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再び、あの世界への扉を

第2章始めます。

 本の世界から…夢から覚めて1年が過ぎようとしていた。仕事にも日常にも特に変化のない1年だった。忙し過ぎもせず、何もすることがないというわけでもなく。でも、毎日のように本を読み、夢の世界に入っていたのに、それをしなくなったからか…すっかり元通りというわけにはならなくて。それに、彼らのことは今でも強く心の中に残っていて、何をするにもぽっかりと心に穴が空いたような感覚に陥っていた。


 そんな日常が続いていたのだけど、あのファンタジー小説の完結編の発売されることがわかると…。それからは、そのことばかりを考えるようになり、他の本を読んでいても、いくらも読み進めないうちに本を閉じてしまうような有様だった。



(いったいどんな終わり方になっているんだろう? 私が体験した話は本にも描かれてる? それとも…)



 それは読んでみないとわからない。でも、読むのが怖い気もして。そんな思いを抱えながらも、完結編の発売日には誘い込まれるように本屋へと赴いており、気づけば本を手にしていた優香なのだった。



(なんか…本屋に入る前くらいからの記憶が曖昧…。買おうかどうしようか…まだ悩んでいたはずだったのに…)



 手に入ってしまえばやはり気になるものである。パラリと表紙をめくった後は…休むことなく読み続け、気づけば最後まで読みきっていた。周囲を見渡せば荷物も投げっぱなし、ご飯だって食べていない。帰宅後、何もせずに本に読み耽っていたわけだ。でも、そんなことよりも…。



(なにこれ…。私が体験した話とぜんぜん違う…。私が登場しないのは…まぁ、いいとして。魔王を倒すまでの道のりも、倒してからのエンディングも…。どうなっているんだろう…。あれは…私が体験した世界は…本当にこの本の世界だったの? それとも、本の世界に似ているけれど、まったくの別世界? 異世界だったの?!)



 どんなに考えてみても分からない。本の世界でなかったとしたら…いつの間にか異世界に渡っていたんだとしたら…。ディーンさん、ショーンさんにギルさんも…みんな本の登場人物じゃなくて異世界に生きている人達で。いや…途中からは本の登場人物だなんて思って接していなかったけれど。でも、夢から覚めたら時間はほとんどといっていいくらいに経っていなくて。だから、やっぱり本の世界の人達だったのかと思っていたのに…。


 優香の頭の中はもうグチャグチャだ。本を読み終えた後も何も片付けることなく…ずっと座りこんで考え続けていた。次に優香が立ち上がった時、彼女は決意していた。



(悩んでいても仕方ない! こうやって元の世界で元のように生活していても、みんなのことが頭から離れなかったんだもの。本を読んでも、みんなのその後はわからなかった。このままじゃあ、気になって…このままここで生活していくなんて無理だ! もう一度…行ってみるしかないじゃない!)



 優香はベッドに向かうと、枕元に本を置いた。完結編ではない。この本の主人公達はみんなと似ているようで違うから。枕元に置いたのは、元の世界に戻ってから買っていた…あの世界に行くことになったきっかけの第1巻だ。



(私は私が知っているディーンさんたちのところに行きたい。それなら、この本の方がいいはず!)



 ベッドに潜り込んで眼を閉じる。さすがにすぐには眠れないかと思ったが、やはりなにかに誘われるように優香は眠りにつくのだった。




 …優香が目覚めて最初に目にしたものは、いつもの自分の部屋の光景でもなく、かといってあの世界で最初に目覚めた草原でもなく。トーガ村でも、王都でもなく…。目の前に広がるのは大海原。あちらこちらに船が見える。大きな船から漁船のような小型のものまで。どこからどう見ても、賑わっている港であった。



(み、港? ナハト国に海は…面してなかったよね?! 内陸国だったはずだもの。隣のシュール王国でも海なんて見てないし…というか、こんな景色は前の時にはどこでも見たことない! ここは一体どこ?!)



 優香は慌てながらも自分の姿を確認する。すると、本の登場人物になっているわけではなく、前のように優香自身の姿なのが分かった。



(ということは…やっぱりここは前に来た世界なのかな。でも、私が行ったことのない、どこか知らない場所で目覚めてしまった? うーん…考えてても仕方ない…。前回とは違って、周りに人はたくさんいることだし。まずは…ここがどこか聞き込みしないと…)



 優香の異世界二度目のスタートは…前途多難なものとなったのだった。


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