治癒術師の意義って?
町長さん主催の歓迎会は、町の中央広場に席が組まれて行われた。町長さんと歓迎される側の私達には席が用意されているけど、他の町民の人達は立食のような感じだ。勇者一行の歓迎会ということで、皆が参加したがるけど、そんなに大勢が集まれる会場は広場くらいしかない。割と大きい広場だけど、ここに全員分の席を作ろうと思ったら、さすがに狭くなるし準備も大変なのが分かりきっている。だから、こういう形に落ち着いたのだろう。
会場内に設置されたテーブルには様々な料理や飲み物が並び、広場の周りには屋台のようなものまである。私たちの席には料理が運ばれてきているけど、屋台も気になってしまう。自分ではそこまで屋台を見ていたつもりはなかったのだけど…挨拶に訪れる人達が落ち着いた頃、ディーンさんから『そんなに屋台の飯が気になるなら、今から行ってみるか?』と聞かれて…。
(そんなにわかりやすい程、屋台のこと見てた?!どうしよ…恥ずかしい…)
「ん?行かないのか?」
「…行く」
ここまできて行かないというのも…そう思って、ディーンさんと屋台へ向かうことにするのだった。
屋台を前にすると、さっきまで恥ずかしさで凹んでいたことは忘れてしまう。もちろん席に並べられた料理も美味しかったけど、屋台がいいのは出来たてが食べられるところだよね。
いろいろな屋台に目移りしてしまって、なかなか決められないでいると、またディーンさんから声がかかった。
「決められないのか?食べきれなかったら食べてやるから、気になるものを全部買ってもいいんだぞ?」
(あぅ…。またバレバレだったんだ…)
「…じゃあ、これと…これにする」
買ったのは海鮮料理と、ホクホクなポテト。出来たての料理はすごく美味しかった。たくさん食べて、お腹は大満足の歓迎会だった!でも、自分は感情が顔に出過ぎているのではと思った会でもあった。それは、もうちょっとなんとかしよう!そう思って、その日は眠りにつくのだった。
次の日は午前中を補給に当てることにした。装備品は丈夫なマントのおかげで大丈夫だから、必要なのは薬液だ。必要な量がなかったら、薬草の採取からしてもいいかもしれない。そう思いながら、薬液を扱っているお店に向かうのだった。
お店には、必要な薬液は揃っていた。薬液を包んでもらって、代金を支払おうとすると、店主さんがおずおずとある提案をしてきた。
「お客様は勇者様一行の治癒術師様でいらっしゃいますよね?」
「はい、そうですよ」
「代金は必要ないので、宜しければ…厚かましいのは重々承知の上で、お願いをさせて頂きたいのです」
「??なんでしょうか?」
「見ての通り、今ここで扱っている薬液には中級魔法までしかかかっておりません。治癒術師がこの地域では、不足しているのです。中級薬液だけでは、助けられる怪我や病も助からない時があります。術師の巡回の度に魔法をかけてもらってますが、次の巡回まで中級薬液だけでもつかどうか…。宜しければ幾つかの薬液に、上級魔法をかけて頂きたいと思いまして…。可能であれば、神級魔法も…」
「大丈夫ですよ。では、薬液を用意してもらえますか?半分は上級魔法を、残り半分には神級魔法をかけておきますね。神級魔法の方が効果も大きいですし、魔法の持続期間も長いですけど、効き目が高いものを飲めば良いという単純なものでもありませんしね。上級薬液もあった方がいいでしょう」
「ありがとうございます!早速、用意してきます!」
店主さんと店員さんが総出で用意した結果、あっという間に私の目の前に薬液の列が出来上がった。半分の薬液に上級魔法をかけたあと、残りの半分に神級魔法をかけていく。
【神の力によりて癒しを】
そうして、完成した銀色に輝く神級薬液に、皆感動しているようだった。実際のところ、私の存在は魔王討伐の旅の中では、あまり役にたっていないと思う。皆に守られてばっかりだしね。
でも、討伐の旅で立ち寄る村や町では、こうやって役立てることがあるのかもしれない。それが、私が旅を続ける意義になるのではないか。そして、そうであれば良いと思うのだった。