ユーカの家は豪邸?それとも?
(絶好の遠出日和!)
トーガ村へ出発する朝は、晴天に恵まれた。ディーンさんは、私1人では危ないから、自分も一緒に行くと言っていたのだけど。でも、ディーンさんには、まだ王都で片付けなければならないことがたくさんあって。
(領地を授かるんだもんね、そりゃあ忙しくもなるよ。私なら1人で大丈夫!)
それでも彼は、『1人の旅は…』と渋っていたのだけど、シンシアが一緒にトーガ村まで行ってくれることになったと言ったら、さすがに諦めてくれた。『こちらが落ち着いたら、すぐに俺も向かう』とは言ってたけど…ね。
そう、シンシアが一緒に行ってくれるのだ!馬車での旅になるから、実際のところ1人旅ではないのだけど、御者さんや護衛騎士さんとお喋りってわけにもいかないだろうし、シンシアが一緒に行ってくれるのは、純粋にとても嬉しかった。
トーガ村では、『さすがに英雄が居候というのは…』と、なんと私の住まいが建てられたそうだ。王様の指示によって。有難いけど…王様主導というのが、ちょっと気にかかる。トーガ村に溶け込む家になっているだろうか…?
まぁ、それは着いてみないとわからない。でも、どんな家にせよ生活を始める前に、自分が住みやすいように整えていく必要があるのだ。シンシアはそれも手伝ってくれるそうだ。
(貴族令嬢がそんなことまで…)
と思うのだけど、シンシアは進んで私の手助けをしてくれている。
「ユーカ様は英雄です。世界の英雄であり、わたくしの英雄でもあるのです!ユーカ様が少しでも生活されやすいように、お手伝いするのは当然なのです!」
シンシアは時々こんな風に熱く語り始める。そういう時は、下手に口を挟まない方が得策だ。
そんなシンシアとの旅は、とても楽しかった。王都でもトーガ村の皆へのお土産を買ったけど、王都ではそんなにゆっくり見て回れなかったからね。途中で立ち寄る町で、お土産を買い足し大満足だ。
王都へ向かう旅では目立って仕方なかったけど、トーガ村へ向かう今回の旅はそんなことはまるで無い。目立つ存在のディーンさん達がいないしね!私とシンシアさんの2人連れだと、貴族のお忍びかなとは思われるようだけど、逆にお忍びだと思うからか、そっとしておいてくれるのだ。
馬車の中にはお土産がたくさん!これだけあれば、確実に全員に行き渡るだろう!
トーガ村へ到着すると、皆が出迎えてくれる。笑顔で再会を喜び合う。数ヶ月ぶりだけど、やっぱりこの村も村の皆も大好きだ!
「皆にお土産買ったきたよー。いろいろ買ってみたから、好きなのを選んでね!」
そう言うと、子ども達がわぁっと馬車に群がって行く。『僕はこれ!』、『いっぱいあって迷っちゃう!』など、賑やかな声に包まれる中、改めて村長さんとトーマさんと向き合う。
「王都での報告もしたいし、相談もあるんですけど、村長さんの家に伺っていいですか?」
「それはいいが…まずは、ユーカの新しい家を見てみたいと思わないかね?」
「あ、そうでした!家も気になるなぁ…。私の家は、一応住める状態にはなっているんでしたっけ?それなら家を見に行って、そのままそこで報告させてもらいましょうか?」
「それが良いだろう。では、行くとしようか」
村長さんとトーマさん、シンシアも一緒に、新しく建った私の家に案内してもらう。そして、到着した先で見たものは…。
(大きい…けど、村の中で浮き過ぎてるって程ではないな。よかった。王都の豪邸レベルを建てられたら、絶対浮いちゃうしね。それに、庭にも木がいっぱいだから、村の雰囲気に馴染んでるかも)
私の家としては、充分大きくて立派な家だったけど、心配していたような豪邸ではなく、村の雰囲気にも馴染んでいることに安心するのだった。
家の前でそんなことを思っていると、中から1人の男性が出てきた。
「ユーカ様でいらっしゃいますね。お帰りなさいませ。わたくしはこの家の執事を承りましたアントニーと申します。何卒よろしくお願いいたします」
「よ、よろしくお願いします」
執事って!と驚いて噛んでしまう。そして、つい敬語になってしまう私に、『敬語は必要ありません』との声。これは、シンシアと同じパターンなの?!
ユーカが心配していたような豪邸ではなかったが、その家には執事がもれなく付いていたのだった。
読んでいただき、ありがとうございました。次話は、9月1日の11時投稿予定です。よろしくお願いします。




