進む支援の道、それでも私は…。
家の中に入り、ざっと見て回った。今とのところ、この家に住むのは私とシンシアとアントニーさん…いや、アントニーだけ。
どの部屋も整えられていて、今すぐに生活可能。とりあえず私の部屋に荷物を運び入れてもらう。荷解きは私が村長さんやトーマさんと話している間に、シンシアがやっておいてくれるそうだ。
2階から客間へ降りる。お茶の用意が整えられ、村長さんとトーマさん、私の3人になったところで、報告を始めた。
私が褒賞に『トーガ村の支援』を望んだと話すと、2人とも驚き『他にもっと自分の為に必要なものはなかったのか』と問われたのだけど、それには力強く答えることができる。
「1番に頭に思い浮かんで、私が1番望んだことが、この村への支援だったんです。もちろん、皆の今の生活を壊す気はありません。急に街のように発展するのも違うと思いますし。でも、ちょっとした不便は皆感じているんではないでしょうか?どんな些細な内容でも良いんです。少しでも、皆が快適に暮らせるように、希望を言ってもらいたいです」
「ユーカ…お前というやつは…。でも、この村のことを1番に考えてくれて、ありがとうな。ユーカが勇者様達と旅立って、帰ってきたらすっかり国の英雄で…。ちょっと遠い存在になっちまったかと思ってたんだ…。なのに、またこの村に戻ってきてくれるなんて…」
(おおっと、トーマさんが感極まってる…!)
「私には煌びやかな王都での生活は合わなかったもの。英雄とか言われても、私にできる事は、最初から変わらず治癒だけだしね。これからも、私は1人の治癒術師で薬師なの!」
英雄なんて柄じゃないんだと、トーマさんに力説。トーマさんも、『そうだよな、英雄って感じじゃないな。腹が減って仕方ないのに、遠慮して腹を鳴らすのがユーカだもんな』と…それ、まだ言いますか!?
そんな掛け合いをしているうちに、すっかり旅立つ前の感じを取り戻せたようだ。お腹が鳴った事件はいい加減忘れて欲しいけどね…!
そして、報告の続きだ。村の皆には村長さんから話してもらって、希望を取りまとめてもらいたいこと。じきに王都から私の望みを叶える為ということで、いろんな分野のエキスパートを引き連れた専属の役人さんが来るから、その人に取りまとめた希望を伝えてもらいたいこと。村長さんには、この二つをお願いする。
これで、村の皆からの細やかな希望は漏れなく伝わるだろう。そして、村としての希望は、私を含めて村の代表の人に集まってもらって決めることにした。私が今のところ考えているのは、村に学校を作ることと、そこに図書室を作ることだ。図書室は個人的な希望のような感じだけど、学校に通うことで識字率が上がれば、皆読書の楽しみも知ることになるはずだからね!あってマイナスなことは無い!
その他にも、村として必要なものを皆で検討していきたいのだ。既に村長さんもいくつか思い描いているようだし、皆で案を出して検討すれば、きっと良い案にまとまるだろう。トーガ村の良さを残しつつ、良い方向に支援の策が進んでいくはずだ。
私がトーガ村に戻って一ヶ月。細やかな希望は、ほとんど叶えられているし、村としての希望もまとめ終わったから、これから徐々に支援が進んでいくだろう。これで、私としては支援の道筋は立てられたと思う…のだが、そう思ってから幾日過ぎても元の世界に帰れることはなかった。
支援が進んでいき、全てが順調なのに、どうしても落ち込みが隠しきれない。それに、もう少ししたら…ディーンさんもこっちに来てしまいそうなのだ。
(このまま…なのかな?)
そんな私を心配して、シンシアが親身になってくれるのだけど…シンシアにもこの悩みは…。いや、シンシアになら話せる…かな?
「これから話すのは突拍子もないような話かもしれない。それでも、聞いてくれる?」
「もちろんです。皆が突拍子もないと笑おうとも、わたくしは信じて伺いますわ」
そう断言してくれるシンシアに…元の世界からこの世界に来てしまった経緯、それまでもずっと夢の世界に入り込んでいたこと、今回帰れないことに対する自分なりの考察、そして…ディーンさんの思いをどう受け止めればいいか悩んでいること…など。
途中で止めてしまうと、話せなくなりそうで…一気に話した。シンシアは断言通り、こんな突拍子もない話を信じてくれたようで…。ここにきて初めて泣きそうになってしまうのだった…。
読んでいただき、ありがとうございました。次話は、9月3日の11時投稿予定です。よろしくお願いします。