帰還の旅開始です!
魔法陣を抜け、魔王の影を見つけた森に戻ってきた私達。ざっと森の中を歩いて回ってみたが、魔物は現れず気配を感じることもなかった。どうやら魔王の討伐とともに、魔物も消えたようだ。
野生の動物達も魔物が消えたことを敏感に察知したようで、森に戻ってきており、森本来の姿を取り戻したようだった。王都への帰還中、他の場所も見て回るつもりだが、おそらくどこも魔物は消えているはずだ。感覚でだが…魔王討伐前のどこか歪んだように感じた空気が、討伐後は綺麗に晴れているように感じるのだ。それは、討伐したからこそわかる、以前との違いだった。
今夜はこのまま森の外で野営をし、明朝から王都への帰還の旅に発つことが決まった。森を歩いて回った時にショーンさんが狩ってきてくれた野鳥を、ありがたく夜ご飯で頂くことにする。
帰還の旅は、行きの旅よりはゆとりを持って旅程を組むことができる。もちろん報告は早い方が良いから、そこまでのんびりはできないが、大きい街には常駐の騎士団もいるから、王都へはそこから取り急ぎの第一報を上げてもらう事も可能だしね。
(とりあえずは魔王の脅威が消えたことが伝われば良い。魔王の残した言葉とか…詳細な報告はそれからの話だ)
翌朝、簡単な朝食を済ませた私達は、1番近い町に向けて出発した。立ち寄る町々で魔王の討伐成功を告げて回る。大きな街ではシュール王国とナハト国の王都へ向けて、第一報を上げてもらうように依頼した。どこの町でも町中が歓喜に湧き、私達も手厚いもてなしを受けることになった。あまりに大げさなものは辞したが、喜びに水を差すのもよくないということで、行きの旅と同じように宴には参加させてもらい、あとはゆっくり休養を取らせてもらうのだった。
そうして、旅を続けること2ヶ月程。魔物の討伐がない分、行きの旅よりもゆっくりの道中だったが短期間で、シュール王国とナハト国の国境である深淵の森へと辿り着くことができた。
深淵の森も魔物が消えた今では、特に大きな危険はない森になっている。森の中心では獣も出たが、皆にかかれば…むしろ獣の方が逃げていく感じなのだ。そうして、順調に深淵の森も抜けてナハト国へ入り…ついにトーガ村へと到着したのだった。
トーガ村へ着くと、村長さんやトーマさんを始め、村人全員が出迎えに集まってくれていた。トーガ村まであとちょっとというところで、村の子どもと出会い、これから村に向かうことを伝言してもらったのだ。
魔王討伐の旅はかなり長く感じたけれど、実際のところはトーガ村を発ってから1年も経っていない。魔王討伐の旅としては、かなり順調な方だったのだろう。すべてディーンさん達のおかけだけどね。
1年も経っていないのだから、トーガ村の皆もほとんど変わっていない。それが、無性に懐かしく…ようやく討伐の旅が終わったと、心の底から思えるのだった。
私が住んでいた村ということもあって皆が気を遣ってくれ、トーガ村では数日を過ごせることになった。次の街まで移動すれば、そこから王都までは馬車を使うこともできるのだからと、『ここで急ぐ必要はない。ゆっくり過ごそう』と言ってくれる皆に感謝だ。
トーガ村では皆は村長さんの家に泊まり、私はトーマさんの家に泊まらせてもらうことになった。トーマさんが、2階の部屋をそのまま使えるように残しておいてくれたのだ。トーガ村で過ごした期間な決して長くはないけれど、この世界では私の故郷だ。やはり、自分の部屋と思えるところで過ごすのが、どんな高級な宿屋さんよりも安らげるのだった。
トーガ村での数日の滞在で、すっかり旅の疲れを癒すことができた。これから、また王都へ向けて出発だけど、残りの旅程はこれまでのことを考えれば、ごく僅かだ。
(折角だから、少しくらいは王都を見て回りたいな)
気持ちに余裕が生まれているのだろう。そんなことを考えながら、トーガ村の皆に見送られ、王都へ向けて出発するのだった。




