいっ!」



 海沿いの賑やかな通りを女性に連れられて歩いていく。親切な人に出会えて良かったと思う。前回も最初に出会ったのは親身になってくれたトーマさん。この世界の人はステキな人が多いと改めて感じる。記憶がない設定にするのも同じ…でも、最初から『夢の世界で…』って話は余りに突拍子もなさ過ぎるのだ…。仕方ない…。



(それにしても…まさか大陸が違うとか…。海を隔ててどれくらい離れているんだろう? 無事にナハト国に行く事ができるのかな…。あまり離れてるとナハト国の近況も伝わってないかもしれないよね…)



 しばらく歩いて女性が立ち止まったところは、パン屋さんの店頭。



「さぁ、着いたよ。ここがうちだからね」



 扉をくぐると、パンの良い匂いが立ち込めていた。店番をしていた女の子が女性に『おかえりなさい』と声をかけてくる。私には『誰だろう?』という視線もあったが、他のお客さんの対応で忙しそうで、すぐその対応へと戻っていく。女性についてカウンターの横を通り抜けると、そこは居住スペースのようだった。座って待っているように言われ、恐縮しながらも座っていると、奥でさっとお茶を淹れて来てくれたようで、お盆を片手に女性が戻ってきた。まずはお茶を飲んで落ち着くようにと言われ、ありがたくいただく。何かのハーブティーのようで、飲んでいると確かに落ち着いてきて。聞かなければいけないことを、頭の中でしっかりとリストアップするのだった。


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